SDGsビジネス成功のポイント

JICAは、世界の先進的なSDGsビジネス事例について文献・インタビュー調査を行いました。調査から得られたSDGsビジネスの成功要因を、ビジネスモデル毎に分類し、分析した結果をご紹介します。各成功要因をクリックし、詳細解説をご覧ください。

1.SDGsビジネスの成功要因

SDGsビジネスの成功要因を、4つの軸から分析し、ビジネスモデル毎に類型化すると、SDGsビジネスの成功要因を、以下のとおり整理することができます。

SDGsビジネスの成功要因(全ビジネスモデル共通の内容)

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長期的視点での計画や取り組み(10年単位) ビジネス推進機能としてのリーダーシップ 適切な市場の選定 顧客の声を活用した商品開発と継続的な改良 巧妙なネットワーク戦略を通じた参入障壁の引き上げやブランド構築 継続的な収益モデルの見直しと内部相互補助(cross-subsidization)モデル構築 事業成長に必要な資金の確保 現地流通ネットワークの見極め サプライヤーを強化するための支援 製造基盤の確保 強いチームの構築・必要なメンバーの参画 人材確保のための工夫

SDGsビジネスの成功要因(ビジネスモデル毎の個別内容)

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柔軟な支払い手段の提供 多様なアクセスチャネル・タッチポイントの用意 コミュニティ型アプローチ ホールピラミッドアプローチ エンドユーザー以外からの収入源構築 スペックイン ワンストップソリューションの提供

各案件のビジネスモデルは以下の通り整理しています。
また、各企業の事例は、「SDGsビジネス事例集」をご覧ください。

図表:調査対象企業一覧(ビジネスモデルの種別)

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1.1 成功要因(全ビジネスモデル共通)

世界の先進的なSDGsビジネス事例について文献・インタビュー調査を行った結果、SDGsビジネスの成功要因のうち、全てのビジネスモデルに共通する要素として重要と考えられるものを上記の通りに要約し、日本企業がSDGsビジネスに取り組む上で参考とするための示唆として取りまとめ、各項目を具体的に紹介します。

全体戦略・方針

長期的視点での計画や取り組み(10年単位)

成功事例では、短期的な目線ではなく、中長期的な目線でビジネスを構築しており、その計画単位は通常の先進国事業で見られる3~5年といったスパンではなく、基本的に10年単位です。SDGsビジネスを新興市場への早期参入・ブランド構築の一環として、あくまでも本業と切り離さずに、長期的な目線をもって取り組み続け、長い目でビジネスを構築していることが、事業が継続し成功している要因となっています。

(なお事例の中には事業開始後の年数が浅いものも存在しますが、この場合にも、創設者は当該国・業界での経験・知見を有しており、何年間も現地における取り組みを継続しています。)

彼らは経済社会の変遷から生じるリスクと機会を見据えた上での長期ビジョンとプランを有しており、将来を見据えた長期市場参入計画をもって、長期的プランに基づいたリソース配分・投入を行っています。また、SDGsビジネスの成立には当然時間がかかるものという前提を理解し、組織の共通認識とするとともに、先進国における事業と同様に考えないためのフレームを機能として保有しています。

ビジネス推進機能としてのリーダーシップ

複数の成功事例において共通して、ビジネスを推進するためのドライバーとなるリーダーシップの重要性が挙げられます。多くの企業がこのリーダーシップを成功要因として言及しており、さらに大企業の事例では、リーダーシップを基に組織管理を強化するための工夫として、組織全体の目指す姿を、全世界に存在する拠点や各従業員にまで浸透させるための取り組みが行われています。リーダーシップは、あらゆるステークホルダーとの円滑なコミュニケーションを促進し、事業を加速させるドライバーとなります。

