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独自開発の地雷除去ロボットでカンボジアの地雷除去作業員の安全を守り、作業を効率化

2022年3月31日

地雷の掘削作業での事故のリスクを軽減するために、地雷除去作業を支援するロボットを開発したIOS株式会社(以下IOS)の取り組みを紹介します。

なかなか進まない地雷撤去作業

1970年から約20年以上続いたカンボジア内戦により、カンボジア全土には400万~600万個の地雷が埋まっています。内戦終結以降、カンボジア政府は各国政府、国際機関の支援を受け、CMAC(カンボジア地雷除去センター)を通じて地雷撤去に取り組んでいますが、2020年時点で、地雷汚染地域は866平方キロメートル、残留不発弾汚染地域は1,217平方キロメートルあり、目標としている2025年までの国内の地雷除去作業の完了は厳しい状況にあります。

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地雷・不発弾汚染マップ(JICAカンボジア事務所作成)

地雷の除去が進まない理由として、除去作業が手作業で行われることが挙げられます。山間部などでは重機が入ることができないため、手作業に頼らざるを得ません。手作業での除去は「1マン1レーン方式」で実施し、作業員が1人で地雷の探知と掘削(くっさく)を行います。また、CMACによると、精度の高い金属探知機を使うため、探知できるそのほとんどが空薬莢(やっきょう)や鉄くずで、約900個探知してやっと対人地雷1個を見つけられるといいます。さらに乾季は30度以上の炎天下での作業になるため、作業員は身の危険を感じて心身疲弊しながら、ほとんどが無駄な掘削を繰り返しており、その結果、人身事故や作業効率の低下に繋がっています。

これらの状況はカンボジアに限らず様々な国に共通の課題となっており、2020年の地雷・不発弾等による年間被害者数は全世界で7,073人にも達しています(地雷禁止国際キャンペーンLandmine Monitor 2021参照)。

地雷除去ロボットDMR

その掘削作業を機械化できないかと立ち上がったのが、IOS株式会社です。同社は元々、ソーラー発電所の除草や橋梁点検の自動化ロボット等の研究・開発を行っていました。地雷問題に取り組むようになったのは、ロボットの可能性を模索していたころに、JICAとの面談の機会を得て、地雷除去ロボットの開発・導入にビジネスチャンスを見出したことがきっかけだったといいます。その後実際にカンボジアへ渡航し、CMAC長官との面談や地雷除去現場を視察、ロボットの開発を進めていたタイミングで中小企業・SDGsビジネス支援事業の案件化調査(途上国発イノベーション枠)に採択され、CMACとの協議を重ねながら、地雷除去ロボット「DMR(Demining Robot)」の開発を進めていきました。

取締役社長今井氏は「それ以前からDMRの開発には着手していましたが、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業に採択されたことで、CMACからの信頼を得やすくなりました。機材に求められる仕様や、配備計画の実現性をより詳細に把握することが可能になり、事業化に向けた調査が進みました」と話します。

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地雷除去作業員により発見された地雷(写真中央・土中から側面が露出した緑の地雷)

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プロトタイプDMR-5 圧縮空気型地雷原掘削装置

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CMAC試験場での掘削試験の様子(2020年2月渡航時)

同社の開発した地雷除去作業を支援するロボットは、作業員に代わって目標地点の掘削作業を行います。安全距離とされている15m以上離れた場所からリモコンを使って遠隔で操作できるため、作業員の人的被害を軽減することができます。エアーコンプレッサーを使った空気圧で掘ることも特徴であり、従来のシャベルで掘る方法では避けられなかった土壌中の木の根や石といった障害物を避ける必要がなく、より迅速に作業を進めることができます。また、従来の大型機材と比べ、分解・組立が容易で軽量であるため、地雷除去チームが手分けして持ち運ぶことができ、傾斜地など大型機材の利用が困難な場所でも作業を行うことができます。
(※DMRの動作や機能をご確認いただける紹介動画は以下のリンクよりご視聴いただけます)

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図:DMR技術の特徴

COVID-19蔓延の影響により現地へ渡航できない状況が続く中、国内各地のテストフィールドで何度も動作試験を行い、試作品の製作・改良を重ねてきました。昨年12月に実現した念願の最終渡航では、CMACと協力して様々な土質で試作品の掘削試験を実施しました。検証の結果、手作業での掘削に比べて、2.26倍の作業効率化が図れる見込みとなっています。CMAC長官からは、CMACの要望に沿ったDMRの技術改良・機材の軽量化に継続的に取り組んでいることについて感謝の意が示されるとともに今後の協力についての要望も出され、更なる技術改良を進める予定です。

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DMRの機能説明をするIOS取締役社長今井氏

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IOS取締役会長で技術者の狼氏(現地試験場にて)

日本企業の高い技術を地雷除去へ

実際のDMRの制作は、IOSとともに本事業に取り組む日本ロストワックス株式会社(以下日本ロストワックス)が担当しています。同社の精密鋳造(ちゅうぞう)品の製造技術は寸法精度が高く、複雑な形状のものを一体化して鋳造できるため、小ロットでもコストを抑えて制作できます。
世界市場で通用する高い製造技術を持つIOSや日本ロストワックスのような企業にとっては、地雷除去ロボットという大企業が進出しにくいニッチな市場にこそ、海外展開のチャンスが眠っているといえます。

これからの海外ビジネスの展開方針としては、まずはカンボジアで CMACとの連携のなかで継続してDMRの開発を進め、それと並行して世界60ヵ国にも及ぶと言われる、地雷や不発弾が埋設されている他の国でのDMRの活用可能性を探る予定です。カンボジアは地雷除去先進国であり、CMACはラオス、タイ、ベトナム、アンゴラ、イラク、コロンビア等の機関と既に協力体制を構築しているため、このネットワークの活用にも期待が寄せられます。

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CMAC本部にて(最終渡航時)

地雷原跡地を農業に活用し地元へも貢献

さらにIOSは、地雷除去後の土地の有効活用のため、カシューナッツの生産・加工事業を検討しています。地雷除去後の土地活用は、CMACの長年の課題となっていました。そこで、既に現地に進出している日系企業とも連携し、カシューナッツ農園や加工工場などの施設を建築することで、現地雇用の創出へ繋げることを検討中です。さらに、生産・加工されたカシューナッツは日本をはじめとする諸外国へ輸出、及びカンボジア国内で販売されるため、換金作物としての輸出拡大にも貢献します。

ただ跡地を安全な状態にするだけではなく、民間企業ならではの着眼点で地元経済の活性化も目指している同社の取り組みに、CMACからも高い関心が集まっています。まだまだ続くIOSの活躍に今後も注目です。

案件の詳細は以下リンクよりご覧いただけます。

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