サッカー×海外協力隊 コンサドーレグッズが繋ぐ途上国との絆<連載第2回>

2020年7月28日

JICA北海道がコンサドーレ札幌のサポーターからお預かりした186点もの中古のサッカーグッズが、海を越えて青年海外協力隊の活動現場に届き、各地で贈呈式が行われました。
この連載記事では、新型コロナウイルス騒動以前の現地の日常や贈呈式の様子、そして贈呈式に関わり、日本に一時帰国となった海外協力隊員たちの「今」をご紹介していきます。
第2回は、埼玉県出身の相澤悠太朗隊員。現在は群馬県嬬恋村で、「嬬キャベ海外協力隊」プロジェクトに参加しています。このプロジェクトを立ち上げたNPO法人自然塾寺子屋の矢島亮一理事長と、JICAとのスポーツ連携に力を入れている相澤隊員の母校・日本体育大学を代表して黒木豪さんからもメッセージを頂きました。お二人ともかつてJICAボランティアとしてパナマ、ブラジルで活躍された国際協力の先輩です。

Jリーグからの移籍者も!ザンビアで盛んなサッカー

中町公祐さんがJICAザンビア事務所に

ザンビア人はとにかくサッカーが大好きです。町を歩けばいたるところで子どもたちが、手作りのボールと石を並べて作ったゴールでサッカーをしています。将来の夢はサッカー選手という子どももたくさんいます。ザンビア代表の試合がある日には、バーやテレビのある家は人で溢れて歓声が鳴りやみません。
女子代表は3月10日に行われた東京五輪アフリカ予選最終ラウンドで、カメルーン
に勝利してオリンピック大会初出場を決めました。
昨年Jリーグから中町公祐(なかまちこうすけ)選手がザンビアスーパーリーグに移籍して、日本とザンビアのサッカー交流も盛んになってきています。

ザンビア共和国はアフリカ南部にある内陸国で、北はコンゴ民主共和国、北東は タンザニア、東はマラウイ、南はモザンビーク、ジンバブエ、ボツワナ、ナミビア、そして西はアンゴラの各国と国境を接しています。世界三大瀑布の一つであるヴィクトリアの滝や、野生動物の住むナショナルパークなどがある自然豊かな国です。

ザンビアの主食は、シマと呼ばれるトウモロコシの粉を練ったものです。ザンビアの人々はシマが大好物で、毎日三食必ずシマを食べるそうです。シマと一緒に食べられるのは、牛、豚、鶏などの肉類や揚げた魚、そこに油と塩で味付けされた野菜が添えられます。ザンビアにはキャベツ、トマト、オクラ、ナス、インゲンなど日本に馴染み深い野菜もたくさんあります。

コンサドーレユニフォーム15着が活動先の小中一貫校に

私の配属先は、ザンビア北部のチンゴラという街にある全校生徒約2000人のマテロ小中一貫校で、8~9年生(日本の中学校2~3年生にあたる)の生徒たちに学校体育と部活動指導をしていました。しかし、1月末から任地の治安が悪くなり、3月中旬まで首都ルサカへの退避を余儀なくされました。母校の日本体育大学が携わったパラリンピック支援事業に参加するなどの活動は続けましたが、配属先の生徒たちが年間を通して練習してきた陸上大会にも立ち会えず、もどかしい日々を送っていました。しかしそんな辛い中だからこそ、気づくことのできたこともたくさんありました。出来るだけ早く任地に戻そうと、あらゆる手続きをしてくださったJICA事務所の皆さん、そして何より配属先や任地への愛、逆に配属先からの愛を強く感じることができたことが一番の収穫です。陸上大会では、激戦区チンゴラで28校中堂々の3位。みんなよく頑張ってくれました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で日本への一時帰国が決まり、2日間だけ任地に戻ることになりました。帰国準備に追われる中、3月18日、「世界の笑顔のために」プログラムでご支援いただいたスポーツ用品の贈呈式を行うことができました。子どもたちは「今年の大会ではJapanの名門チームのユニフォームを着て試合に臨める」と胸を躍らせていました。コンサドーレ様を始め、和歌山市立貴志中学校育友会様、正則学園高等学校サッカー部様、愛知県立半田高等学校バレーボール部様からもサッカーボールやバレーボールをご支援いただきました。同僚の体育教諭も「教具が充実したことで一層指導に熱が入る」と語っていました。ザンビアではスポーツに対してやる気のある子どもたちはたくさんいますが、用具がないという問題からしっかりとした指導を受けられてないという現状があります。そんな子どもたちが今回の支援で、最も身近な学校というコミュニティの中で、スポーツを身近に感じる機会を手にすることができました。