例えばUnilever社では、SDGsビジネスをメインストリーム化させるために、最高経営者(CEO)およびサステナビリティチームが先導し、SDGsの社内外ブランディングを積極的に行いました。例として、月1回発行される社員向けCEOレターには、業績や新商品の話題等に加え、必ずサステナビリティについての記述をしています。また、社員一同が集まるタウンホール・ミーティングでも、冒頭でサステナビリティの話をしています。Unilever社のサステナビリティの取り組みを推進するサステナビリティチームはコミュニケーションチーム傘下に置かれ、コミュニケーションチームのグローバル統括者はChief Marketing and Communication Officerとなっています。こういった組織構造を導入したことにより、サステナビリティの取り組みと同社のブランドとの繋がりが強化され、全世界に存在する同社の拠点においても、より積極的にSDGs・サステナビリティに関連する取り組みを行う動機付けが行われています。さらに全社標準のサステナビリティKPIを設定・導入したことにより、サステナビリティに関連する経営の目標を各拠点にまで落とし込み、各拠点の事業上の意思決定においても、サステナビリティの観点が重要視される管理システムが構築されています。

また、Waterlife社は、マネジメントの熱意やプロフェッショナリズムが主要な成功要因であると挙げています。

マーケティング

適切な市場の選定

市場環境の分析・把握はビジネスの成功の観点から非常に重要です。正しい成長市場を選ぶことで、半ば自動的に事業の成功に近づくことができるため、特に事業開始前の市場環境の分析・把握は極めて重要と言えます。一方で、途上国におけるビジネスにおいては市場に関する整ったデータが十分に揃わない事も多いため、データが限られている中でも、対象国に対する深い洞察力、判断力を持ち、市場を把握・分析することが要となります。

例えばSWC(Sunlight Water Center)のサイト選定は、開発インパクの発現とビジネスの経済的な持続性を担保する上で、非常に重要となります。コミュニティの大きさ、代替水資源の有無、管理・監督するTechnoServeの人員がいるアブジャからの距離などを選定基準として設け、主にはアブジャから車で4時間以内の、郊外と地方の間の立地を戦略的に選びます。

Ubongo社は、出口戦略立案時には人口・言語・市場参入の難易度・放送可能なTV局の存在・提携先の有無などを基準に事業特性分析を行った上で、第一にコンテンツを受信する家庭数の拡大の見込みが明確に立つ地域であること、次に目標額の資金調達ができる地域であることを基準に進出の判断を行います。

Sun Exchange社は、アフリカ地域で、マイクログリッドへの10億ドルの投資機会、アフリカ市場C&I部門への50億ドルの投資機会が存在するとし、6億ドル以上の投資を予定しています。途上国の太陽光エネルギー市場は成長しつつあり、10年間では対応しきれないほどの商機に溢れているため、事業拡大のスピード加速、他国市場への新規参入を成長戦略の第一段階と捉えています。

Fenik社は、現在はモロッコとアメリカで事業展開しており、今後はケニア、インド、ナイジェリア等への拡大を検討しています。モロッコへの参入は、マーケットニーズが大きかったことに加えて、創設者が2年間住んだ経験を踏まえ決定したと言います。またインドとナイジェリアは、ターゲット人口およびマーケットニーズの大きさから有力な市場だと認識しています。

Kobo360社は、ナイジェリア市場への参入は、創設者がナイジェリアで働いた経験があること、また南アフリカ地域で最も物流市場規模が大きかったことが理由として挙げられます。その他アフリカ地域への参入要件として、ナイジェリアと同等の物流業界の非効率性を抱えていること、市場規模の拡大が見込まれること、大口クライアントが期待でき物流ニーズがあることが挙げられます。この要件を揃えることによって、迅速に事業をスケールさせることができると捉えています。

顧客の声を活用した商品開発と継続的な改良

多くの成功企業に共通していたポイントとして、徹底したマーケットインでのアプローチが挙げられます。特に途上国で事業をする場合には、現地で展開を予定していた製品・サービスが、現地のニーズに合致せず受け入れられないということが多々あります。このため、既存の製品・サービスありきの戦略やビジネスアイデアに執着せず、顧客とともに商品を開発し改良し続ける姿勢や、顧客の体験を軸に製品を開発する取り組みが成功のポイントとなっています。また現地顧客のニーズを考慮した結果として、非常に分かりやすくシンプルで、メンテナンスも簡単な技術製品の開発といったと特徴も見られます。事前調査等によって顧客の潜在ニーズを捉え、そのニーズに的確に対応することで、必要とされる機能を厳選し、同時に余分な機能をそぎ落としたシンプルで安価な製品の開発が実現されています。

