母ウミガメが教えてくれる環境配慮の大切さ

【写真】前田 英男(徳島)コスタリカ支所長 
前田 英男(徳島)

経歴

にぎわう街の市場の様子。パイナップルの輸出量は世界一の農業国。

1984年青年海外協力隊員としてコスタリカに派遣、帰国後JICAに勤務、ボリビア事務所、グアテマラ事務所長などを経て、2018年5月から現職コスタリカ支所長。

中米コスタリカで経済技術協力

幻の鳥といわれる絶滅危惧種ケツァール鳥(カザリキヌバネドリ)。

コスタリカで見られる「ブーゲンビリア」。美しい草花が多い。

国の発展に伴い、プラスチックごみが急増しているがそのまま埋め立てており、その適切な処理が急務である。

産卵のため、オスチオナル海岸にたどり着いた母ウミガメ。スペイン語で「上陸」を意味する「アリバダ」と言われる希少な自然現象。

 ここ数年、「生物多様性・自然環境保全・軍隊を持たない平和国家」等として日本でも少しは有名になったコスタリカ共和国。人口約500万人、面積5万1100平方㎞の小国だが、日本との関係はさほど目立った出来事はあまり起こったことはない。人の動きも限定的で、生活する日本人は400名ほど。現在日本に暮らすコスタリカ人は150名程度である。

 私は昨年から主にこの国の発展を目指した経済技術協力について先方の政府機関との協議・調整に係る業務を行っている。


 最近、日本でも環境に配慮してプラスチックストローが徐々になくなっているが、その背景になった事件をご存知だろうか。そう、ウミガメの鼻孔から突き出たストローを抜き取る動画。それはコスタリカで撮影されたもので、ストロー以外にもプラスチック袋の誤飲などで命を落とす個体もいる。多い時には一晩に数千頭の母ウミガメがオスチオナル海岸に上陸、明け方までに数十個から百個近くの卵を産み、大海原に帰っていく。日本やアジアの沿岸から太平洋を1万数千㎞も泳ぎ、産卵のためにコスタリカにやってくる。


 徳島日和佐でもおなじみのウミガメたちの長い長い旅は、人類の往来よりもずっと前から続いている。

中米コスタリカの汚水・廃棄物課題に尽力

JICAの支援により、首都サンホセ市で下水管工事が進行中。

最終処分場。充分に分別しないまま、郊外で埋め立て。縁の黒点は餌を狙うコンドル。

ゴミ収集の様子。家庭での分別はまだまだ少なく、すべてトラックで運ばれる。

ドータ市のリサイクル廃棄物の分別場。ペットボトル、段ボール、ガラスなどの一部は分別され、引き取り業者に渡る。改善の可能性は充分ある

 昨年のコスタリカ赴任時、ちょうど政権交代のタイミングであった。各種イベントでアルバラード大統領にもお会いするが、ファーストレディが日本留学のご経験もあり、ご自身も大の親日家である。


 地球上の生物の5%もが生息し、自然環境を大切にするお国柄だが、廃棄物の課題は残念ながら開発途上、汚水は川にそのまま放流、生活ごみもそのまま埋め立てているのが、残念ながら環境立国の現状である。我々JICAは、首都サンホセ市を対象に下水処理場建設と下水管埋設の協力を展開しており、昨年から 一部で初の下水処理が始まった。


 次のターゲットは廃棄物だが、数年後には埋立て場はどれも満杯になる。資源分別リサイクル、有機物のたい肥(コンポスト)化等での減ゴミなど各自治体では葛藤が絶えない。各市役所に配属する環境教育の青年海外協力隊員も同僚と試行錯誤を繰り返している。


 今年1月のダボス会議に参加したアルバラード大統領は、徳島県上勝町のNPO法人「ゼロ・ウェイストアカデミー」理事長坂野氏と対談の際、同NPOや上勝町での廃棄物課題の取り組みに関心を示した。



世界に誇れる徳島のノウハウを途上国の未来のために伝える。我々人類よりもずっと前から徳島とコスタリカを行き来するウミガメのため、我々ができること。お金だけではなく知恵とモラルで変えられるような予感がする。

現地で楽しみなこと

上勝町「ゼロ・ ウェイスト」の取り組みに関心を持つドータ市の風景。コーヒー畑が広がる緑豊かな山村地域。

生活のオン・オフの切り替えのためサルサやメレンゲなどのラテン音楽やダンスを地元コーヒーとともに楽しむ。



(「徳島人」2019年10・11月号に掲載)