エルサルバドル向け技術能力プロジェクトのプレスツアー実施:「HOKYOプロジェクト」による首都圏における建物地震災害リスク削減の取り組み

2022年11月1日

2022年10月3日に、「首都圏建物の耐震評価と耐震補強のための能力強化プログラム(通称HOKYOプロジェクト)」のプレスツアーが、プロジェクトの主催で実施されました。プレスツアーでは、耐震診断・改修設計のための構造実験および改修補強の試験施工の概要説明や活動進捗の発表が行われました。プレスツアーで紹介した耐震構造実験施設や耐震改修の試験施工を含む「HOKYOプロジェクト」の概要について紹介いたします。

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ホセ・シメオン・カニャス中米大学(UCA)構内に設置された耐震構造実験施設

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国立エルサルバドル大学(UES)構内において耐震改修の試験施工を実施(補強工法の展示)

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プレスツアー現地報道(ラ・プレンサ・グラフィカ紙、エル・ディアリオ・デ・オイ紙)

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UES構内で完成した試験施工(プレスツアー実施後に撮影)

エルサルバドル首都圏建物の地震災害リスクと課題

現在、エルサルバドルの全土の88.7%が地震災害リスク地域であり、全国民の95.4%が地震災害リスク地域に居住しています。特にサンサルバドル首都圏は、610平方キロメートルの面積に約175万人(DIGESTYC世帯調査、2020年)の人口が集中しており、1986年と2001年に大きな被害をもたらした地震がありました。1986年に発生した地震では死者1,500人以上、約20万人が被災し、建物崩壊による人命損失や甚大な経済的損害を及ぼしました。1994年に耐震設計技術基準(NTDS,1996年施行)と1996年に建物の構造安全性に係る規制(RESESCO)が制定されましたが、同基準を満たさない1996年以前の既存建物が多くあります。2001年の震災後に実施された建築物危険度判定調査では、首都圏内に位置する公共建物においてレッドフラッグ(注1)が52件、オレンジフラッグ(注1)が101件に上り、現在においても既存建物の多くが一時的な修復や技術的基盤のない修理を経たのみで使用されており、巨大地震による倒壊の可能性が高く、適切な耐震補強による建物耐震強化を通じた地震発生前リスクの削減が急務となっています。加えて、1996年以降、同基準の内容は改定されていません。2001年に発生した大地震の経験や急激な都市化の現状を踏まえ、耐震基準の見直しや耐震評価及び補強改修における技術基準の制定を行い、適切な耐震評価・設計とする必要があります。

(注1)レッドフラッグ(倒壊相当)、オレンジフラッグ(大破相当)

技術協力:耐震診断、改修設計、監理マニュアルの制定とパイロット事業として改修工事を実施

このような背景から、JICAは首都圏計画事務所(OPAMSS)を対象に当該技術能力プロジェクトを2022年2月から開始しました。OPAMSSはサンサルバドル首都圏の都市計画や建設に係る許認可発行権限を持ち、適切な都市計画に係る関連規制を決定する役割を持つ組織です。同プロジェクトの中で、鉄筋探査機やコアドリル器等を利用した建物詳細調査、既存建物の耐震診断・改修のための構造実験や耐震改修の試験施工等の活動を通じた日本の耐震評価や耐震補強における技術移転が行われ、プロジェクト成果としてエルサルバドル独自の耐震診断、改修設計、耐震改修施工監理マニュアルの策定を目指しています。また、パイロットプロジェクト事業として首都圏の既存の公共建物を選定し、耐震診断から改修設計を行い、先方予算にて耐震改修施工の実施を計画しています。

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鉄筋探査機の利用による鉄筋コンクリート柱の配筋(非破壊)検査のデモ

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1/2縮小モデルを用いた鉄筋コンクリート骨組の静的加力による耐震実験。写真の試験体は、1994年耐震基準制定前の構造モデル

耐震補強を通じた建物地震災害リスクの削減に貢献し、持続可能な都市開発につなげる

HOKYOプロジェクトは、カウンターパートを対象とした能力強化だけでなく、政府関係省庁、大学、市から理解と協力を得て、首都圏における公共建物の耐震改修促進にかかる行動計画策定のための技術作業グループを設置しています。同作業グループの定期的な会合や技術セミナーの開催を図り、当該プロジェクト進捗の報告や首都圏に存在する公共建物の耐震改修にかかる具体的な行動計画の策定、促進および普及もサポートしています。これらの活動を含む本事業の実施は、「仙台防災枠組2015-2030(注2)」の優先行動1~3「災害リスクの理解」、「災害リスクを管理する災害リスク・ガバナンスの強化」および「強靭性のための災害リスク削減への投資」に貢献し、SDGsのゴール11「包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間住居の構築」の達成にも資するものであり、エルサルバドルの持続可能な都市づくりに貢献します。

(注2)2015年3月に宮城県仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」の中で採択された枠組。4つの優先行動とと7つのターゲットが合意されている。

このプレスツアーに関する現地での主な報道(スペイン語のみ)は次の通りです。(別ウェブサイトへ移動します。)

テレビニュース(スペイン語)(外部サイト)

新聞社(スペイン語)(外部サイト)

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