JICAの本部組織は32部署(25部4室2事務局1研究所)から構成されている。
いずれも組織を効率的に運営し、効果的に国際協力事業を実施するためには欠かせない部署ばかりだ。
その一部を"もっと"見てみよう。
文:光石達哉
2008年にスタートした「JICA債」は、国債や社債と同様、JICAが資金調達のために発行する債券である。集められた資金は、有償資金協力事業の予算の一部となって、途上国のインフラ整備など社会課題解決のための事業に充てられている。2019年度は予算上、800億円の発行を計画している。
「資金調達のためだけでなく、投資家や一般の方々に対してJICA事業の透明性を確保する目的もあります」と説明するのは、財務部 市場資金課の池谷直樹さん。
2016年に日本初のソーシャルボンド(社会貢献債)として発行して以降、投資を通じた社会貢献を目指す投資家からの注目を集めている。2019年9月には「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」の開催に合わせて、アフリカでの有償資金協力事業に資金を充当する「TICAD債」を発行するなど新たな試みも行っている。
「投資家の方々は民間企業、地方自治体、学校などさまざまです。『JICA債』への理解を深めていただくため、JICA国内拠点と協力して全国各地をめぐり、年間約250件の個別面談を行っています。『JICAとは何をしているところ?』という話から始まり、興味を寄せられた投資家の方々と新たな連携につながることもあります」
「JICA債」は、持続可能な開発目標(SDGs)を実現するための施策として日本政府に認められている。JICAにとっての資金調達の手段というだけでなく、投資家にとっての社会貢献の手段として、預かった資金で途上国の持続可能な開発を実現していく。
「投資家の方々にJICAの事業を知っていただく、セールスマン的な側面があります」
文:光石達哉
2016年7月1日に発生した「ダッカ襲撃テロ事件」は、バングラデシュの首都ダッカのレストランがテロリストに襲撃され、JICA事業関係者7名が犠牲となる痛ましい事件であり、二度とくり返してはならない。
こうした無差別テロ事件をはじめ国際的な治安情勢が悪化するなか、JICAは海外で働く事業関係者を守るために安全対策を強化。同年9月には総務部安全対策室を安全管理部に組織改編し、本部/在外ともに安全対策スタッフの人数を大幅に拡充した。
「安全対策の観点からは、日常的な安全への心構えと、不測の事態が発生した際に適切な対応が取れることが重要です」と安全管理部の久保良友さんは語る。
「安全管理部では、現地の治安情勢をふまえて安全に関する情報を発信するとともに、現地に派遣される事業関係者に対する研修や実技訓練、在外拠点での安否確認訓練などを行っています。また、本部側では24時間365日いつでも在外拠点から連絡を受けられる体制を維持しています」
関係者が海外の現場において安全に事業を実施できるよう、安全対策の強化は今日も続いている。
対面での研修受講が困難な人に向けて、安全対策研修(渡航者向け)の内容をウェブサイト上でも公開している。
「安全対策強化には、関係者ひとりひとりの安全に対する意識が重要です」
文:光石達哉
「研究所の目的は大きく分けて二つあります。一つはJICAの実務に役立つ研究です。たとえば、『アフリカから紛争をなくしたい、アジアの人々に安価な医療サービスを届けたい』といっても、なかなか一筋縄ではいきません。そういうときにこれまでの事例研究をふまえ、研究所から新たにユニークな視点を提示してJICAの任務を助けるのです」と話すのは研究所の志賀裕朗さん。
「もう一つは、日本の国際協力の経験を世界に発信することです」。というのも、国際協力の世界は欧米の先進国が中心で、そこで発表された書籍や論文などが途上国援助の方向性を左右してきた歴史があるからだ。その潮流に対して、日本やアジアの独自の経験や知見を打ち込みたいと話す。