例えばUbongo社は、「ユーザー中心で革新的かつ、ローカルに徹したもの」というコンテンツ作りの戦略を掲げています。子どもたちが理解できる教育コンテンツを作成するために、子どもたちと一緒にアイディアを練り試作。スクリプトからアニメーションまで全ての内容に、ユーザーテストで収集したフィードバックを適応させることで、制作初期段階より子どもの嗜好を取り入れています。また、コミュニティのメンバーやパートナーも現場に招待して、生産段階から一緒にエピソードを制作しています。

Waterlife社は、WHOのガイドラインおよびISO105000規格要件を満たした安全な水を提供しており、品質を保証するために毎月研究所での品質検査を行っています。「水」という商品を扱うにあたり、顧客が最も重視する価値である「安全性」について、一切妥協しないこだわりが同社の成功要因の一つです。また経済、社会、環境という観点から持続可能なソリューションを提供することが同社の軸となっており、浄水システムは財務面から持続的な運用が可能かという観点で検討されています。

Pula Advisor社では、農業保険と営農指導をセットで販売し、保険の良さを農民に実感してもらったことが最大の成功要因となりました。競合他社は農業保険と営農指導のどちらかのみに焦点を当てており、農業保険の利点を農民が実感する機会が少ない中、競争優位性を構築しました。

Fenik社は、モロッコのユーザーからの意見を取り入れることにより、軽量で持ち運び可能な簡単なデザインの食品向け冷蔵ボックスの開発を実現しました。

Grillo社は、現在世の中で普及している地震センサーは高機能で高価なため、一般市民にとって必要な機能に絞る工夫を凝らしました。ここ数年でセンサー関連のテクノロジーが急速に発展したこと、同社の数学者と地震学者が開発した優れたアルゴリズムを採用した人口知能をセンサーに搭載したことによって、一般市民のニーズに必要な機能を維持したまま価格を下げることに成功しました。USAIDは同社の製品が先進国でも通用するレベルのテクノロジーだと認識しており、同社も価格を抑えるために機能を絞っているものの、先進国でも通用する高いテクノロジーを有していると認識しています。

巧妙なネットワーク戦略を通じた参入障壁の引き上げやブランド構築

ビジネスを成功に導くためには、市場への参入、競合優位性の獲得にあたって、ブランドや信用をどのように構築するかが非常に大きな課題となります。特に途上国において、現時点でのプレゼンスが低い企業が、自社リソースだけでは早急には賄うことができない様々なステークホルダーに対する信用度をどのように効果的かつ効率的に構築するかは大きなテーマとなります。独自の活動でこれを獲得するには多大な労力と時間を要するため、調査対象企業の多くが、上手なパートナリング等を通じて急速に巧妙にネットワークを拡大することで、効率よく市場における信頼を獲得する事例が確認されました。企業に限らず、ドナーや国際機関、NGO、評価機関等、多様なプレイヤーの動向を把握し、上手に連携することこそが、成功のポイントと言えます。

例えばmClinica社にとって、薬剤の販売動向等に関わるデータは重要な資産となります。一方、同社が運営する薬剤市場のデジタルプラットフォームに参加する薬局・薬剤師は基本的に小規模商店であり、銀行口座を持たないことが多い。同社は銀行や金融機関とパートナーシップを構築し、同社プラットフォームに参加する薬局・薬剤師の銀行口座の開設を促すことで、取引のデータ化に成功しています。同社では、より多くの薬局・薬剤師、製薬会社、患者、政府、非政府組織のプラットフォームへの参加を促し、お墨付きを与えることにより、信頼性や魅力が増した点を強調している。

ファイナンス

継続的な収益モデルの見直しと内部相互補助(cross-subsidization)モデル構築

成功している企業の多くは、事業の創成期には当初計画の事業に集中し、成長期に差し掛かった段階でビジネスモデルの見直しと内部相互補助モデルの構築等により、利益を確保・拡大しながら自社の目指す活動に取り組み続けるための工夫を行っていました。

