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【新型コロナウイルス感染症に挑む日本企業】煙の出ない焼却炉で医療廃棄物処理に安心安全を

2022年3月29日

医療廃棄物の適切な処理を通じて、モロッコで医療機関内の新型コロナウイルス感染症等の感染予防に挑む中和機工株式会社の取り組みを紹介します。

withコロナ時代において高まる、医療廃棄物処理の重要性

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中和機工株式会社 今尾邦明社長

世界中で新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)のニュースが飛び交う中、医療廃棄物用無煙焼却炉のメーカーであり、JICAの民間連携事業を活用しモロッコで活動する中和機工株式会社の今尾邦明社長にお話を伺いました。

「COVID-19対応による医療廃棄物の量は通常時の何倍にも増えています。医療廃棄物の処理が適切に実施されていない途上国では、二次感染事故の可能性や長期保管のリスクも非常に高くなっている状況です。」

産業廃棄物用焼却炉を専門に製造する同社は、これまでアジアやヨーロッパを中心に33か国への輸出実績がありますが、COVID-19感染拡大後、セネガル、マダガスカル、赤道ギニア、コンゴ民主共和国等のアフリカ諸国からも多くの関心が寄せられるようになりました。

医療廃棄物の適正処理が二次感染を防ぐ鍵となる

病院などの医療機関から排出される廃棄物は①感染性廃棄物、②非感染性廃棄物、③それ以外の廃棄物の3種類に大きく分けられます。中でも感染するおそれのある病原体が含まれる可能性がある「①感染性廃棄物」は、分別、表示・梱包、移動、保管、処理を厳しく管理する注意義務が、日本では法律で医療機関に課せられています。

COVID-19が世界中で流行している昨今の状況において、COVID-19の診断、治療、検査時に発生する感染性廃棄物からの二次感染事故を防ぐため、廃棄物の適正な処理に万全を期すことが、改めて求められています。

しかし多くの途上国では、予算や技術、設備、人材等の不足から、医療廃棄物を適切に処理する体制が整っていません。モロッコの医療機関でも、従来から医療廃棄物の不適切な処理や長期保管が二次感染のリスクとして問題視されていました。

モロッコの医療機関が抱える廃棄物処理の問題

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大量の医療廃棄物が長期保管されている

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血液等の液体廃棄物

モロッコ政府は、地方中核都市や貧困層が多い遠隔地域を中心に医療施設の拡充を推進しており、国公立病院や保健センターなど医療機関数を大幅に増加させました。それに伴って医療廃棄物の排出量が急増し、毎年15,600トンもの医療廃棄物が排出されています。

このような医療廃棄物の処理を請け負う民間の廃棄物処理業者はあるものの、処理業者は大都市であるカサブランカ近郊に処理施設を保有しているため、地方部の病院から廃棄物を回収するには運送費が高額になります。また、運送途中に事故が発生するとそこから感染が広がる危険性もあるため、月1回程度しか回収されません。その間に発生する医療廃棄物は敷地内で野外焼却を行うか病院内に長期間保管するしかなく、二次感染の危険性が非常に高い状況です。

モロッコのダラ・タフィラレット州病院(エルラシディア県)も医療廃棄物処理の設備が病院内や周辺になく、民間の処理業者に委託しているものの回収頻度が少ないため、大量の医療廃棄物を病院内に長期間保管していました。そのため、保管庫ではクーラーや冷蔵庫が稼働しているにも関わらず廃棄物が強い悪臭を放ち、衛生的に問題があることは一目瞭然の状態でした。

無煙焼却炉で問題解決に挑む

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バーナーの作動後の炉内の状況

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燃焼中も黒煙が発生しない

これらの問題に対し、産業廃棄物用焼却炉の専門メーカーである中和機工は現地で調査を実施し、同社製品の医療用廃棄物無煙焼却炉の導入による問題解決の可能性を探っています。

