サッカー×海外協力隊 コンサドーレグッズが繋ぐ途上国との絆<連載第1回>

2020年7月10日

2019年9月14日———熱気溢れる厚別競技場。
公式戦会場で北海道コンサドーレ札幌のサポーターから中古のサッカーグッズを集める、1日限りのイベントが開催されました。JICAが責任を持ってお預かりした186点ものグッズは、はるばる海を越えてアフリカや南米の地に続々と到着。さあいよいよ贈呈式という時に、新型コロナウイルスが世界を襲いました。なんとか贈呈式にこぎつけた国もあれば、コロナ禍の混乱に巻き込まれて子どもたちに届けられていない国もあります。

この連載記事では、コロナ以前の現地の日常や贈呈式の様子、そして贈呈式に関わり、日本に一時帰国となった海外協力隊たちの「今」をご紹介していきます。
第1回は、札幌出身の上杉祐介隊員。帰国後もマラウイにお金を送ってコロナ対策活動を進め、また札幌市内でNGO活動にも積極的に参加しています。

「アフリカの温かい心」、マラウイのサッカー事情

マラウイは別名、”Warm Heart of Africa”、直訳すると「アフリカの温かい心」とも呼ばれています。平和で暮らしやすく豊かな自然に恵まれたアフリカの小国マラウイで最も人気のあるスポーツは、他のアフリカ諸国と同様、サッカーです。特に男性には大人気で、子どもから大人までサッカーをして楽しんでいますし、地元チームの試合やマラウイ代表チームの試合があれば、ラジオにくぎづけになって試合の放送を聞いています。

よほどのお金持ちでない限り、子どもたちは、市販のボールで遊ぶことはありません。よく使われるのはビニール袋を何重にも丸めたボールで、火であぶって溶かしながらきれいにボールを作って遊んでいます。
学校によっては鉄製のゴールポストがあったりしますが、基本的に木の棒を2本立てるだけか、木で作った四角の枠がゴール代わりになります。もちろんネットを張っているゴールはスタジアム以外で見たことはありません。
そんなマラウイのサッカー環境なのですが、ボロボロのボールを笑顔で一生懸命追いかける子どもたちはいつも生き生きとしており、サッカーはここの人たちにとって大切な文化の一つなんだと感じています。

マラウイの学生へユニフォーム16着を寄贈

贈呈式の様子

この度は「世界の笑顔のために」プログラムを通して、コンサドーレ札幌のユニフォームを寄贈いただき誠にありがとうございました。私がチームの発足から見てきた地元チームということもあり、現地で大変感慨深く受け取らせて頂きました。
寄贈先のブランタイヤ中高等学校は全校生徒520名ほどの全寮制の学校で、私は海外協力隊としてパソコンの授業を担当しつつ教員向けに指導も行いました。

2020年2月26日に現地で行われた贈呈式では、私からヒルダ・グアウヤ校長へ16着のユニフォームを手渡しました。綺麗なユニフォームの寄贈に生徒はかなり盛り上がっており、贈呈式が終わると同時にユニフォームを着たまま、早速中庭でサッカーの練習を始めていました。日頃物静かな生徒たちが、珍しくとてもはしゃぎ回っていました。

マラウイの公立学校はどこもスポーツやクラブにかける予算はほぼなく、ユニフォームを持っている学校は多くありません。今回頂いたような立派なユニフォームを着て試合や練習ができることは非常に珍しく、生徒たちはとても喜んでいます。ちゃんとしたユニフォームを着ることによってチームとしての連帯感を強め、サッカーへのモチベーションを更にあげることができるのではないかと感じています。間違いなくこのエリア一帯の学校内で目立つサッカーチームの一つになりますので、生徒たちにはこれからもサッカーに励んでもらい、将来はコンサドーレに入団するような選手がマラウイから生まれて欲しいと思います。このような日本と途上国との優しいつながりがもっと広く、身近になってくれるといいですね。

上杉隊員からの帰国後メッセージ—離れていても、できることを札幌から

マラウイで配布している感染対策リーフレットのイラスト

現地でリーフレットや石鹸の配布に協力してくれているムリヤさん(緑のTシャツ)

3月末に日本へ一時帰国となって3カ月以上が経ちました。この一時帰国の期間を意味のあるものにすべく、社会貢献と自身の経験を積み上げる期間として有効活用させて頂いています。

帰国後も現地マラウイの方々と協力して、マラウイ保健省や現地NGOが作成した感染対策のリーフレットや石鹸を配布して引き続き啓発活動を行っています。私は活動実施場所の決定、SNS管理やリーフレットの印刷・石鹸の購入を担当しています。現地で活動してくれているムリヤさんは元々私の自宅の警備をやってくれていた青年で、現在コロナの感染リスクを抱えながらも私に代わってパンフレットや石鹸の配布をしてくれています。

札幌では、以前より所属していたホームレス支援団体「ビッグイシューさっぽろ」での活動に加え、札幌市内のNPO団体「飛んでけ!車いすの会」へもボランティアとして参加しています。22年もの間、途上国の車いすユーザーの体に合うよう中古の車いすを丁寧に整備して、旅行者に託して現地に届ける活動を行っている団体です。7月20日から8月30日まで、コロナ禍でマスクが不足している途上国の人たちのために「飛んでけ!マスク~手作りマスクで国際協力~」というプロジェクトを立ち上げますので、ご関心のある方はぜひ参加してください。

マラウイでは先日、大統領選挙が行われ、再選挙の結果、アフリカ史上初めて野党が勝利しました。大きな節目を迎えたマラウイですが、新規感染者数は徐々に増えていっています。コロナが落ち着いたらできる対策を可能な限り行って、またマラウイの人たちに会いたいです。
                   (文責:2018年度2次隊JICA海外協力隊 PCインストラクター上杉祐介)

取材後記

皆様に一日も早く現地からの喜びの声をお伝えしたかったのですが、ようやくこうして形にすることができました。世界中の人たち全てが影響を受けたコロナウイルス感染拡大、帰国を余儀なくされた約1,800名のJICA海外協力隊一人一人にそれぞれの思いがあります。コンサドーレサポーター皆様にご提供いただいたグッズをきっかけに、日本各地の隊員の今を取材する機会を得て、なにより私自身が隊員の皆さんに元気をもらっています。

上杉隊員は出発前から私たちJICAスタッフの印象に残っている人で、募集説明会ではとても熱心に協力隊OBの話に耳を傾けていました。今回の現地でのユニフォーム贈呈式の様子も丁寧に書いて送ってくれましたし、帰国後も現地にお金を送って自主活動を継続していると聞いて、とても驚きました。まさに現地の人とともに、現地の人たちのために活動する青年海外協力隊の姿ですね。
実は、青年海外協力隊の派遣数でダントツの1位を誇るマラウイ。累計1,825名と、2位1,676名のケニアを150名近く引き離しています。上杉隊員の報告記事を読んで、懐かしく現地に思いを馳せた先輩隊員たちもいるのではないでしょうか。

次回はキャベツの名産地から。群馬県の嬬恋村で「嬬キャベ海外協力隊」として活動する相澤悠太朗隊員(ザンビア・2018年度2次隊・体育)のお話しをお届けします。

                                     (文責:JICA北海道 野吾奈穂子)