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薬事承認取得、現地5病院で本格導入!インドネシアの重症結核患者を救う結核診断キット普及の道のり(ニプロ株式会社)

2022年3月31日

結核は未だ世界的な病気であり、WHOの統計によると毎年約1,000万人が新たに発症し150万人が命を落とす病気です。インドネシアは世界で2番目に結核患者の多い国(約85万人)であり、通常の結核(TB)よりも死亡率が高い「多剤耐性結核(Multi-Drug Resistant Tuberculosis:MDR-TB)」(最も結核に有効だとされている抗結核薬が効かなくなってしまった結核菌)の感染者数が東南アジアの中で最も多いという課題を抱えています。治療方針決定までに時間がかかる従来の検査方法だと菌種・耐性菌の特定に計3-6週間(*1)要し、多剤耐性結核治療の診断、治療、および患者の収入減少に対する補填に掛かる費用は通常の結核の約14倍と言われており、患者にも社会・経済にも大きなダメージを与える可能性があります。一方、ニプロ社の結核診断キット「ジェノスカラー」では、菌種・耐性菌の判定が同時にでき、検査期間が1日程度であることから、適切な治療方針決定までの期間を大幅に短縮することが可能です。ニプロ株式会社(以下、ニプロ社)は、JICA普及促進事業を活用し、この結核診断キット「ジェノスカラー」の普及促進を進めてきました。この度、インドネシアでの薬事承認も取得し、すでに5つの病院での検査への導入も決定し、今後インドネシアにおける結核患者の治療への貢献が期待されています。

(*1)インドネシア従来の検査では、菌種の特定に(分離培養)2-4週間と耐性菌の特定に(薬剤の感受性試験)1-2週間が必要となります。

ニプロ株式会社 重症結核患者を救う結核診断キットをインドネシアで展開

結核診断キットの普及促進事業は、治療が難航する多剤耐性結核の早期診断に本診断キットが有用であることを実証した上で、主要病院への導入を働きかけました。具体的にはジェノスカラー技術の普及・促進を目的として、①ジェノスカラーの評価試験の実施、②インドネシアでの薬事承認取得、検査ガイドラインへの採用、③ジェノスカラーを活用した検査人材の育成を通じた主要病院・検査機関への普及活動を実施しました。

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現地医師、検査技師への結核診断薬ジェノスカラーの検査法トレーニングを実施

【評価試験の実施】
インドネシアにおいてジェノスカラーの有効性の実証を行うため、評価試験をプルサハバタン病院にて行いました。現地検査ガイドラインに準じて計画された評価プロトコールに沿って、従来の結核菌検査薬とジェノスカラーの両方を用いて測定し、結果を比較。その結果、ジェノスカラーを用いた検査ではPZA耐性結核菌の60%以上をインドネシアにおける従来の検査薬より数週間早く検出できることが分かり、その有用性を示すことが出来ました。

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プルサハバタン病院でのトレーニング風景

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Tropical Disease Centerでのトレーニング

【検査人材の育成】
日本の結核予防会・結核研究所、国際医療研究センターの感染症対策の専門家と連携し、専門的見地からのアドバイスとサポートを受けながら、インドネシア保健省管轄の国立保健研究開発研究所 (NIHRD) 推薦の7つの結核診療拠点病院および検査機関に、ニプロ社の結核診断の検査装置(MULTIBLOT)を設置しました。

そしてMULTIBLOTを設置した結核診療拠点病院および検査機関の医師や検査技師に対し、ジェノスカラーの検査法トレーニングを実施し、検査技術習得者にニプロ社から修了証を授与しました。ニプロ社は2017年4月にUBC社(本社:ジャカルタ)と代理店契約を締結しており、現地における技術指導、製品販売はUBC社と協働して行っています。このトレーニングでも販売代理店であるUBC社メンバーと協働し、母国語であるインドネシア語による指導等も行った結果、トレーニング受講者の学習効果が増大し、病院内の他の医療関係者にジェノスカラーの検査法を教えることができるようになりました。

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修了証を手にして嬉しそうなPadjadjaran大学病院医師、検査技師の皆さん

現地医療関係者との二人三脚の普及活動

市場調査として、販売代理店であるUBC社メンバーと共に地方都市の結核検査基幹病院を訪問し、普段実施している検査内容である薬剤感受性検査と比較した場合の優位点やニーズの聞き取りを行いました。また、プルサハバタン病院を始めとする、本事業で検査技術を導入した施設関係者の協力の下、現地の学会・展示会でも普及活動を進めてきました。その普及活動の中で、インドネシア大学とプルサハバタン病院が主催する現地呼吸器学会であり、インドネシア全土から700人もの医師が集まる「PIPKRA2020」に参加。インドネシアにおける結核治療の権威であるDr. Erlina Burhanにジェノスカラーの有用性等について発表してもらうことで、現地の多くの医療関係者に本検査技術を普及することができました。

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PIPKA2020での出展

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Dr.Erlina Burhanにジェノスカラーの有用性をご発表頂きました!

インドネシア国内で薬事承認取得、5病院での本格導入決定!

評価試験の結果を基に、2018年1月には体外診断用医薬品として ジェノスカラー・PZA-TB II、 ジェノスカラー・NTM+MDRTB IIの2製品、また医療機器としてMULTIBLOT NS-4800が薬事承認され、インドネシアでの流通許可を取得することができました。薬事承認に加え、2021年には、ジェノスカラー検査技術がインドネシア国内における比較的資金に余裕のある民間保険利用者向けサービス適用時に使用されるPerhimpunan Dokter Paru Indonesia (以下、PDPI)(インドネシア肺医師学会)のガイドラインに収載され、5つの結核診療拠点病院及び検査機関のルーチン検査(病院および検査機関での結核検査の際に決まって行う検査や指示のこと)に採用されることになりました。PDPI委員からの情報によれば、ニプロ社の結核診断薬 ジェノスカラーの検査対象となりうる薬剤耐性結核の可能性が高い患者の割合は全体の20%であることから、民間保険利用者向けでは年間80万件の結核検査数の20%である、年間16万件がジェノスカラー使用の対象となりうるとのことです。

今後、長期的に公的保険利用者向けサービスとして利用可能となればさらに多くの検査が実施でき、インドネシアの結核対策に貢献することができるようになります。インドネシア全域で利用可能なサービスとして、薬剤耐性結核患者の早期発見と適切な治療への早期転換に貢献していきたいとの想いで事業を進めています。

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インドネシア国内で民間保険利用者向けサービスの際に使用されるPDPIガイドラインに採用!

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【案件概要】
企業名:ニプロ株式会社
履行期間:2017年12月1日~2022年2月28日
活動内容:既存の結核検査フローに日本の結核診断技術であるジェノスカラーを組み込み、インドネシアにおいて結核患者を多く検査・治療している国や州レベルの結核診療基幹施設7施設で普及促進を行い、迅速で効果の高い結核・多剤耐性結核対策を目指しました。
製品:Genoscholar・PZA-TB II、Genoscholar・NTM+MDRTB II(結核診断薬)MULTIBLOT NS-4800(検査装置)

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 左:結核診断キットジェノスカラー 、右:検査装置MULTIBLOT

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