教師海外研修とは、開発教育/国際理解教育の実践と推進に意欲のある小中高校と特別支援学校の先生が、JICAが支援する開発途上国に赴き、現地で得た知見を活かして教材を作り、日本国内での授業実践を行う研修です。
コロナ禍で2年間国内研修として実施していましたが、2023年度はキルギスで現地研修を行いました。今回は、全研修を終えた北広島市立西部中学校と当別町立とうべつ学園の先生が所属校で行った授業の様子をお届けします。
2024年2月8日(木)、教師海外研修で作成された授業が北広島西部中学校で行われました。授業を担当したのは佐々木征司先生です。佐々木先生は社会科の先生で、公民の授業7時間分を「日本は国際社会に対してどんな力を発揮できる?」というテーマで展開していきます。今回はそのうちの1時間をモニタリングさせていただきました。
既に国際貢献の意義や国際支援の現状について学んでいる生徒たち。前回の授業では、キルギスに派遣中のJICA海外協力隊とオンラインで交流しています。今回の授業では、JICAがキルギスで行っている一村一品運動(OVOP)について取り上げていただきました。
OVOPは農村の人達と協力してキルギスの人達にしか作れない商品を売って地域経済の活性化やコミュニティ強化を目指す運動です。佐々木先生はキルギスに行ってOVOPを進めるJICAスタッフと特産物を作るキルギスの女性たちに出会い、特産物が販売されているOVOPショップも訪れ、それぞれの立場がwin-winになるような取り組みに着目しました。
生徒は「OVOPプロジェクトの人」「企業の人」「農村の人A」「農村の人B」のそれぞれ役が与えられ、自分の役の立場で主張したいことをグループで話し合います。多くの農村の方々に参加してもらいたいOVOPプロジェクトの人、製品の質を落とさず、なるべく多く生産したい企業、収入は上げたいが契約条件が気になる農村の人。
グループでの話し合いの後、同じ役同士が集まって『みんなが納得する話の落としどころ』について相談し合う時間がありましたが、その時の生徒たちは、本当に現地を見てきたように、役に入り込んでいました!
最後に「4者に共通している願いって何だろう?」と生徒に投げかける佐々木先生。口をそろえて「お金!」と答える生徒たち。「本当にお金だけが願い?」かどうかは次の授業でJICAキルギス事務所の職員とオンラインで繋いで答えを探していくようです。
2024年2月21日(水)、当別町立とうべつ学園の伊藤麻美先生は社会科の地理の授業で「遠く離れた国の文化の共通点に気づき、世界の国々とのつながりに興味を持つ」というテーマで授業を行いました。
「起立・礼」で授業が始まり、着席すると思いきや、地図帳でキルギスの位置を見つけた人から着席できるというゲームが始まりました。早く座りたい!と焦る生徒たち。全然見つからない生徒にはほとんど答えというヒントを出す伊藤先生。最後は他の生徒も手伝って、何とか全員着席することができました。
次に伊藤先生が用意したのは、写真が載っている数枚のスライド。この写真がキルギスなのか日本なのか、その理由もスライドに書かなくてはいけません。まずは個人で国の名前と理由をパソコンに打ち込んでいきます。「先生は意地悪だから(?)
優しいから(?) この写真、日本とキルギスだけじゃないかもしれないよ」と生徒を惑わす伊藤先生。
次は席を移動して、ペアでスライドを見せ合う活動です。実はこのペア同士は同じ写真ではなく、異なる写真を見て作業をしていました。「私の写真と違う!」「日本っぽく見えない?」など自分のスライドに打ち込んだ国名と理由を説明し合い、意見を出し合いました。その後、同じ写真のスライドを持つグループで集まって話し合いを行います。「日本でこんなの見たことないからキルギスだと思ったんだよね」「私もこれ、キルギスだと思った!」最終的にグループで出た結論をスライドで発表します。
最後は実際に写真を撮影した伊藤先生の正解発表。肉じゃがや焼うどんみたいな食べ物。風景も、アイヌとキルギスの文様もほとんど同じ…日本とキルギスってなんでこんなに似ているんだろう?今まで勉強してきた知識を思い出しながら、類似点について学びます。地理的にはこんなに離れているのに、緯度がほとんど同じだということ、気候も似ていて、歴史的にもルーツが同じと言われていることなど、どうして似ているかの疑問がどんどん紐解かれていきます。
授業の最後はあるエピソードで締めくくられます。現地滞在中に民族楽器「コムズ」を既に購入していた伊藤先生。別日に、日本とキルギスの文化が似ていて、キルギスの文化に興味があることを話した際に、自国に興味を持っていることに感動したキルギス人が「コムズ」を伊藤先生に贈呈していました。日本とキルギスの共通点があったからこそ伊藤先生の「コムズ」が2本になったのではないかと考え、この感動を生徒に伝えたいという一心で授業を作ったそうです。
モニタリングでは、生き生きとした生徒たちの反応を身近で見られました。佐々木先生、伊藤先生、キルギスを題材とした素敵な授業をどうもありがとうござます。今後、何度も授業を実践していただき、より磨きのかかった授業となることが楽しみです。