悔いなく生きる(後編)

【写真】森本 美鶴 (徳島県)平成22年度3次隊/ヨルダン/美術教育 平成28年度2次隊/フィジー/小学校教育
森本 美鶴 (徳島県)

Live for today

写真7
2年生授業風景「ハサミのエクササイズ」

写真8
全学年による折り紙の共同作品「フィジーの風景」

写真9
3年生の凧揚げ風景「折り紙カイト」

写真10
最後の授業日に3年生と共に

 南太平洋のフィジーに待ち続けた教員養成校での図工科指導の要請があり、未来の教師を目指す教員養成校の学生との出会いを楽しみに平成28年に2度目のシニア海外ボランティア(以下SV)派遣となりました。フィジーはのんびりゆったりとした穏やかな国民性を持ち、人々は寛容かつ親切であり、フィジーは世界一素晴らしい国という自負を持っています。活動先のCorpus Christi Teachers' College(以下CCTC)は3学年120人ほどの学生が学ぶカソリック系の小学校教員養成校です。学校長はじめ親しみやすく温かい職員集団や敬意を持って接してくれる学生達に恵まれたことは幸運でした。
 しかし、フィジーではやっと2011年に体育・音楽・図工科が教科として位置づけられたもののまだ授業が実施されていない小・中学校も多く、図工・美術の重要性が十分認識されていないという途上国共通の課題や、楽天的な国民性による学生の創造力・計画性・継続性・根気力・責任感の乏しさなどの問題点は授業実践において困難を感じる時がありました。そこで、「子どもの目線に立って造形活動の楽しさを知る未来の教師を育てる」を目標に、国・地域・学生の実態に合った楽しい教材、フィジーの歴史や文化や暮らしを大切にした教材、教育実習や将来の教壇の場に即活用できる教材を使った授業を心掛けました。(写真7)
 フィジーでは日本の折り紙が図工の教科書に取り入れられていて学生からの指導の要望も高いため、シンプルかつ楽しい・フィジーの自然やくらしに適応する・日本の文化を知る・共同制作として全員の作品が掲示できる折り紙指導にポイントを置きました。共同制作は一人一人の作品に光が当たりにくい途上国で子どもたちが自信や成就感を持ち、自他の良さや互いに協力・共同の大切さを理解する効果的な掲示につながります。(写真8)折り紙から切り紙へ、そして折り紙を使った工作や楽しいおもちゃ作りなどの応用・発展教材、他の様々な表現領域の教材も授業に取り入れ、教育実習時には積極的に学んだ教材で授業する学生の姿が見られるようになりました。(写真9)また、図工科授業の総括として毎年開催した校内展覧会では、学生達が主体的に運営しアンケートの実施もできるようになりました。帰国した今も、小学校の教壇に立つ卒業生たちから時折メールで図工科の授業実践の報告がもらえることをとても嬉しく思っています。私の授業の模倣から自分自身の創意工夫やオリジナリティーを持った楽しい図工科授業に意欲的に取り組める教師に成長してほしいと願っています。(写真10)
 また、CCTCでの活動にとどまらず、他の情操教育の隊員と協力し合い、フィジー教育省オフィサー達を巻き込んだフィジーの小学校教員対象のワークショップの開催、隊員同士の授業研究会など若いJVたちと共にアイデアを出し合いフィジーの情操教育の普及に向けて研鑽し合ったこともフィジーの大切な思い出です。ヨルダン・フィジーでSVとして悔いなく過ごせた4年間は、配属先の同僚はじめJICA事務所の方々、隊員仲間など、出会ったたくさんの人達に助けられ温かい支えを得たおかげに他なりません。

Hope for tomorrow

写真11
徳島大学での公開講座 -フィジーの美術教育の推進を目指して-

日本に帰任後は、県教育委員会に依頼され県内高校の特色ある教育活動コンクールの審査員や人権教育推進員を務めたり、県内各教育機関や各地域の国際交流協会で派遣された途上国の現状や隊員としての活動について講演を行ったりなど積極的に自分の経験を地域に還元するようにしています。(写真11)
 日本ではアラビア語を使う機会はめったにありませんが、近隣の小学校にエジプト人の1年生が転入し日本の学校生活に支障をきたしていたためアラビア語を再び思い出しながら4年間日本語支援を続けました。平仮名・カタカナ・漢字とひとつひとつステップアップして教えたことを吸収し、卒業時には日本語も上手に話せ心身ともに大きく成長した姿を見ることが出来、ヨルダンでの経験が少しでも活かせたことをうれしく思いました。ささやかな帰国後の社会貢献ですが、教育現場で自分の経験を語ったり自分にできる地域のニーズに応えたりすることにより、子どもたちや退職後のシニアの方たちが途上国の現状に関心を持ち途上国に貢献したいという目標を持って未来のボランティア隊員として後に続いてくれるきっかけとなればと願っています。
 この3月には、予想すらしなかった突然の新型コロナウィルスの世界的な蔓延によりJICAの全ボランティア隊員が一時帰国を余儀なくされました。任期半ばでの帰国は隊員の皆さんはもとより派遣国の配属先の同僚の方々もさぞ残念無念であっただろうと思うと胸が痛みます。でも、いつか全世界の人々と共にこの試練を乗り越え、感染が終息し、JICA協力隊事業が再開されてボランティア隊員が希望を抱いて途上国に羽ばたいて行ける日が来ることを信じたいと思います。その時には3度目のSVとしてのラストチャレンジをするのが私の夢です。どこかの途上国でまたJICAの活動の日々に身を置いてみたい・・・そんな夢を抱きつつ、世界のすべての人々に不安のないいつもの日常が一日も早く戻ってくるのを心から祈らずにはいられません。