廃棄物の中でもプラスチックは紙や木材に比べ約2倍の発熱量があり、焼却すると焼却炉内の温度が著しく高温になります。高温のままだと気化までのスピードが早くなり、結果、不完全燃焼を引き起こし黒煙が発生します。モロッコもかつては黒煙を出す焼却炉を使用していましたが、環境汚染や健康被害への懸念から使用されなくなりました。

そこで、中和機工は自社で開発した医療廃棄物用無煙焼却炉を提案しました。

「当社の医療廃棄物用無煙焼却炉は、焼却炉の外壁部が二重構造となっており、この中に水を通すことで、炉内の温度の急激な上昇を防ぐため、黒煙も発生しません。操作作業も簡便で耐久性にも優れているため、病院でも導入がしやすい焼却炉です」と今尾社長。

普及・実証活動について

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病院敷地内に無煙焼却炉を設置

同社は2016年10月からJICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」の案件化調査でモロッコの医療現場の実態を調査し、モロッコの医療現場での焼却炉の必要性を確信しました。その後、2017年に普及・実証事業に応募、採択されました。コロナ禍で一時調査は中断されましたが、2019年10月にダラ・タフィラレット州病院、2021年11月にベニメラル・ケニフラ州ケニフラ県病院の敷地内に無煙焼却炉を据え付けました。また、病院関係者に焼却炉の操作盤や焼却作業工程についての研修も実施しています。

「JICA事業として実施することで、保健省をはじめ関連省庁との信頼関係をスムーズに構築することが出来、多くの現地関係者から高い関心を得ることが出来ました。」と今尾社長は事業の成果を感じています。

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病院関係者に対する操作盤の説明

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医療廃棄物用焼却炉の操作研修

コロナ禍でますます高まるニーズ

同社の技術は、コロナ禍で増加する医療用廃棄物の適正な処理という喫緊の課題への解決策として広く関心を寄せられており、日本政府が国連工業開発機関(UNIDO)と協力して実施したコロナウイルス等感染症対策の支援にて、同社の焼却炉がマダガスカル(2021年6月)とセネガル(2021年11月)にそれぞれ導入されました。これは、UNIDO東京事務所が運営する「サステナブル技術普及プラットフォーム(STePP)」に登録したことがきっかけになったものです。更にその後、国連調達への参入にも成功、2021年12月にマダガスカルでの追加導入が決定しています。

また、JICAがバングラデシュで実施している「南北ダッカ市及びチッタゴン市廃棄物管理能力強化プロジェクト(技術協力プロジェクト)」の一環として、2022年1月にチッタゴン市(現チョットグラム市)に導入されました。同市には医療系廃棄物専用の焼却炉が無く、野焼きなどの不適正な方法で処理が行われ二次感染が広がる恐れがあったことから、同市からの要請を受けて導入が決定したものです。これからの同焼却炉の活躍が期待されるところです。

今後の展開

今後、ダラ・タフィラレット州病院及びベニメラル・ケニフラ州ケニフラ県病院に据え付けた焼却炉にて、感染性廃棄物の焼却を行いつつ、製品の有効性の実証データを収集していく予定です。

また、同社では従来、海外における焼却炉の組立、設置、稼動の際には技術者を海外に派遣しておりましたが、コロナ禍において現地渡航が出来ない状況を打破する為、映像を利用しこれらの作業を遠隔で行う仕組みを作り上げました。実際に、上記のマダガスカルへ導入された焼却炉については、遠隔方式により組立~稼働までの全ての過程を完了しました。この仕組みを活かし、これからも遠隔での導入を拡大する予定です。

同社の今尾社長は「医療廃棄物用焼却炉は医療行為の末端を担う必要不可欠な医療関連機器です。COVID-19感染拡大防止のためにも、医療機器の使用から廃棄までのバリューチェーンに、責任をもって対応するよう関係者への働きかけを強化しながら、モロッコを拠点としてアフリカ諸国にビジネスを展開していきたいと考えています」と熱く語ってくださいました。

中和機工株式会社の案件詳細は、案件検索ページでご覧ください。

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