例えばSWC社では、水だけでなく、その他生活用品やサービス(食品、トイレタリー、携帯充電サービス等、Unilever社の商品も含む)も販売しています。その他商品やサービスからの収益を利用することで、低所得層の顧客に対し、安価な価格で水を販売することが可能となっています。また、有料の水に対する需要が減少する雨季についても、その他商品やサービスの売上で各SWC加盟店の固定費を賄うことを可能としています。

Sanivation社は、マネタイズするのが難しい下水・汚物処理サービスを提供するために、糞便からバイオマス燃料を作り、主に産業や家庭に販売するという、別の収益源をつくっています。これにより、下水・汚物処理のコスト回収ができるようになっています。また事業開始当初は、家庭向けコンテナ型トイレの提供に集中していましたが、事業が拡大するにつれて支払い能力を有する顧客にリーチできなくなりました。そのため政府機関やUNHCRから資金援助を受ける難民キャンプ等、支払い能力のある顧客にサービスを提供する方針に切り替えて収益を確保しています。

Fenik社は、先進国でアウトドア製品として商品を販売し、そこで得た利益をもとに途上国向けの製品を低価格で販売しています。

事業成長に必要な資金の確保

SDGsビジネスの中には、その特性上、創成期にはグラント等を活用した小規模な活動を行っている企業も多くあります。しかし、最終的にビジネスとして成立させ継続させるためには、いずれ外部からの資金調達、あるいは内部留保の蓄積による資金を活用し、組織を成長させる必要があります。内部留保がない場合には、様々な工夫を凝らし事業資金を確保していく必要があると言えます。特に途上国におけるリスクを伴うビジネスへの出資を得るためには、途上国マーケットに対する深い知見をもった良い出資者に出会う必要があります。実際に今回調査対象企業の多くは、ドナー等政府機関だけでなく、民間のVCやインパクトファンド等からの出資を受けています。

例えばSun Exchange社では、フェーズ・スケール・経験に応じてファイナンスのオプションを把握すること、選択が出来ること、グラント・他の良さを理解した上で多様な選択を検討することが重要であると述べています。

Farmcrowdy社は、多数の投資家との繋がりがあることを成功要因として述べています。

またユニークな事例として、East Bali Cashews社は、政府から助成金を受け取ったスタートアップは、少なくともインドネシアでは成功していない述べています。これは、経験の浅い起業家は、ドナーの複雑な利益関係を理解しておらず、資金運用にも慣れていない現状があり、さらに事業に失敗したとしても起業家に金銭的なデメリットがないこと、次のラウンドの資金調達に向けた活動に労力を割くことによって事業へのコミットが疎かになること、といった原因であると分析しています。また、ドナーは自分たちの資金提供がスタートアップに与える影響についてより深く分析する必要があるとも述べています。この意見も、事業の成功のためには、資金確保のノウハウを獲得すべきという事実の裏返しと言えます。

オペレーション

現地流通ネットワークの見極め

成功事例では、販売網構築にかかる資金や人員等のリソースを、現地企業とのパートナーシップやその他機関との連携により確保していました。提携先が持つ販売網の活用や、資金調達、人材活用を行うことで、新規で流通ネットワークを構築する負担を軽減し、効果的かつ効率的な販売網の構築が可能となります。さらにこの時、商品・サービスの品質を維持しながら最大限にスケールが可能な提携先を見極めている企業が、成功を実現していると言えます。特に従来通りのローテク製品に関しては、その普及の大きなポイントは流通ネットワークの見極めにあると言えます。

例えば、栄養強化ヨーグルトを販売するGrameen Danone Foods社では、顧客層や地域で販売チャネルを分けています。都市部では、高所得層と中間所得層をターゲットにスーパーマーケットやコンビニエンスストア等の小売店を活用し、より高価格な商品を販売しており、120名の営業員を有する25の独立代理店が小売店に営業を行っています。郊外では、家族経営の小規模店舗を活用しており、50名の営業員を有する15の独立代理店が小規模店舗に営業を行います。高速道路にアクセスしやすい市街地に拠点を置くことで、広域をカバーしています。また地方では、「Grameen Ladies」として女性が訪問販売形式でヨーグルトを売っており、女性は販売代金の一割をコミッションとして受け取り、売れ残りは本部が回収します。このチャネルによる販売は10%程度であるものの、今後は拡大が見込まれ、特に工場周辺での普及率とリピート率の増加に力を入れています。

