• ホーム
  • JICA東北
  • トピックス
  • 2022年度
  • 【課題別研修】畜産行政官の政策立案および事業管理能力向上/畜産物の安定生産を目指し、途上国の畜産開発を支える人材を育成

【課題別研修】畜産行政官の政策立案および事業管理能力向上/畜産物の安定生産を目指し、途上国の畜産開発を支える人材を育成

2023年3月17日

途上国の畜産業の開発・発展のために必要な行政官の育成

ネパールから参加のマヘンドラさんが紹介した現地の様子

ソマリアのアブドゥルさんが紹介した現地の生乳販売の様子

畜産を振興する途上国において、畜産の生産性向上のためには、飼養技術や生産技術、繁殖技術、と畜・加工技術の向上や疾病対策の強化、インフラ整備など解決しなければならない課題は多くあります。これらは農村の発展や農家の豊かさに直結するので、優先的に解決したい課題です。

例えば、畜産物の販売によって農家の生計を向上させるために、安定的に食肉や乳を生産するための技術指導が求められます。しかし、途上国ではこのような畜産振興にかかわる国の方針や開発計画はあっても、畜産経営を指導し先導するための人材が不足しているというのが現状です。そのため、途上国では畜産行政に通じた人材の育成が求められており、この研修が畜産開発にかかわる行政の効果的で効率的な運営に貢献しています。

開発途上国5カ国から10名が参加し、遠隔研修を実施

日本の畜産政策や畜産技術、農村開発について紹介し、途上国の畜産行政開発を図るために実施されている課題別研修「畜産行政官の政策立案および事業管理能力向上」。各国の畜産開発行政に携わる中堅行政官を対象に、ほぼ毎年行われています。
新型コロナウイルス感染症の流行により、2020年、21年に続き、残念ながら22年も来日研修は叶いませんでしたが、10月3日から12月23日までのおよそ2ヶ月半をかけて、動画視聴とライブセッションを織り交ぜた遠隔研修を行いました。今回は、南スーダン、ソマリア、ナイジェリア、ネパール、パキスタンの5カ国から10名の行政官が参加しました。

ネパールのガウタムさんが紹介したヤギ・鶏・野菜の自社一貫農場

本研修をコーディネートするのは、福島県西郷村に本所を構える独立行政法人家畜改良センター。
「日本における畜産の発展と国民の豊かな食生活に貢献すること」をミッションに掲げる同センターは、全国11ヶ所に牧場をもち、長年にわたり日本国内へ畜産の新技術や知見の普及をする一方で、開発途上国に対しても知見の共有を行なってきました。

ネパールのガウタム・バーラト・ラジさんは、13年のキャリアを持つ畜産行政官ですが、仕事の傍ら精力的に執筆や動画配信を行い、チャンネルの視聴者は12,000人以上と業界のインフルエンサーでもあります。
自身の生涯をネパールの畜産業の発展に捧げるべく、精力的に活動する中で、「JICAの研修で得た知識をぜひネパールにも普及したい」と参加を決めました。

独自の畜産技術を有する日本の知見を、さまざまな動画教材で共有

家畜改良センター岩手牧場での搾乳所撮影の様子

日本の畜産は、北海道の大規模酪農や本州の都市近郊型、中山間地の放牧型、耕畜連携型など、環境や土地基盤に合った多様な飼養や経営形態が取られており、独自の畜産技術が蓄積されています。口蹄疫や鳥インフルエンザなどの家畜伝染病の予防、HACCPに沿った衛生管理の経験も有しており、こうした知見が途上国の畜産開発や家畜疾病管理に大変有効です。

研修カリキュラムは、日本の畜産発展史からはじまり、畜産・酪農をめぐる情勢や農村開発概論、日本の家畜衛生政策や安全管理、個体識別とトレーサビリティシステム、アニマルウェルフェア、6次化産業の取り組みなど多岐に亘ります。本来の訪日研修とは一部内容を変更し、遠隔でも理解しやすいようカリキュラムを設定しました。

実際に制作した新しい研修動画のキャプチャ画面

今回、力を入れたのは、「めん羊の飼養管理・繁殖普及」、「牛の繁殖技術」、「組合事業(酪農業協同組合と6次化)」の研修用の動画制作。「研修員からの研修要望が高かった「畜産技術分野」や「組合事業」を、より詳しく伝えられるよう、家畜改良センター関連牧場や民間の酪農業協同組合において、取材や念入りな打ち合わせを行って構成を考え、現地にいるような臨場感を感じてもらうため映像にも気を配りました」と家畜改良センターの担当者は話します。
「ただ、動画を見るだけで技術の習得は難しいので、この中から“何を自国で活用できるか”、“自国に必要なものは何か”など、考えを促す内容にしました」

研修員が作成したアクションプランに関する検討会

また、講師や研修関係者が、研修員個別の業務や興味関心、各国の現状を理解した上で対応できるようにと、研修員が作成した「自国の畜産分野の課題を分析したインセプションレポート」を翻訳し、共有するなど、きめ細やかな配慮を行いました。これにより研修員や参加国への親近感が生まれたと言います。

非常に熱心に受講した研修員たちの帰国後の取り組みに期待

閉講式の様子

最大8時間という時差にもかかわらず、遠隔研修に非常に意欲的に取り組んだ研修員たち。講義ごとに寄せられる質問は毎回想定数を上回りました。反響が大きかったのは、畜産技術分野やPCM手法に対する講義。
また、新しい3つの研修動画については「高度な畜産技術が紹介された最高のビデオだった」など大変好意的な感想が寄せられました。

研修の後半には、行動計画を体系的にまとめたアクションプランを作成。ネパールのガウタムさんは、観光地における農畜産物の需要の増加に着目し、小規模農家に対して山羊や鶏飼育と野菜栽培をミックスした農畜複合農業を普及し生計を強化する計画を発表しました。

またソマリアの畜産・林業・放牧省職員ドゥコウ・アブドゥライ・ダヒールさんは、かんばつが問題となっている現状を踏まえ、乾燥地に強いラクダに注目し、餌となる飼料木の保全を通して牧畜民のラクダミルク増産の計画を発表しました。
講師陣からは「総じて研修員の業務に直結した実現性の高いプランが作成できていた」と高く評価されています。

一番右が2019年度研修員のジェイコブさん(2022年撮影)

本研修を受講した研修員たちの帰国後の活躍は目を見張るものがあります。
2019年に来日研修を受講したナイジェリアのオッペケ・ジェイコブさんは、食肉衛生を改善するための取り組みをアクションプランに掲げ、その後も国内外で精力的に活動を続けました。22年にはJICAの現地調査を受け、今後JICA専門家による技術指導が行われる見込みです。

酪農や畜産の知識を深め、技術を習得することで国民生活の質が向上することは間違いありません。途上国の食料の安定生産に向けた行政機構の組織的な取り組みをJICAは今後も支援していきます。