jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

ミンダナオ和平への取り組み

ー 平和の配当と明るい未来をすべての人々へ ー

半世紀にわたる武力紛争が、対話を通じた和平の実現に向かっています。そこに至るまでには、JICAを含む日本の多くの関係者の地道な協力と活動の積み重ねがありました。
フィリピン南部のミンダナオ地方は、国内で2番目に大きいミンダナオ島を中心とする地域であり、国内人口の約24%にあたる2,625万人が暮らしています。肥沃な土壌が広がり、台風等の自然災害による被害も比較的少なく、「約束の地(Land of Promise)」と呼ばれる程経済的ポテンシャルが高い一方で、長年にわたる紛争により、その豊かな潜在能力を十分に発揮できずにいました。しかし、2014年の包括的和平合意を機に、ミンダナオは恒久的な平和と発展の道を歩み始めています。JICAは、ミンダナオの和平プロセスと持続的な発展を支援するため、日本政府のコミットメントのもと、多岐にわたる協力活動を展開してきました。
本特集ページでは、JICAがミンダナオの地に根ざし、人々の暮らしに寄り添いながら進めてきた和平プロセスへの協力の軌跡とその成果、そして未来への展望をご紹介します。

ミンダナオ紛争について

ミンダナオ島には13世紀頃にイスラム教が伝来し、その影響下でスルタン(国王)を中心とする独自の王国が勃興しました。特にスールー王国やマギンダナオ王国は貿易を通じて繁栄し、スペインによる度重なる侵略に対しても強力に抵抗しました。しかし、フィリピンがアメリカの統治下にあった1912年に始まった入植政策により、多くのキリスト教徒がミンダナオ島に入植しました。第二次世界大戦後のフィリピン独立以降も、フィリピン政府は入植政策を踏襲し、合法的にミンダナオ島の先住民やイスラム教徒の先祖伝来の土地を収奪し、入植者に無償で土地を提供するなど、次第にイスラム教徒とキリスト教徒の間の緊張は高まっていきました。

そのような中、1968年に発生したフィリピン国軍士官による同国軍ムスリム系兵士の殺害事件(通称、ジャビダ虐殺)をきっかけに、1971年にスールー出身の大学講師であったヌル・ミスアリ氏とハシム・サラマット氏を中心としてモロ民族解放戦線(MNLF:Moro National Liberation Front)が創設され、バンサモロ(Bangsa Moro、「モロ」の人々)の独立を目指した武装闘争を開始しました。1984年にはハシム・サラマット氏を議長とするモロ・イスラム解放戦線(MILF:Moro Islam Liberation Front)が分派し、MNLFとMILFは別々の道ながらも、それぞれの主義・主張に基づき、先祖伝来の土地、民族自決、そしてバンサモロの正義を求めて闘争しました。

長年の闘争を経て、MNLFは1996年に最終和平合意を、MILFは2014年にバンサモロ包括和平合意(CAB:Comprehensive Agreement on the Bangsamoro)をそれぞれフィリピン政府と結びました。CABには高度な自治権を有する「バンサモロ自治政府」の設立が明記され、2018年にはバンサモロ基本法(BOL:Bangsamoro Organic Law)が制定されました。翌2019年にはバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM:Bangsamoro Autonomous Region in Muslim Mindanao)の領域を確定するための住民投票が行われ、同年2月にCAB及びBOLに基づくバンサモロ暫定自治政府(BTA:Bangsamoro Transition Authority)が設立されました。コロナ禍の影響等により二度の選挙の延期がありながらも、現在は2025年10月に予定されているBARMMで初となるバンサモロ議会選挙の実施と、その選挙結果に基づくバンサモロ自治政府の樹立に向けて、フィリピン政府とBTAの協働の下で移行プロセスが進められています。

JICAのミンダナオへの協力方針

JICAは和平合意が達成される前の1990年代から一貫して、開発援助を通したミンダナオの和平プロセスを支援してきました。2006年、日本とフィリピンの国交正常化50周年の記念すべき年に、日本政府は「日本バンサモロ復興開発イニシアティブ」(J-BIRD:Japan-Bangsamoro Initiatives for Reconstruction and Development)を制定。J-BIRDの枠組みの中で、JICAと日本政府は無償資金協力、有償資金協力、技術協力、国際監視団(IMT:International Monitoring Team)への要員派遣等のあらゆるスキームを活用しながら、開発事業を通した平和構築支援を本格化させました。

現在、JICAは「正常化トラック」、「政治トラック」(※)、「人間の安全保障・質の高い成長」の三本柱を協力方針として掲げており、すべての人々に平和の配当と明るい未来の展望を届けるべく、日本政府や他ドナーと協力しながら事業を進めています。

「正常化トラック(Normalization Track)」と「政治トラック(Political/Legislative Track)」は2014年に署名されたCABに基づく概念です。「正常化トラック」では、①治安、②社会経済開発、③移行正義に関する取組が掲げられています。最も大きなコンポーネントは戦闘員の武装解除で、武装解除後には、社会経済開発プログラムの一環として、身分証明書の発行と10万ペソの現金支援が提供されるとしています。「政治トラック」は2018年に成立したBOLで具体化され、BARMMとその暫定政府であるBTAが設立されました。このトラックの下、BTA議会では優先度の高い法案の成立が進められ、自治政府樹立に向けた政治体制の確立を目指しています。