【青年研修】イラク「再生可能エネルギーA」コース/市民の生活を支えるため安定した電力供給を目指して

2023年2月6日

長年の紛争や経済制裁で電力網に打撃を受け、電力不足に苦しむイラク

イラクで最も活用が進んでいる太陽光発電

長きにわたる紛争と経済制裁で経済に打撃を受けたイラクは、国際社会の支援を受け復興を進めています。中でも電力セクターは、新規投資不足、管理不足によって発電、送電、変電、配電とすべての分野において機能が大幅に低下してしまいました。供給量は需要に見合わず、発電設備の増設が急務となっています。さらにイラク政府は再生可能エネルギーの活用を含めた供給システムの強化によって必要な供給量を満たすことを「国家開発5か年計画(2018-2022)」の中で目標に掲げており、インフラ整備に加えて再生可能エネルギーの活用促進、人材育成を課題に挙げています。

イラクの次世代を担う若手職員が日本の先進的なエネルギー政策を学ぶ

遠隔研修の開講式の様子

イラクの再生可能エネルギー分野における将来のリーダー育成のため、青年層の知識と意識の向上を目的に実施された、青年研修イラクの「再生可能エネルギーA」コース。ここでは、日本のエネルギー政策や制度について理解を深め、具体的な発電事業やその技術、運用の課題を知ること、さらに関係者との意見交換を通じて相互に学び合い、課題解決に向けた意識を高めることを目標に掲げています。2022年9月29日から11月10日までのおよそ1ヶ月半の間、動画視聴とライブセッションを織り交ぜた遠隔研修で行われました。イラクの連邦電力省や連邦石油省、連邦科学技術省などの職員8名が受講しました。

連邦電力省でエネルギー研究を行うアルマリギ タフシーン アルワン ホーシさんは、「世界の再生可能エネルギーにおけるデジタル化の動向について知りたい。将来の計画策定のため、特に3年後までにどのような再生可能エネルギーへ転換できるのかを検討するために役立てたい」との期待を膨らませ、研修に参加しました。

太陽光を中心に風力、地中熱、バイオマスなどさまざまな事例を紹介

イラクの太陽光パネル

研修コーディネートを担当した一般財団法人日本国際協力センターJICE東北支所の大和優希さんは、「カリキュラムは、日本の再生可能エネルギー政策をはじめ、戦略的な環境アセスメントの方法、イラクにおいて将来的に持続可能なクリーンエネルギーの獲得方法を検討するための太陽光のほか、風力、地中熱、バイオマス等の多様な分野の開発事例など、多角的な視点を持って構成しました」と話します。特に、東日本大震災を契機に福島県の会津地方や宮城県の東松島市で行われている再生可能エネルギーによる分散型電源開発は研修員の関心を集めました。その特徴は、計画・政策の決定段階から市民の意見を取り入れる戦略的な環境アセスメントです。

研修中(ライブセッション)の様子

JICE東北支所・支所長(当時)の平山剛道さんからは、「特に研修員の関心が高いのは、太陽光発電です。比較的コストが低いこともあり、取り入れやすく、手近に感じていることが背景にあります。日本の太陽光発電の機材やシステムについての講義の後には多くの質問が寄せられ、自国に取り入れるためにはどのようにすればよいか、思考を巡らせている様子が伺えました。既設の設備もあるため、それらを今後効率よく活用する方法も課題です。現地で太陽光発電に取り組んでいる本邦民間企業の講義は、特に議論が活発化し、研修員からは現状の事業進捗に関する質問がなされ、双方にとって展開が期待できる発展的な機会となりました」と充実した研修の様子が伝えられました。

一方、これまであまり馴染みのなかった地中熱利用システムの講義には、前提となる基本情報の確認も含め多くの質問があがりました。研修員たちは、ひとつひとつの講義に熱心に耳を傾けており、自国のために少しでも有効なものを取り入れ、発展に尽力したいという意志が感じられました。

イラクの人々の生活を支える、安定した電力供給網を目指して

閉講式での集合写真。日本の第一線で活躍する専門家が研修員のアクションプランへアドバイスを行いました

研修の仕上げには、自国の課題と行動計画を体系的にまとめたアクションプランを策定。研修員の関心に沿って2グループに分かれ、それぞれにプランを検討し発表しました。まずは、取り組みやすいところからスモールスタートし、成功事例を作ることに。その間の能力開発を経て、資金面の確保ののちに次の大きなプロジェクトへチャレンジするよう、講師陣から助言が送られました。

修了証をオンラインで受け取るタフシーンさん。

タフシーンさんは、「今回の研修では、特に“すべては未来の子どもたちのために”というスローガンを掲げる会津電力の事業内容に強く感銘を受けました。私にも3人の子どもがいますが、世界中の子どもたちのためにも、安定した平和に満ちた世界を築きたい。2011年の震災以降、日本の皆さんは柔軟な行動力を持って復興を遂げました。わたしたちは戦後イラクの新しい世代といえますが、将来はイラクと日本、共に協力して新たな架け橋を築くことを強く望みます」と、継続的な協力関係の構築に期待を抱きつつ、自国の人々の安定した生活を支えるエネルギー課題の解決へ、着実に一歩を踏み出しました。