扇椰子のなびく病院でボランティア(中編)

【写真】下司 政代(高知)平成27年度1次隊/カンボジア王国/看護師 看護管理
下司 政代(高知)

50年前の夢の第一歩

 私は無事合格し福島県二本松で若者たちに交じって訓練を受けることになりました。訓練所での生活は、クメール語の勉強に苦しみながらも若者たちに大いに刺激をうけたものでした。カンボジア派遣隊員は成田からベトナム・ホーチミンを経て、2015年6月29日夕方プノンペン国際空港に到着しました。外に出ますと南国特有のむせ返る暑さと湿気に、いよいよカンボジアに来たなという思いを強くしました。
 JICAに応募するために看護師になると決めてから、長い年月が経ってしまいましたが、奇しくもJICA50周年の年に、人生の宿題を始めることができるようになったのです。

現地での活動

外来患者用手拭き
矢印は雑巾かと思ったタオル

話し合った結果:午前・午後消毒したタオルを使用
※感染原になる危険性あるので何かあったらすぐ撤去すること
※予算ができたらハンドドライヤーかペーパタオルにすること

2019年12月病院再訪時
改善されていました!
石鹸入れ・ペーパタオルが設置されています

5S研修

5S研修 グループワーク

 1ヶ月の現地訓練を終了後、カンボジアに派遣されたシニアボランティア6人のうち、首都以外に派遣されたのは私だけでした。同期隊員と別れ、何かしら心さみしかったのですが、前にベトナム旅行で出会ったAH-1(アジアハイウェイ1号)の標識に気を良くし、任地バッタンバンはよいところに違いないとワクワクしながら車窓を通り過ぎる景色を楽しみました。
 この移動時はJICAの車で送っていただいたのでクッションがよく快適だったことが、後で分かりました。時々任地から首都へ行くのですが、値段の少し高めのバスに乘っても、降りるときには腰が痛く、よく飛ばすので車のアップダウンと緊張とで全身がバリバリになりました。6~7時間位かかるバス旅は苦行の様でした。しかし最初に首都へ戻った時は、皆に会えたことが嬉しくて眠れませんでした。
 病院近くのホテルで2ヵ月過ごした後、アパートが決まり、この街での生活リズムもできて、活動にも少しずつ力が入って来ました。活動の要請は、看護部長を含めた幹部4人と看護管理について取り組み、看護の質の改善に取り組むというものでした。カウンターパートでもある看護部長と色々と話しましたが、「現実は非常に難しい、今の条件でスタッフの生活が成り立っているから、変えようとするのはものすごいエネルギーが要る。JICAの研修で日本にも行ったし、韓国にも行った、イギリス、フランスにも行った。ある国のボランティアにもよく怒られたよ。(フランス語と英語が堪能な彼は、ボランティアに来た人の通訳もします)、今の状況でいいわけではないのは十分知っている。少しずつ変えようと努力したけど無理だった。次の世代に期待している。」
 看護部長との話し合いを通して、大上段にこの部分に取り組むのではなく、今自分にできることをやることにしました。ミーティングが無い時やスタッフが出払っている時に、病院の情報収集のためカメラを持って敷地、各病棟を回りました。門を入って敷地を見回すと、ゴミが沢山捨てられ、水はけが悪く、食べ物が腐りどぶの様になっている水溜まりがありました。そして病棟やナースステーションの整理・整頓・清掃の状態のひどさに驚きました。安心で安全な療養環境を提供するのは病院の根幹となすところです。
 セーフティマネージメントの一つとして感染対策の考えを基本として病院の管理を行っていくことが必要であると目標を絞りました。さっそく一つの病棟で整理・整頓・清掃を行いました。その病棟の整理・整頓・清掃の前後の比較の写真を使い、スライドをつくりました。それを病院職員が集まるミーティングで発表いたしました。「病院は、利用する人も、働く人にとっても、安心で安全な場所でなければなりません。医療事故・過誤対策の基本は、整理・整頓です。感染対策の基本は、清潔です。清潔の基本は、科学的根拠のある清掃です」という考え方の浸透に努めました。なぜなら他の国にも見られますが、掃除などは身分の低い者がやるものという文化があります。「清潔の基本は、科学的根拠のある清掃」ですから、専門家である医師や看護師などが正しい清掃の方法を指導することが大事であることを強調しました。院内には感染委員会があり、ミーティングでの発表の後、一番に反応してくれたのは感染委員会長の医師でした。そして病院長はJICAの行うスリランカの5S活動※の研修に参加しました。
 その間も、病棟チーフナースや各病棟対象にスライドを使ったり、実際にやってみたりしながら活動を続けました。病院長が研修から帰り、病院全体で5S活動に取り組むことになりました。全職員が参加する研修を開き、グループワークを重ね、各病棟を回り評価を行うといったことを実施しました。最後の回では、州内の公立病院にも参加してもらい、お互いに訪問して評価を行うという事もできました。初めの頃には取り組みを嫌がって反発していたスタッフも、積極的に他病院のスタッフに指導していました。そして今は5S委員会の委員として活躍しています。
 組織のトップが動き、そして一人一人の気づきが行動を変容し、向上することを見られたのには感動しました。


※5S活動とは:整理(いらないものを捨てる)、整頓(決められた物を決められた場所に置く)、清掃(常に掃除をする)、清潔、3S(整理・整頓・清掃を維持し職場の衛生を保つ)、躾(決められたルールを正しく守る習慣をつける)という、各職場において徹底されるべき事項を5つにまとめたもの