サプライヤーを強化するための支援

成功事例では、将来的な事業のスケールを目的として、サプライヤーを強化する支援を行っている企業もあります。そのような事例では、サプライヤーを強化し、彼らの事業がスケールすることで企業もビジネスを拡大できるWin-Winの仕組みが構築されています。

例えばGrameen Danone Foods社では、その主要なサプライヤーである酪農農家(平均的に牛3頭所有する小規模農家)に対し、獣医の派遣や年6回の研修機会を提供し、サプライチェーンの強化を図っています。また、脂肪およびタンパク質の含有量に応じた、公平かつ透明な買取価格を設定しています。さらに、安定的な供給を促す目的で、数か月連続して安定的な量の生乳を生産できた酪農農家にはボーナスを支払う取り組みを行っています。

East Bali Cashew社は、主要原材料であるカシューナッツを調達する上で、WhatsAppというSNSアプリを利用して、「逆オークション」を実施している。同社は調達したいカシューナッツの量と調達日を設定し、それに対し、カシューナッツ農家は売りたい量と価格を提示する仕組みです。透明な買取プロセスを提供することで、カシューナッツ農家との信頼関係を強化することができたほか、高品質なカシューナッツを最もリーゾナブルな価格で調達できています。カシューナッツ農家に対して、他の換金可能な作物の紹介や、持続可能な栽培技術の普及等、農家を支援するプログラムを複数実施し、サプライチェーンの強化を図っています。

MIMOSA TECHNOLOGY社は、小規模農家、大規模農家のいずれも対象としており、それぞれの顧客グループによってアプローチを変えています。小規模農家は、出口戦略としての商品販売に課題を抱えているため、灌漑・灌水同時施肥の技術そのものよりも、出口戦略部分の手助けを積極的に行い、将来的に灌水同時施肥の実施や栽培作物品種の拡大、ひいては同社製品の活用へと繋がるよう、サプライヤー強化支援を行っています。

製造基盤の確保

製造プロセスを有する事業活動において価格競争力のある商品を提供したい場合に、機能や製造に係るコストを抑える等の低価格化の工夫を行う必要がありますが、その実現は難しいという課題があります。成功事例では、製造基盤を確保することで、製品・サービスの品質を維持しながら、低価格化と安定供給を実現しています。

例えばWaterlife社では、安全で品質の高い水を顧客に提供するための基盤となるWHOガイドラインおよびIS15000規格を満たす水浄化システムを提供する能力が、同社の成功を支えていると述べています。

強いチームの構築・必要なメンバーの参画

成功事例では、特に事業の創成期において、専門性・知見・業界のネットワークを有するメンバーを迎え入れることが重要であるという点が強調されています。主要メンバーが豊富な専門的知見および業界における知見を有することで、現地のニーズに沿ったソリューションを提供することが可能となります。さらに該当分野で多くの経験および人的ネットワークがあることで、有益なパートナーシップの構築や資金調達も可能となります。

例えばGrillo社の主要メンバーは、対象市場における豊富な専門的知見を有する専門家でもあり、現地のニーズに沿ったソリューションを提供できます。さらに、創設者は社会的インパクトに関する分野で多くの経験および人的ネットワークがあるため、同社にとって有益なパートナーシップの構築や資金調達を成功させてきました。

Kobo360社でも熱意や専門的知見が豊富なチームの存在がKobo360の成長を支えてきたこと、またそのチームメンバーが顧客の要求に応えるために粘り強く挑戦する力を備え合わせていることが重要であったと振り返ります。

人材確保のための工夫

特に市場が成長する途上国において才能ある人材の確保は容易ではなく、従業員の採用・リテンションは企業にとって重要なテーマとなります。優秀な人材は引く手数多のため、長期的な人材維持・育成は課題となりがちです。従業員を引き留める手立てとして、成功事例では、適切な昇進・昇給制度、異動制度・教育制度の拡充の他、従業員福祉の充実を図るなど、労働内容そのものや労働に対する報酬の工夫を行っています。特に途上国現地政府が提供できていない福祉サービスを、企業が福利厚生として独自に手当てすることで、人材確保における他社との差別化を実現できるという意見があります。

