JICA海外協力隊60周年を迎えて ― ペナン発・数学教育
2025.10.01
JICA海外協力隊 2023年2次隊
数学教育隊員 関谷敏雄
このたび、JCKLニュースレターに寄稿する機会をいただき、心より感謝いたします。現在、JICA海外協力隊のボランティアとしてペナンで活動しておりますが、あわせてペナン日本人補習授業校でも数学の授業をお手伝いしています。特に補習校関係の皆さまには、日頃から温かいご支援をいただいており、この場をお借りして改めてお礼申し上げます。
今年は、JICA海外協力隊*が派遣されてから60年という節目の年にあたります。そして来年1月には、マレーシアでの活動開始から60年を迎えます。この記念すべきタイミングに合わせて、日本人会の皆さまに、現在のJICA海外協力隊の活動について少しご紹介できればと思います。なお、私はシニアの年齢に該当するため、「青年」のつかない「海外協力隊」として活動しています。
私は高校の数学教員として38年間勤めた後、定年退職を機にJICA海外協力隊として海外での教育支援に携わることになりました。最初の派遣先はソロモン諸島で、国立大学にて2年間、現地の学生に数学を教える経験を得ました。そして現在は、再びJICA海外協力隊として、マレーシア・ペナン島にあるSEAMEO RECSAM(シーメオ・レクサム)で活動しています。
SEAMEO RECSAMは、Southeast Asian Ministers of Education Organisation Regional Centre for Education in Science and Mathematics(東南アジア教育大臣機構 理数教育センター)の略称で、1967年に設立された理科・数学教育の専門機関です。東南アジア各国の教員や教育指導者に対する研修、教材開発、研究支援などを行い、理数教育の質の向上と地域協力の促進を目的としています。
RECSAMには、これまでにもJICA海外協力隊が派遣されており、現在は理科教育で8代目、数学教育で2代目の隊員が活動中です。私はその数学教育部門における2代目のボランティアとして、さまざまな研修や教材開発を担当しています。
普段の活動としては、まず教員を対象とした研修ワークショップに関わっています。東南アジア各国の教員や教育関係者を対象に年2回開催される「レギュラーコース」や、JICAとマレーシア外務省が共催し、アフリカ地域の関係者を招いて実施する「第三国研修」などがあります。また、私の赴任後に始まった取り組みとして、ペナン教育局との共催による地域教員向け研修も2回実施しました。
一方、生徒を対象とした活動も行っており、タイからの中高生を対象とした数学ワークショップを年に数回実施しています。さらに、地元の団体であるペナン数学プラットフォーム(Penang Math Platform)と連携し、生徒向けのワークショップを継続的に開催しており、すでに行ったものも含め、私の任期中に計7回の実施を予定しています。ワークショップは英語で行うため、言葉の面で苦労することが多々あります。
その他にも、セカンダリースクールでの教材展示を通じたショーケース活動(年5回程度)や、教育用ビデオの制作(年間4本程度)にも取り組んでいます。これらの活動を通じて、理数教育の楽しさや奥深さをより多くの人に伝えることを目指しています。
RECSAMでの活動とは別に、冒頭で触れた日本人補習授業校での授業も、私にとって大切な活動のひとつです。ご存じの方も多いと思いますが、補習校は土曜日に開かれ、普段はインターナショナル・スクールなどに通う子どもたちが対象です。教科は主に国語ですが、数学もあり、私は中学数学を担当しています。使用するのは日本の教科書です。
では、生徒たちは普段の学校で数学を学んでいるのに、なぜ補習校でも学ぶのでしょうか。
その理由のひとつは、日本と英語圏で数学教育の内容や考え方が大きく異なるからです。英語圏では理科とのつながりを重視し、幅広く学びます。一方、日本では数学特有の内容を精選し、深く掘り下げて学ぶ傾向があります。私はむしろ、日本の数学教育が独特なのではないかと感じています。そして、生徒が将来日本に帰国して中学や高校の数学に触れたとき、できるだけ早くその学び方に慣れることができるよう、補習校での数学授業は大きな意義があると考えています。
配属先の上司であるサイード博士からは次のようなコメントをいただいています。
「JICAボランティアの関谷敏雄氏は、任期を通じて優れた働きをされています。コミュニケーションが取りやすく、常に協力的で、他者にも親切であり、チームでの仕事にもよく馴染んでいます。時間を守る意識が高く、信頼性もあり、あらゆる活動において大きな支えとなっています。」
任期も残りわずかとなりましたが、引き続き配属先の期待に応えられるよう、微力を尽くしたいと思います。
*JICA海外協力隊
JICAボランティア事業によって派遣される方々の総称。
青年海外協力隊の他、シニア海外協力隊、日系社会海外協力隊などがある。
https://www.jica.go.jp/volunteer/60th/
本稿は、KL日本人会ニュースレター2025年10月号にも紹介されています。
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