「日本の支援によってアジアの国々の生活水準は上がってきました。しかし、培ってきた経験を英語の論文で発表することは少なく、欧米諸国に十分に伝わっていませんでした。日本の誇るべきところをきちんと発信することで"アジアの声"を代弁することがわれわれの役割です」
2008年の設立以来、研究所の研究成果は、世界的な開発学の研究機関である「英国サセックス大学開発学研究所(IDS)」や米国ブルッキングス研究所をはじめ、多くの機関の出版物に掲載された。認知度は確実に高まっている。
「海外でセミナーを開くなど、日本の経験を発信する場が増えてきています」
途上国の発展につながるインフラ整備などを行う有償資金協力では、資金は低利・長期の緩やかな条件で貸し付けられ、平均約33年という長い時間をかけて返済される。債権の回収を担当する管理部 債権管理第二課の千住万紀子さんは、「日本の公的資金を財源にした債権を確実に返してもらうことは当然大事なのですが、途上国にとっても、返済が滞ると新たに資金を借り入れることができなくなる可能性があり、デメリットが生じます。そうならないよう相手国と根気よくやり取りを続けていきます」と説明する。
また、回収の手続きには海外拠点との連携も欠かせない。
「通信状況や郵便の発達していない途上国の場合は、請求書を事務所から相手国政府に手渡ししています。支払い期限が近づくと、毎日のように事務所からコンタクトを取ってもらうこともあります。JICAの支援が効果を上げて、借入国にもたらした利益で返済の原資が生まれます。途上国の努力の結果としてのお金を扱っていることを考えると、身が引き締まる思いがします」
(注)数値は2018年度有償資金協力実績。
「事業が終わった後も、債権回収のための長いお付き合いが続きます」
無償資金協力の実施にあたっては、工事などの施主である相手国政府と、その代理人となるコンサルタント、施工・調達を請け負う業者との間で契約が結ばれる。この内容が無償資金協力のルールに則っているかどうかを確認しているのが、資金協力業務部 計画・調整課だ。
「契約書は、事業を実施するうえでの大前提となります。案件名や署名日、契約金額といった基本的な項目から、資金の支払い条件、全体工程との整合性など、日本の大切な資金が適切に使用されるよう、細かな点まで目を光らせています」と、同課の安部純子さんは話す。
事業の実施監理を担う職員から、日々さまざまな相談が持ち込まれる。ある施設建設案件の契約書では、紛争が発生した場合は自国の仲裁機関で仲裁するという文言が載せられようとしていた。
「国際契約の世界では、紛争は中立な立場の第三国で処理するのが原則。相手国での仲裁は施工業者にとって不利となるため、慎重に判断するよう進言しました。相手国(施主)、コンサルタント、業者それぞれの利害をうまく調整することで、すべての案件が無事完了の日を迎えられるよう気を配っています」
「書類の先にいる人々のことを思い浮かべ、緻密な業務を心がけています」
有償資金協力事業の計画段階では、適用される技術の検討や建設に必要な費用の積算・確認が行われる。エンジニアリングの観点から専門的な知識が求められるこの仕事は、専門性を有する職員が、国際開発コンサルタントとともに行っている。
電力分野を担当する小川 晃さんは、自らの仕事を"ブレーキ役"と表現する。
「途上国政府が抱いている理想像に対し、実現可能なやり方を示していくのも私たちの仕事です。納得してもらうためには密なコミュニケーションと粘り強さが必要」と話す。
また、国が違えば調査の前提も異なる。
「途上国では、日本では容易に調達できる資材がなかったりコストが高かったりと、こちらの常識がそのまま通じないところに難しさがあります」と語るのは港湾分野担当の上田剛士さん。それでも「何もない土地に一から港を造ることは現在の日本ではなかなかなく、挑戦しがいのある仕事」だという。
「有償資金協力は規模も大きく、つねに緊張感を持って仕事をしています」
「日本での実体験と経験則をもとに、厳しいアドバイスをすることもあります」