【課題別研修】医療機材管理・保守A-Cコース/世界で高まる医療ニーズに応える研修の今

2023年3月1日

研修員たちが待ちわびた、コロナ禍以来初の来日研修

課題別研修『医療機材管理・保守』は、世界の保健医療サービスの質の向上を目指し、1984年から実施されてきたJICA研修です。医療機器の保守管理に携わる各国の技術者らを対象に、彼らのニーズを踏まえたさまざまな医療機材を取り上げ、その仕組みや使用方法、保守点検のノウハウを学びます。

研修所と各国をオンラインでつないで行う事前学習

コロナ禍により過去2年はオンラインでの実施となりましたが、2022年度は念願の来日研修を再開。これまで以上に多くの参加希望が寄せられたことを受け、2022年7月から2023年5月にかけて言語別の6コースを開催し、計50カ国60名の研修員が参加する見込みです。各コースはオンラインでの事前学習、オンデマンド方式による自習、そして来日研修という三段階方式で実施されます。約6週間にわたる来日研修では、福島県郡山市にあるエア・ウォーター東日本株式会社のメディサン研修所を拠点に講義や実習を行い、県内外の医療施設や医療機器メーカーも見学します。

今回はメディサン研修所の大内学所長らにお聞きしたお話をもとに、2022年に開催されたA、B、Cコースでの来日研修の模様をご紹介します。

感染防止に苦慮しながらも、医療現場や医療機器メーカーとの貴重な交流を実現

酸素製造工場の見学

2年半ぶりの来日研修は、コロナ禍の影響を受けたものとなりました。カリキュラムには新たに酸素濃縮器を追加。人工呼吸器の講義・操作実習では日本政府がコロナ禍に際し各国に供与したモデルを使用するなど、医療現場の最新のニーズに基づき内容のアップデートを図りました。

当然ながら、研修中の感染防止対策も欠かせません。日々の健康観察や消毒など基本的な対策はもちろん、手元をスクリーンに拡大投影できる書画カメラを活用し、研修員たちが密集せずに細かな機材の操作を見られるようにするなど、さまざまな配慮を重ねています。

本研修の特色でもある医療機器メーカー見学については、5つのメーカーから協力が得られ、対面やオンラインでの講義や、工場見学を実施。コースによっては、研修の始めに行う各国の課題共有の場にメーカーも参加し、研修員が抱える課題や講義への期待を理解したうえで指導を行うことができました。研修員にとって作り手から直接学べる機会は非常に貴重です。「自国では得られない経験」と喜びの声が多く聞かれ、メーカー側からも「各国の現状を知ることができてよかった」と感想をいただきました。

グループワークを通じ、医療機材の正しい知識を広める人材に

グループワークで発表を行う研修員たち

研修ではグループワークも実施。これは本研修で特に重視する「学びを広めていける人材の育成」を目的としたものです。20年以上にわたり研修員を指導してきた大内所長は「当初は個人の技術向上のみに終始する傾向がありましたが、それでは国の長期的な発展にはつながりません。身に付けた知識やスキルを周囲に広めることを意識してもらえるような研修を心がけています」とその意図を話します。

多くの研修員が課題と認識するのが「使用者が正しい取り扱いを知らないために、医療機材を壊してしまう」ということ。研修員たちは課題の解決方法について話し合うだけでなく、看護師など医療機材を実際に使用する人たちに向けた資料作成や、その発表も行いました。これは自国で指導を行うための予行練習になります。研修員同士が積極的に情報共有する姿も見られ、今後の活動に向けた心強いつながりが構築されたようでした。

自国での活動で大切なのは、“小さな問題から取り組むこと”

研修員が考案した、心電計の使用方法を正誤の例で示すポスター

研修の最終段階では、帰国後の活動計画となるアクションプランを作成しました。研修所ではこの時、研修員に対し「小さな問題から取り上げよう」と伝えているといいます。研修員の多くは自国での活動に十分な予算を持っていません。そうした中でも医療機器の故障や破損を防ぎ、できるだけ長く使えるよう取り組んでいくためには、実現性の高い計画を立てることが重要となるためです。

ガーナに帰国後、現地の医療機関で活動するルースさん(右)

助言を受けた研修員たちは、自身の職場で改善を要する医療機材について、使用者への指導や定期的なメンテナンスなど具体的なプランを策定。加えて、正しい使用方法を伝えるポスターや、機材の状態を確認するチェックシートなども作成しました。計画を実行に移す準備を整えたことで、帰国した研修員からは「すぐに活動をスタートできた」との報告が届くそうです。8月末から開催されたBコースに参加したガーナの保健省職員ルースさんもその一人。チェックシートを活用するほか、研修での学びや今後の取り組みについて数十人の同僚を前に発表する場も設けたといいます。本研修が目指す学びの広がりは、各国で確かに実を結んでいます。

「お金がない、人手もない」切実な研修員の声に強まる支援への思い

現在は残る3コースを順次開催している段階ですが、すでに2023年度研修への参加希望も寄せられているとのこと。研修所の皆さんは「本研修への大きな期待に応えられるよう研修の質を高めていきたい」と気を引き締めます。

大内所長も「限られた研修期間で各国のニーズに応えることが今後の課題」と話し、「研修員から非常によく聞かれるのは “お金がない、人手もない”ということ。人的リソースや環境が整えられ、コロナ禍以前に実施していた帰国研修員への指導が再開した際は、より実践的な学びを届けたい」と各国の切実な願いに向き合う指導者としての思いを語ってくれました。健康や安全へのニーズが高まる今、よりよい医療サービスを世界に広めるための挑戦は続きます。