インド授業検討チーム

メンバー

大津和子(北海道教育大学名誉教授)
小島由紀子(札幌市立西野第二小学校)
佐久間みのり(札幌市立伏見小学校)
堀幸美(千歳市立北栄小学校)
森川祐子(札幌市立川北小学校)
市川栄作(海星学園高等学校)

視察概要

SDG1『貧困をなくそう』に関わる教材を作成するため、貧困の現状を取材すべくインドを訪れた。主に日本のNGOの活動の様子を取材したが、わたしたちはそこで、貧困と格差の現実を目の当たりにすることとなった。そこには、貧困に繫がる様々な背景をもつ子どもたちと、その現実を少しでも改善しようと奮闘する人々がいた。様々な問題が絡み合い引き起こされる貧困の中で前向きに生きようとする人々の姿を、それぞれの発達段階に合った教材を作成し『授業』を通して日本の子どもたちに伝えることで、これからの持続可能な社会の担い手としての市民意識が芽生え育まれると考え、そのための取材活動を行なった。

取材内容

JICAインド事務所

  • インドの生活事情。経済格差が大きい。カースト制度の影響は現在もある。
  • 特に女性への差別的な習慣がまだ色濃く残っている。
  • インドの教育事情。親の職業、経済状況による教育格差が大変大きい。
  • インドの不衛生な生活状況。不安な保健医療事情。環境汚染問題。

レインボーチルドレン

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子どもたちの現状を取材

(特定非営利活動法人・インドを中心とする途上国で「高等教育」を専門に支援する国際協力NGO)

インド・デリーのスラムの学校支援を通じた高等教育プログラムにより、2015年スラム出身者初の大学進学が実現した。

デリー都市部で極貧層が居住する過密化した地区(スラム)。その不衛生な環境の中、貧困・児童労働・伝染病等様々な問題が絡んでいるが最も大きな問題は教育である。十分な教育を受けず育ってきた大人は教育の重要性を知らないまま親になる。故に、その子どもも教育が受けられないという“負の連鎖”が起きているのだ。

そんな現状を断ち切るため、学ぶことの楽しさを子どもたちに実感してもらおうと教育支援を行っている。特に今回は前述のスラム初の奨学生サンタンが同行し、案内してくれた。現在サンタンは、支援を受けながらデリー大学の大学院へ通う傍ら、自身の故郷でもあるこのスラムの子どもたちに教えるため活動している。ここに学校を作るのが夢だそうだ。

マザーベイビースクール

NPO法人オンザロードが運営するバラナシにあるフリースクール。2008年、全て無償で近隣の貧困層の子どもたちに教育の機会を提供している。

ひまわりホーム

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村の女性の就職支援を訴える女性を取材

NPO法人レインボー国際協会が運営するコルカタにある教育支援協会。スラムや路上で生活する子どもたちを自立へ導く活動をしている。支援しているコミュニティーを訪問し、村の生活環境改善のために活動している女性にインタビューすることができた。

マザーハウス

マザーテレサがコルカタに設立。身寄りのない心身に障害をもつ女性の施設でボランテイア活動をさせていただいた。正式には「放棄された女性のためのリハビリテーションセンター」世界各国様々な人々がボランテイアとして活動していた。

わたしたちは、このような場所で活動するNGOの方々に取材をしたこと、また、スラムで夢を描きながら生きる子どもたちとの交流や様々な人々との出会いを通して、貧困と教育は非常に密接な関係にあること、そして子どもの学ぶ権利を守る重要性について実感し、ここで前向きに生きている子どもたちのことや、このような夢を支えようとしている人々がいることを、教材化したいと考えた。

教材内容

インドのフィールドワークから、以下の5つの教材を作成して授業で実践した。

(1)『アッチャー(いいね)!インドもダール(豆)』

小学校3年生対象
大豆を通してインドの食文化や食材に関心をもち、インドでは栄養バランスのよい食事を摂るために、大豆が大事な役割をしていることや食文化の面白さに気づかせる教材。

(2)『発見!ナマステ インド!』

小学校5年生対象
インドに興味をもち、買い物シミュレーションを通して、貧困による健康面や教育面への影響に目を向け、自分の環境を振り返させる教材。

(3)『いいね!ん?どうなってるの?インドから始まる私のSDGs』

小学校6年生対象
インドの文化や生活について知り、共感をもってインドと日本それぞれの抱える問題に気づかせる。そして、インドの生活から見つけた自分なりの問題点をSDGsの視点で捉えなおし、自分の生活と関連付けて考える教材。

(4)『Let’s meet friends in INDIA』-プロジェクトを作ろう-

中学校3年生対象
インドに興味をもち、そこに暮らす人々に思いを寄せながら仲間と協力してプロジェクトを作ることを通して、NGOによる国際協力について理解し、自分に何ができるかを考える教材。

(5)『インドの中の違い』

高校2年生対象
インドに興味をもち、統計資料の読み取りを通して、貧困にある人が抱える困難について考え、その解消に取り組む活動を含めてSDGsに関心をもつ教材。

授業(『Let’s meet friends in INDIA』-プロジェクトを作ろう-)の様子

(1時間目)インドすごろくを通して、インドの多様性に関心をもつ。

インド国内の様々な特色ある文化を疑似体験できるようになっており、またクイズ形式で進むので、深く考える場面あり、話し合う場面あり、体験する場面ありで、楽しみながら多様性に触れることができた。

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プロジェクトを作ろう

(2・3時間目)キーパーソンの現状について考え、仲間と協力しそのニーズに合うプロジェクトを作る。

実際に取材した生徒と同年代の人々に出会い、フォトランゲージ・プロフィールカード・手紙等の学習活動によって共感的に現状を理解できた。そして、支援カードをヒントにその人に寄り添って考えながらグループでより良い支援について考えた。
その支援をプロジェクトとして交流することで他の支援を見て自分の支援を振り返ることもでき、より考えを深めることができた。さらに、自分には何ができるかをプリントを参考に考え交流することもできた。

最後に、実際のインドでのNGO活動の場面を動画で視聴し、教科書で学習するNGO活動についての理解を実感を伴って深めることができた。

生徒の感想から

  • 今日の授業を受けて、私は自分にできることを考えてみようと改めて思いました。将来1度は途上国に行ってみたいと思います。
  • その人に本当に必要な援助を話し合い、決めたりするのが国際協力だということがとてもわかりやすかった。
  • すごろくや、みんなで感じたことを交流しながらインドのことや子どもたちの生活について考えることができて楽しかったです。実際にお祭りの様子や水の入れ物などを見ることができて、すごく貴重な体験になりました。お茶もすごくおいしかったです。自分と同じ子どもでも、国や地域によって生活の環境・状態がまったくちがうので、そのような差が少しでも早くなくなるために、自分でもできることをしていけたらいいなと思います。
  • 途上国に対して自分に何ができるかということを考えることは難しいと思っていましたが、実際の子どもたちを見て、スムーズに意見が出ました。将来は自分もこういう強力にすこしでも携わっていけたらいいなと思いました。

今後も授業実践する中で改良を重ねながら、この教材を通して子どもたちがSDGsについて考えるような機会を作っていきたい。