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【新型コロナに挑むJICA帰国研修員:日本での学びを活かし、各国で大活躍!】第4回 マレーシア・パレスチナ:人々の不安を和らげ、日常の暮らしを守る

2020年5月29日

日本でJICAの研修を受け、母国に戻った帰国研修員たちが、その学びを活かし、それぞれの国で新型コロナウイルス対策に奮闘する姿を追うシリーズ第4回は、マレーシアとパレスチナからです。コロナ禍で活躍する帰国研修員は、医療分野だけではありません。疲弊する人々の心のケアに向けた相談窓口の設置や、ウイルスを封じ込めるため、適切な廃棄物管理で人々の暮らしを守る研修員たちを紹介します。

こころのサポートホットラインを開設:マレーシア

現地大手衛星放送で、ホットラインについて説明するヌラシキン主席調整官(右)

「『突発的に大きな被害が発生したときは、担当部局だけでなく、他省庁やNGO等の人的・経済的協力を仰ぐ必要がある』。このJICAの研修からの学びが、NGOとの連携強化を進め、協働して新型コロナウイルス感染症に関する『こころのサポートホットライン』を開設することにつながりました」

マレーシア保健省メンタルヘルス心理社会支援サービスのヌラシキン主席調整官と、ルハナ心理カウンセリング部長は口を揃えます。

こころのホットラインのウェブサイト

ホットラインには保健省から延べ15名、NGOから30名のカウンセリングスタッフが対応に当たっています。都市封鎖に伴うストレス、不安、うつ、自殺志向、身近な人の自殺、家族間の衝突、暴力、経済的困窮など、市民から寄せられるさまざまな相談、その一つひとつに真摯に向き合い、話を聞いて、ストレス解消方法のヒントや、専門機関への相談などをアドバイスします。

カウンセリングを始める前にスタッフに説明をするヌラシキン主席調整官

「市民の不安に向き合うカウンセリングスタッフのこころの健康も重要。スタッフに対するケアも研修で学んだスキルです」というヌラシキン主席調整官らが参加したJICAの研修は「LEP(東方政策)2.0被災者のための心理的ケア」。マレーシアの医療・心理分野の専門家が対象の研修で、災害後の被災者への心理ケアを学びました。兵庫県や熊本県など、日本の災害被災地にも足を運び、住民に対する自治体の心理的ケアの取り組みも視察。2017年度から3年にわたり実施され、これまで32名が参加しました。

研修を受け入れた主要な国内協力機関、兵庫県こころのケアセンターの加藤寛センター長と大澤智子研究主幹は、ヌラシキン主席調整官たちの活動について、次のようにエールを送ります。

兵庫県こころのケアセンターを訪れた研修員ら(2019年11月)

「帰国後、日本で得た知識、確信、研修生仲間のネットワークを最大限に活用し、災害に備えていたことが、新型コロナウイルス対応にも活かされていると思います。今後もマレーシアのやり方で、市民に備わっている回復力を引き出し、人々の生活環境を整えてください。そして、セルフケアも忘れないように」

研修員たちは学んだ知識を広めようと、平時から、日本の災害対策の経験を手本にして啓発用の教材やガイドライン等の作成、他省庁や NGO等へのセミナー・意見交換なども開催しています。国民へのTV・ラジオなどを通じた啓発活動については、年に1回以上行うという目標を立てており、今年は、新型コロナへの不安の高まりを受け、すでに5回を超えて実施しています。

マレーシア保健省によると、5月27日現在、感染者数は7,619名(死亡者数115名)。不法滞在外国人労働者を除き、感染者数は減少傾向にあるものの、6月9日まで「条件付き活動制限令」が延長され、州をまたぐ移動や大人数が集まるイベントの開催の禁止などが続いています。まだまだ「こころのホットライン」は鳴り続けるとみられ、その役割が期待されます。

適切な医療廃棄物処理でガザ地区の感染拡大を防ぐ:パレスチナ

パレスチナのガザ地区は、人口が密集し医療体制も脆弱なため、新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がる恐れがあります。5月27日現在、ガザ地区の感染者数は61名(死亡者数1名)。全員が地区外からガザに戻り、隔離施設待機中に感染が確認されており、施設外での感染者はいません。

アリ・バルフム・ガザ南広域行政カウンシル代表

ガザ地区内にウイルスを持ち込ませないため、水際での感染防止策が重要となるなか、隔離施設での医療廃棄物の管理にあたるのが、アリ・バルフム・ガザ南広域行政カウンシル代表です。域外から戻ったガザ住民が、検査を受け、陰性が確認されるまでの間待機する隔離施設の廃棄物(ごみ)収集・処理を統括しています。

バルフム代表は約25年前、パレスチナ自治政府が誕生した直後に来日し、JICAの廃棄物管理に関する研修に参加しました。今では、ガザ南部における廃棄物行政のトップとして陣頭指揮をとります。なかでも2017年からJICAと協力し、ガザ地区の医療廃棄物の管理体制の強化を進めてきたことが「今回の新型コロナウイルスの危機対応に効果を発揮しました」と言います。

「隔離施設から出される廃棄物は、ウイルスが付着している可能性があり、処理には適切な感染防止対策が必要です。作業員は、マスク・手袋等を着用し、収集された廃棄物は滅菌処理され、決められた作業手順に従い、最終埋立処理場へ運搬されます」と説明するバルフム代表。管理体制の構築を進めてきたことが、緊急時の適切な対応につながりました。「かつて研修で学んだ技術面と財政面を総合的に管理する手法は、現在の業務でも活かされています」と語ります。

【画像】

(右)医療機関から分別・滅菌処理された医療廃棄物は、専用の容器に入れて回収
(左)廃棄物用の車両を消毒する作業員

ガザ南広域行政カウンシルが管轄するガザ中・南部では、保健庁による隔離措置開始以来、約1900人が13か所の施設に収容され、排出されたごみは6トンに及びます。感染を封じ込めるため、隔離施設での安全・適正な廃棄物管理が、ガザ中・南部地区に暮らす92万人をウイルスの脅威から守っています。