陸上大会だけでなく、やっと用具が揃って迎える来学期の球技大会にも立ち会えずじまいでした。悔しさはありますが、それでも信頼できる同僚と子どもたちなら、一生懸命取り組んで何かを掴み取ってくれると信じています。

相澤隊員からの帰国後メッセージ-「置かれた場所で咲く」

きっとすべての物事には何か意味があるのかもしれない。いずれはこの学校を去る自分にも学校にも、首都への退避と今回の一時帰国はもしかしたら必然だったのかも知れないと今では思っています。やっと戻れた任地を2日で離れることになった時、同僚も動揺を隠せず涙を流していました。不安や悔しさは言葉では言い表せないほどありましたが、目まぐるしく状況が変わる緊急事態の中、迅速にあらゆる手続きをしてくださったJICAザンビア事務所と本部の方々に感謝を伝えたいです。ありがとうございます。
アフリカにいようと日本にいようと、置かれた場所でいかに有意義な時間を過ごすことができるかが一番大切だと思っています。

ミャンマーからの技能実習生アカさん&サイさんと

帰国後は、群馬県甘楽町のNPO法人自然塾寺子屋が群馬県及びJICA群馬デスクと連携して始めたプロジェクト、「嬬キャベ海外協力隊」に参加することにしました。キャベツの名産地として知られる嬬恋村では、技能実習生のいない農繁期は考えられないのですが、新型コロナウイルスの影響で多くの技能実習生たちは来日できなくなり、現場は深刻な人手不足に悩まされることになりました。このプロジェクトを知ったとき、緊急帰国により不完全燃焼でモヤモヤした気持ち、行き場を失った自分にとって、誰かのために活動したいという熱い気持ちをぶつけるには、これ以上のチャンスはないと思い、すぐに応募しました。6月23日から農家研修がスタートし、27日から本格的な農作業に取り掛かりました。毎日、朝2時半に宿舎を出て、3時から畑での作業をしています。
ザンビアにいる時は目の前の子どもたちを笑顔にすることにやりがいを感じていました。しかし今は、一見単純作業に見えるキャベツの収穫が、回りまわって自分を応援してくれている人、そしてまだ出会ったことのない人でさえも笑顔にしていると思い、そこに強くやりがいを感じています。

(文責:2018年度2次隊JICA海外協力隊 体育 相澤悠太朗)

NPO法人自然塾寺子屋 矢島亮一理事長からのメッセージ

2001年自然塾寺子屋設立当初から青年海外協力隊派遣前研修を通して約1000人近くの隊員と係わりを持ってきた当団体にとって、今回の新型コロナウイルス感染拡大における世界中で活動する隊員全員の緊急帰国は我々にとっても残念でなりませんでした。それ以上に、隊員活動を通じて「世界を変えたい」という熱い意志、「究極のよそ者」として現地の人々と地域の課題解決に挑戦した経験が、もったいないとの思いで、このプロジェクトを立ち上げました。そこに応募し、参加してくれた相澤君、今回の目的はひとつ「地域社会からの学びとそこで生まれる絆」です。相澤君は、ザンビアでの経験、嬬恋村での経験を通して次のステップに大きく羽ばたいてくれることでしょう。絆をつなぎ続けてくれることでしょう。
頑張れ相澤悠太朗、頑張れ嬬キャベ海外協力隊!!

NPO法人自然塾寺子屋
理事長 矢島亮一

取材後記

日本体育大学国際交流センター主任
黒木豪さん

相澤隊員の活動を取材する中で、パナマで青年海外協力隊として活躍した自然塾寺子屋矢島理事長と繋がり、温かいメッセージを頂戴することが出来ました。開発途上国での体験が日本の地域づくりに活きている。群馬県のキャベツ畑は今、活気に満ちていることでしょう。

また、相澤隊員の母校である日本体育大学は、JICAと連携協定を締結して、学生を短期の青年海外協力隊として派遣してきました。そして2013年からの5年間で、100名以上の長期隊員も世界各地に輩出しています。相澤隊員も最初はカンボジアに短期隊員として派遣され異文化で活動するやりがいを感じ、その後本格的に長期派遣に臨んだ一人でした。かつてご自身もブラジルでJICAボランティアとして野球を指導し、WBCコーチも務めた日本体育大学職員の黒木豪さんは、「相澤君の笑顔は、言葉では月並みな表現になりますが『特別な力』を持った笑顔でした。良い意味で、あの笑顔が人種や文化、立場を無力化してしまうんです」と当時を振り返ります。

前を向いて力強く精一杯今を過ごす相澤隊員の言葉に、私たちも背中を押されますね。

次回は望月直樹隊員(ケニア・2018年度4次隊・青少年活動)のお話しをお届けします。

(文責:JICA北海道 野吾奈穂子)