言葉に秘められた民族のメッセージ

八雲町立落部中学校 土田 賢先生
実施教科(領域):社会科(地理)

教師国内研修参加までの経緯

今回の研修の参加理由は、異文化理解、特にアイヌ文化に関わる見識を広げられるチャンスだと捉え、さらに自分が学校における指導官の計画訪問の公開授業の担当になったことがきっかけでした。
参加前に二風谷で直接アイヌの人々の話が聞けることや、実地調査ができることが大きな魅力でした。

研修を通して

まずは、アイヌの人々の生の声を聞き、まだ私たちは、アイヌの人々のことを深く理解できてない。という文化伝承の部分での理解が不十分であることを再認識した。研修中にウポポイについて「イヨマンテの飾りは、統一したアイヌの飾りではない。あれは樺太のものだ」、「ウポポイの展示の仕方は、地域ごとのアイヌ文化の違いが見えない」などの話を聞いた。また、札幌大学の本田先生も、「ウポポイは、アイヌの文化を広めてくれるのはありがたいが、実際にアイヌの文化を理解するにはまだ検討すべき点が多い」と話されていた。そのことから、アイヌに関わる課題は山積しており、自分自身がもっと現地の人々の声を聞き、現地の様子を知り、考察する必要があることを深く痛感した。
さらに、浦河での外国人労働者の方々およびその支援をされている方のお話を聞き、異文化の世界に入り、苦労をされる方々に対して「どのような手立てを持って接するべきか、どのようなことを考えるべきか」という課題についても、アイヌ文化を考える手がかりを得られたと思う。

授業実践をふりかえって

研修の中で授業公開を行うことになっていたが、この授業公開については、時間の制約や途中の内容が曖昧であったことなど、検討すべき点は多く、さまざまなご指摘をいただいた。「本来の目的につながるものであったのか」、「授業内容の中に二風谷ダムを沙流川の名前の由来から紐解く内容があるが、内容は言語から伝わることだが、これはただのダムの批判になってしまわないだろうか」、「結論に無理がある。事例については対照になるように組めると良いが」などの指摘を受け、終了後すぐにさまざまな文献を紐解き、対照となる事例を見つけ、それを授業に組み込んだ。授業当日までは不安が多かったが、授業では、これらのアドバイスを生徒の理解に繋げることはできたと思う。当日の授業は、生徒との対話形式で行ったものだが、実際に人数が少ないにも関わらず全ての生徒の意見を拾えたとは言えない部分があり、また、事例が多すぎるなど生徒の考えを深める場面が十分ではなかった点もあったと思う。

【画像】

北海道の川をアイヌ語から読み解く(温泉の流れる川、遊楽部川)

今後のビジョンについて(学びえたこと、作成した指導案をどのように活用していくか)

今回の授業は世界を大観するという地理の初段階の場面で行ったものだが、アイヌ語、アイヌ民族について考える内容は、2年生での日本地理の最初の段階での日本を大観する内容、及びリージョナリズムを考える公民の最後に当たる部分での活用もできると考える。持続可能な社会を考える内容としても活用できるものなので、今後調査などを通して改良を加え、この授業案のブラッシュアップを進めたい。また、アイヌ文化と現在の我々の生活とのつながりを考える上で、このようにアイヌ語から読み取れるものを活かした教材にしたことをきっかけに、現代とアイヌ文化のつながりを深めるものにしたいと考える。

アドバイザーからのコメント(モニタリングを実施してのアドバイザーからの感想)

本授業は、社会科(地理)の「世界の人々の生活と環境/様々な言語と人々の暮らし」の発展的な学習として設定されていました。アイヌ語の地名は、地形の特徴や土地の産物、そこでよく行われること((例)簗場がある)などが語源であることに気づかせるため、カード並べ替えゲームを取り入れていました。また、「二風谷ダムは、アイヌ語やアイヌの人々の文化を理解し、尊重しようとせずに一方的に建設されてしまった」という貝澤さんのお話から、生徒たちは、文化理解の大切さを共感的に理解していました。最後に、「アイヌ語を知ること、生かすことによって最適な交通路を見つけることができた」という資料を提示し、「言葉を知るということは( )」の括弧の中を考える活動を行なっていました。やや学習内容や多く説明になってしまったところもありましたが、身近なアイヌ語の地名を切り口にして本授業を計画・実践し、「言語を知ることはアイヌの人々の生活を知ること」等の生徒の考えを引き出せたことは本実践の成果といえるでしょう。

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