【課題別研修】下水道資産の適正管理(アセットマネジメント) /2022年度遠隔研修は相互コミュニケーションが充実

2023年1月30日

災害や老朽化のリスクを把握し、下水道施設の適切な維持管理を目指す

イエメンの老朽化した下水道施設

途上国の持続的成長には、社会資本であるインフラ施設の適切な維持管理が必要とされます。とりわけ都市部においては、人口増加や経済発展によって水需要が増大しており、それに伴い排水量も増え続けていることから、下水道処理システムの整備や維持管理が適切に行われる必要があるのです。しかし、多くの途上国の下水道システムは歴史的背景により整備時期は異なるものの、老朽化が進んでおり、特に下水管は地面の下にあるため現状把握すら困難な状況となっています。また、新たに整備されているものも施工不良、低品質な建材の使用等によって漏水や詰まりをはじめとする不具合が発生しやすく、適正に管理する手法も途上国ではまだ確立されていません。

JICA東北では、すでに下水道システムがある程度整備されている途上国を対象に下水道施設の状態評価や更新が必要な施設の選定、自然災害に考慮した施設管理などができるよう、下水道アセットマネジメントにかかる知識や技術を習得する研修を2016年から継続して実施しています。2022年度も遠隔研修と来日研修を組み合わせたプログラムで研修が始まりました。

仙台市や東北大学の協力のもとに行った遠隔研修には、7カ国から9名が参加

遠隔研修の様子

2022年10月3日から11月14日まで約1ヶ月半の日程で行われた2022年度の遠隔研修には、カンボジアやモロッコ、トルコなどから政府職員や自治体職員、水道公社職員など、水道施設の管理や計画等に携わる担当者9名が参加しました。研修はZoomでのライブセッションとテーマ別動画の個人視聴が組み込まれ、メリハリあるカリキュラムが用意されました。

講義は今年度も宮城県仙台市の協力のもとに行われました。東日本大震災をはじめ多くの災害を経験している仙台市建設局には独自の知見が蓄積されており、仙台市の水道事業は2014年に国内で初めてアセットマネジメントシステムの国際規格ISO550001を取得。インフラ機能を持続的に管理する方法を確立し、東日本大震災での被災経験と合わせ、国内外への技術協力・支援も推進しています。さらに今年度は東北大学教授らの講義も組み入れ、日本の先進的かつ画期的な取り組みを伝えるとともに、若手の研究者や学生たちとも議論ができる機会を設けました。

SNSの活用で研修員同士につながりが生まれ、モチベーションが向上

オンライン発表会で進行するJOCA東北の相澤さん

本来であれば来日研修で1ヶ月ほど滞在し視察や学びを深めたいところですが、コロナ禍のため今年度も遠隔研修からスタート。研修員は自国の通常業務の中で受講の時間を作り、理解を深めなければなりません。研修を受託した公益社団法人青年海外協力協会JOCA東北の相澤幸裕さんは、「オンライン研修は、動画で繰り返し視聴が可能なのでピンポイントに学びが深まるというメリットがある一方、コミュニケーションが取りづらく双方向の議論が深まりにくいという一面もあります。
研修員同士の関係性が深まれば学びの意欲も高まると考え、研修員同士のコミュニケーションツールにWhatsApp(ワッツアップ)を導入。まずは自分が職場の日常の風景などをアップし、気軽にメッセージのやりとりができる場を作りました」。同じ課題を持ち、目標を同じくする研修員に次第に横のつながりが生まれ、研修に対する意欲の高まりを肌で感じることができました。

ライブセッションでは質疑応答の機会を多く設け、ディスカッションが活発化

モロッコの研修員と東北大学李教授のディスカッションの様子

今回の遠隔研修は、下水道事業について広く理解し、本邦研修の学びをより深めるために自国の課題や目的を明確にすること、それらをもとに具体的な取組を検討することが目的です。初日には研修員が自国の現状と課題を示すカントリーレポートが発表され、動画やライブセッションを通じてプロジェクトサイクルマネジメント手法について学びました。また、下水道システムの管理方法に関しては、仙台市のアセットマネジメントの概要、下水道台帳記載情報の詳細、施設の監視保全や維持管理の手法、効率的な改築計画の立案方法、リスク評価表の役割や作成方法についての講義が用意されました。

加えて、今回のライブセッションでは仙台市建設局や東北大学の講師陣と研修員との会話の機会を多く設け、議論の活発化を図りました。一方通行になりがちな遠隔研修ですが、コミュニケーションの場を増やしたことで通年よりもディスカッションが深まりました。研修の最後には各自が体系的に整理した自国の課題や来日研修でさらに学びたいことを発表。「研修を通じて自国の課題を明確にし、ニーズに合った形で新しい技術や知識を習得してもらうことで、より実現可能なアクションプランになる」と相澤さんは話します。

まずは自国の課題を洗い出し、来日研修でさらに学びを深める予定

東北大学の先生、学生と研修員らとの情報交換会集合写真

汚泥処理やパイプラインの老朽化、管路へのゴミ投棄、破損など、下水道管路施設の課題も国によってそれぞれ。研修員は皆、意欲が高く、課題解決を切実に願っており、「時間が足りなかった。もっと意見交換したい」と充実の感想が聞かれました。2023年には同じメンバーでの来日研修が予定されているため、それまでに自国の課題をさらに分析することが求められます。その間の学びを支えるため、JICA東京の課題別研修「下水道マネージメント」と連携し、日本の民間企業の技術セミナーにも参加できるようコーディネートしたり、仙台市の協力を得て、追加でオンデマンド講義を受講したりするなど、遠隔ならではの強みを生かして、継続した学びを提供しています。

仙台市講師からのアドバイスを受けるトルコの研修員ムハンマドさん(画面左)

トルコから参加したアンカラ上下水道局計画調整渉外部のムハンマド・エルジャンさんは「仙台市が従来の保守管理から資産管理システムへの移行をどのように成功させたかを深く理解したい」と来日研修に期待を膨らませています。課題先進国である日本の取り組みをヒントに、研修員たちが自国での適正な管理を目指し、少しずつ活動をスタートさせました。