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【課題別研修】アフリカ地域稲作収穫後処理/稲刈り時期の日本で2年半ぶりの研修を開催。山形県鶴岡地域の知見を学び、自国のコメ作りや管理に活かす

2023年2月27日

国産米増産へのニーズがますます高まる中、待望の来日研修を開催

アフリカ地域の国々が長年目標に掲げるコメの自給率向上。生産増を目指すにあたり避けて通れないのが「質」の問題です。アフリカ諸国では、収穫やその後の保管などが適切に行われないことによる生産ロスや品質低下が国産米の増産を阻んでおり、増え続けるコメ需要に輸入米で対応せざるを得ません。コメの輸入は外貨流出を引き起こし、とりわけコロナ禍やウクライナ情勢などで穀物価格が上昇する昨今は、課題への取り組みが急務となっています。

東京でプロジェクトサイクルマネジメント研修を受講し、この後いよいよ山形へ

課題別研修『アフリカ地域稲作収穫後処理』では、こうした国々に向けてコメの収穫や保管に関するノウハウを伝えてきました。例年、稲刈りの時期を迎える日本に研修員を招いて開催してきましたが、2020~21年度はコロナ禍によりこれを断念し、遠隔研修を実施。この時に延期された来日が2022年、ついに実現されました。
遠隔研修後、熱心な研修員たちからは開催時期を確認するメールが何度も届いたとのこと。待ちに待った研修は8月上旬から9月末にかけて行われ、14カ国21名の研修員がJICA東京センターで課題の分析手法を学ぶプロジェクトサイクルマネジメント研修を受講したのち、山形県鶴岡市に移動し、山形大学農学部による講義と実習に参加しました。

稲作の全体像を捉える多彩な研修テーマ。講義と実習で効果的な学びを実現

農場の稲を使って収穫適期の判定方法を学ぶ

本研修は収穫後処理を主としながらも、稲の生育や土壌、病害虫、かんがい設備など多岐にわたるテーマを取り上げます。JICA東北の担当職員は「農業は総合科学であり、参加者も農業の技術指導員、行政官、研究員と稲作との関わり方はさまざまであることから、幅広い要素を取り入れています。生産から流通に至る全体像も意識してほしいと考えており、月山ダムや地元米菓工場の見学などはその例です」と話します。

中でも研修員の反響が大きかったのが、収穫時期の判断です。収穫時期はコメの品質を左右する重要な要素で、「どのようにその時期を見極めるか」は各国共通の課題となっています。講義では適期を決定する手法などを学び、実習では大学の農場で栽培する稲を教材に、収穫期を迎えたモミの特徴などを自らの目で確かめました。

適期を逃さず効率的に収穫を行うための機械化や、収穫後のコメの品質を守る保管設備も研修員の関心が高いテーマです。ここでは講義と実習に加え、農機展示会の見学や、地元JAの協力によるコメの貯蔵施設の視察も実施。感染対策を徹底しながら実現した現地学習は、体験を通じた貴重な学びとなりました。

活発な質疑応答と意見交換で、完成度を高めたアクションプラン

念願の来日研修で、稲刈り実習も実施

念願の来日がかなった研修員たちの熱意は高く、研修中は質疑応答が活発に行われました。グループワークを通じ、収穫適期などの共通課題について研修員同士で意見交換ができたことも大きな収穫でした。

帰国後の活動計画については山形大学教員が随時相談を受け付け、中間発表も実施。研修成果の一つとなるアクションプランの完成に向けて、内容を繰り返し磨き上げました。アクションプランにおいてJICAが重視するのは、自国で確かに実行できる計画であること。理想を描くあまり机上の空論になってしまうのではなく、研修員自身はもちろん、職場や組織の仲間、カウンターパートなど連携する全ての人にとって実行性の高い計画を立てることが目標達成の鍵を握ります。

こうした視点を踏まえ、自国の課題解決への具体的なプランを完成させた研修員たち。ガボンの農林研究所で稲育種プログラムを研究するロマリックさんは「プロジェクトサイクルマネジメント研修を通してアクションプランで解決すべき課題を見つけることができた。収穫適期の講義は特に有益で、今後は自国の環境で4品種の収穫適期を決定することを目標にしたい」と意気込みを語りました。

地域の文化と発展の歴史を学び、自国の農業をけん引するリーダーに

致道博物館視察の様子。旧鶴岡警察署庁舎の前で記念撮影

最終日には本研修初の試みとして、庄内藩の城下町として栄えた鶴岡に残る史跡を訪ねる『鶴岡地域理解プログラム』を実施しました。人材育成や農業振興を重んじた庄内藩には、藩と領民が連携して地域発展に力を注いできた歴史があり、その気風を礎に明治以降の近代化も成し遂げられたといいます。企画意図について担当職員は「これから自国の農業をけん引する研修員たちに、行政や地域、住民が連携して取り組んだ地域開発の事例と、人材教育の風土や文化の観点も学びの一つとして持ち帰り、これからの活動に生かしてもらえたらと考えました」と話します。

研修員たちは『庄内藩校 致道館』や『松ヶ丘開墾場』などを訪れ、歴史的建築や昔ながらの日本の生活文化を興味深く見学していました。『致道博物館』にはかつてのコメ作り用具の展示もあり、「自国にも似た農具がある」と話す研修員も。現代の農機の発展につながる先人たちの知恵の積み重ねを知るとともに、国を超えた文化の接点を感じる機会となりました。

各国の期待に応え、発展し続ける研修。次回は遠隔と来日のハイブリッド開催を予定

研修を終え、閉講式で充実の笑顔を見せる研修員たち

2008年のスタート以来、本研修に対する参加者の評価は常に高く、開催ニーズも絶えることがありません。参加国や研修内容の多様さから、研修員の希望に応えることは簡単ではありませんが、毎年内容に改善を加え、試行錯誤を続けています。今回も研修員からは「研修での学びを確実に実践すれば、アフリカ諸国に共通するコメの収穫後処理の問題を解決できる」「食糧安全保障と貧困削減を目指しコメを主食作物にしようとしている他の途上国にも、ぜひ本研修を行うべき」などの感想が聞かれました。

今年2月には2022年度研修が始動します。準備を進める担当職員は「2~3月にかけて行う遠隔研修は、夏に予定する来日研修の下地作りという位置づけです。コロナ禍の遠隔研修の経験を生かし、来日時の学びを最大化できるような研修プログラムにできれば」と語ります。発展し続ける研修に、多くの国から熱い期待が寄せられています。