例えばSanivation社では、地元での雇用を促進しており、充実した昇進制度を導入することで非常に低い離職率を実現しています。従業員が離職を検討している場合、また従業員の仕事への満足度が低下した場合には、社内の別の部署への異動や、ポジションに空きがある場合には昇進を提案しています。実際の事例として、警備員として雇用していた従業員の研究所や製造部門への異動や、清掃員から事務職への異動を認め、また、公会計を修学すると財務部へ昇進させることもありました。

East Bali Cashew社は、従業員とその家族のための診療所や保育園など、従業員の福祉を充実させています。現地政府による公共サービスが限られている中、従業員が生産活動に集中できる環境を企業が提供することが重要と判断した結果の施策であると述べています。また従業員のマネジメントも戦略的に重視しています。多くの従業員が未経験で入社しますが、モチベーションの高い従業員には継続的にトレーニングを実施し、監督や管理職まで昇進させます。また、約500人の従業員のうち400人はカシューナッツを生産する兼業農家であり、彼らは朝と夜には農場で働き、日中は製造施設で働きます。カシューナッツの生産から商品が完成するまでの全過程に従事することで、モチベーションを高めることができると言います。従業員のほとんどが現地の人材ですが、現地語を話せる外国人スタッフも4名おり、異なる視点から意見を提供しています。従業員は業務として割り当てられた作業をこなすだけでなく、自由にアイディアを試す機会が与えられます。同社は労働集約型の事業ではありますが、インドネシアの農村に適したビジネスモデルのため、人材の確保には問題はなかったと言います。一方で経済が急成長する途上国で、才能ある人材を獲得・維持するためには、市場平均以上の賃金を提供することや、従業員が生産活動に集中できる環境を提供することがポイントとなります。2014年には工場の施設内に就学前の子ども向けにプレスクールを設立し、毎日60人の子どもを受け入れています。プレスクールには定期的に内科医の訪問も受け入れており、同社の援助を受ける子どもたちは「AnaKardia Kids」と呼ばれ、安全で健康で豊かな早期教育を受けられます。またCashew Family Foundationを設立し、農村での教育、営農指導、能力開発プログラムの提供をしています。工場直売店では、従業員やその家族に対して補助金付き商品の提供もしています。また教育奨学金の導入も検討していると言います。

従業員への福利厚生を充実させる背景として、従業員が心の充足・幸せ(wellbeging)を感じると組織への貢献意識が醸成され、結果として生産効率が高まる、という考え方があります。途上国では診療所やプレスクールといった公共サービスが十分に提供されていないため、企業が社会インフラの整備に貢献することが重要と考えられます。

1.2 成功要因(BtoC、BtoB、BtoGモデルの場合)

BtoC、BtoB、BtoGのビジネスモデルに固有の成功要因として重要と考えられるものについて、日本企業がSDGsビジネスに取り組む上で参考とするための示唆として取りまとめ、各項目を具体的に紹介します。

マーケティング

柔軟な支払い手段の提供

貧困層を消費者とするBtoCビジネスにおいては、顧客の支払能力に合わせた製品・サービス提供方法の工夫が求められます。成功している企業の多くは、初期費用を抑えるのみでなく、分割払いやレンタルリース等の仕組みを取り入れることで、消費者の支払可能性を高める工夫を行っています。フィンテックが急速に普及している現在、これを活用し金融サービスへのアクセス提供することや、PAYG(Pay-As-You-Go)に代表されるような柔軟な支払いオプションを提供する事例があります。またサービス利用にあたって事前デポジットを必要とする等、サービス提供側にリスクが発生しない仕組みを構築することも普及における鍵となります。また貯蓄習慣のない農村住民に対して、日々のやり取りから信用力を分析し、信用力の高い人々には高機能製品を販売する等の工夫も見受けられます。

例えばSun Exchange社では、設置費用が無料のリース式ソーラーシステムを提供することで初期費用を抑え、他の発電手段よりも安価に電力へのアクセスを可能にしています。また、売上は現地通貨あるいはビットコインでの取引が可能であり、クラウドを経由した暗号通貨によって、安全、スピーディー、ローコストでの太陽光発電システムの所有を可能にしています。

多様なアクセスチャネル・タッチポイントの用意

SDGsビジネスに限らず、商品の存在・価値を伝達するためには、小売店のフィードバック等を基に地道な販売促進活動を行うことが重要であると言います。特に途上国におけるビジネスでは、製品・サービス価値の普及のために、マス向けの広告のみでなく多様なタッチポイントが必要となります。

例えば MIMOSA TECHNOLOGY社では、彼らの事業が成功している要因として、サービスの魅力を農家に訴求できたことを挙げています。新技術を導入する場合、農家は抵抗感があり従来の非効率な方法に頼る傾向にあり、既存プロセスの中に新しい商品を落とし込む事こそが最も難しいポイントとなります。これに対応するため、農家に灌漑の実践や同社製品の使い方を教えるワークショップやイベントを数回開催することで、農家との接点を設け、普及につなげています。

Grameen Danone Foods社は、テレビCMを実施しても購買には結びつかなかったため、現在は対面でのプロモーションに力を入れています。具体的には、購入の意思決定のうち60%を占める子どもをターゲットとし、母親と子どもが栄養について学ぶ学校でのイベントの開催や、ヨーグルト1個の購入でステッカー、複数個の購入で定規をプレゼントする等のキャンペーンを実施しました。

コミュニティ型アプローチ

成功事例では、そのマーケティングのプロセスにおいて、コミュニティ型(community based)のアプローチを採用し、コミュニティのニーズをくみ取るとともに、顧客に対して商品価値を普及しています。

例えばUnilever社では、SDGsビジネスを展開する上で、コミュニティ型アプローチを採用し、コミュニティの声を取り込んだ商品開発・改良を行っています。

インドネシアにおけるmFarmerの事例でも、マネジメント含む現地チームは、実際に事業対象地域の農村に住み、顧客と生活を共にする中で、信頼を築き、またコミュニティのニーズをくみ取る手順を踏んでいます。

MIMOSA TECHNOLOGY社では、現地農家からの信頼を得やすいよう、販売や技術支援に関しては、コミュニティメンバーを活用するようにしています。特に小規模農家を対象とする場合、もともと接点のあるNGOからの紹介を得て、まずはコミュニティメンバーで構成される農家グループを形成します。その際、本人の意思があり、影響力があり、信用されている人物を、ネットワークを通じて発掘・採用し、コミュニティチャネルとしてグループに含めます。農家グループに対して製品を導入し、ここでの成果やフィードバックはネットワークを通じて伝達してもらいます。彼らとの協働が農家からの信用を得るのに非常に有効であると考えています。

Nafham社は、BtoCのマーケティング戦略として、生徒が同社を利用したくなるような仕組み作りをしています。参入初期段階は、コミュニティのフォーカス・グループを活用し、どのようなコンテンツにするか実験を繰り返しました。生徒が利用したくなる仕組みの例としては、生徒がビデオの説明や解答をすることでポイントが貯まるゲーム大会を毎月開催しています。生徒が教師の役割を担ってビデオ内の授業を説明するという、生徒にとってやりがいのある内容とした点がポイントと言えます。また、未登録の閲覧者に対しては、アカウントを作成することでメリットを得られるようにしており、登録者を増やすシステムを設計しています。今後は、授業の進捗状況や学習成果を評価できるようにしていく予定だと言います。

ファイナンス

ホールピラミッドアプローチ

貧困層を消費者とするBtoCビジネスの場合、利益率の低いビジネスとなることが多く、採算性確保のためには事業規模を拡大することが求められる一方で、競合商品や代替品にシェアを奪われ、その実現が困難となることがしばしばあります。成功している複数の事例に共通するのは、貧困層向けの製品やサービスを低価格に抑えるため、富裕層や先進国の購買力が高い顧客層向けには同製品の販売価格を高めに設定し、この組み合わせで事業全体の採算性確保をめざすホールピラミッドアプローチを取り入れている点です。各ターゲットに応じた価格を設定し、購買力が高い層向け製品を主な収益源とすることで、貧困層向けの商品・サービスの価格を低く抑える工夫をしています。

例えばGrameen Danone Foods社では、スーパーマーケット等を通じ、中流・上流階級の顧客に高い価格帯の商品を販売することで、低所得層を対象としたビジネス部門を補っている。

MIMOSA TECHNOLOGY社は、小規模農家、大規模農家のいずれも対象としており、それぞれの顧客グループによってアプローチを変えています。小規模農家は、出口戦略としての商品販売に課題を抱えているため、灌漑・灌水同時施肥の技術そのものよりも、出口戦略部分の手助けを積極的に行い、将来的に灌水同時施肥の実施や栽培作物品種の拡大、ひいては同社製品の活用へと繋がるよう、サプライヤー強化支援を行っています。また、現時点で同社製品利用料の全額を負担することが難しい小規模農家に対しては、利用料の一部だけ農家自身が支払い、残りはサステナビリティに関連するプロジェクトの費用から賄います。このプロジェクトは、新技術を農家に紹介することを目標とする現地農業省や、サプライヤー強化のため農家に投資したい大企業、世界銀行のように新技術の成功可能性を見極めたい組織等のプレイヤーによって運営されているものです。将来的には小規模農家が利用料全額を負担できるまで成長・スケールすることを目指し、そのために現在は農家支援を実施しています。他方、大規模農家は、製品利用料の全額を負担します。大規模農家の場合には、灌漑および灌水同時施肥の進め方や、同社製品の活用方法そのものが課題となるため、そこに対するフォローアップを中心に行うアプローチを採用しています。

エンドユーザー以外からの収入源構築

貧困層を消費者とするBtoCビジネスの場合、採算性確保のためには、上述のホールピラミッドアプローチの他にも、貧困層の消費者以外からの収入源を確保するようビジネスモデルを工夫する必要があります。成功事例において、その方法は、広告収入、コミッションフィー、著作権料、グッズ収入、サステナビリティプロジェクトからの助成等、様々です。

例えば教育コンテンツを制作・提供するUbongo社は、広告料、BtoBのコンテンツ販売益と著作権料、BtoCのグッズの販売収益、といった収益パイプラインを用意しています。

Waterlife社は、浄水システムの設置費用を政府機関や民間企業(CSR活動の一環として)に負担してもらっています。インドでは純利益の2%以上をCSR分野に投資することが義務付けられており、同社のCSR担当者は協働可能性のある企業に対し共同ブランドを構築するメリットを説明し、プロジェクトへの投資を促しています。

MIMOSA TECHNOLOGY社は、現時点で同社製品利用料の全額を負担することが難しい小規模農家に対しては、利用料の一部だけ農家自身が支払い、残りはサステナビリティに関連するプロジェクトの費用から賄います。このプロジェクトは、新技術を農家に紹介することを目標とする現地農業省や、サプライヤー強化のため農家に投資したい大企業、世界銀行のように新技術の成功可能性を見極めたい組織等のプレイヤーによって運営されているものです。将来的には小規模農家が利用料全額を負担できるまで成長・スケールすることを目指し、そのために現在は農家支援を実施しています。 

マーケティング

スペックイン

特に政府機関を顧客としてビジネスを行う場合、入札先の求める仕様基準に合致する製品を提供できること、さらには、自社製品の機能を入札仕様書に組み込むことが同業他社にとっての参入障壁となり、大きく成功要因に繋がるといった回答が得られました。

例えばDulas社の事業が成功している最大の要因として、WHOの基準を満たすことでUNICEFの仕様書要件を満たすことがあげられます。現在競合となるメーカーが5社程存在しますが、参入障壁の高さが同社の成功要因となっています。ワクチンの冷蔵保存は、WHOが規定する基準を満たした製品でなければならないため、機能や価格を自由に設定することが難しく、またGaviとUNICEFが全体の70%を調達しており、既に繋がりのある企業は当然有利になります。

ワンストップソリューションの提供

BtoBやBtoG等、一定以上の規模の事業を請け負う際に、当初計画の事業活動単独ではなく、付随する種々のサービスをワンストップで提供できることが、成功要因となると明らかとなりました。

例えばEvery1Mobile社では、同業他社が国際機関やドナーの単独案件にのみ対応可能な中、官民連携案件を受託する能力を有しており、安定的・持続的な成長を実現してきました。