アンゴラで安全な車社会を実現 : 自動車整備指導員を育成するトヨタアンゴラアカデミーをサポート

2021年4月23日

トヨタアンゴラアカデミーで、自動車整備の指導を受ける研修生

アフリカ南部に位置するアンゴラで、安全な車社会を実現するため、自動車整備士の育成が始まっています。昨年10月、自動車整備指導員を育成するトヨタアンゴラアカデミーが開校。コロナ禍に伴い、オンラインでの講習も併用しながら、研修生たちは日々、技術の習得に励んでいます。長らくアンゴラの人材育成分野で協力を続けてきたJICAは、豊田通商のグループ会社トヨタ・デ・アンゴラと連携して、専門家の派遣やカリキュラム作成といった面でアンゴラの自動車整備技術の底上げをサポートしています。

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アンゴラ雇用・職業訓練庁総裁(左から5番目)、宮本JICAアンゴラ事務所長(左から6番目)、行政・雇用・社会保障省相談役(左から7番目)とアカデミー第1期の研修生ら

整備士不足が原因で交通事故が多発

国土が広く、また、公共交通手段が限られるアンゴラでは、移動手段として自動車へのニーズが高いものの、定期点検やメンテナンスへの意識はまだ低いため、走行不能になるまで修理せずに乗り続けることも頻繁です。さらに、正しい修理技術や知識をもつ自動車整備士が不足しており、故障や交通事故が絶えない状況にあります。

トヨタ・デ・アンゴラ(以下、TDA)は、アンゴラの安心・安全な車社会を実現するために自動車整備技術の定着および自動車整備人材の育成を行っています。今回、親会社の豊田通商がこれまでアンゴラの保健事業で連携してきたJICAに対し協力を呼びかけ、「トヨタアンゴラアカデミー」の開校へと至りました。

「自動車整備士になるためには、多くの専門的な知識と技術が必要です。アンゴラでも多くの人がトヨタの車を使用しており、TDAの定める水準の整備技術をトヨタアカデミーで学べることにより、実践的で品質の高い整備技術を習得できると期待しています」と話すのは、トヨタアンゴラアカデミーの研修生の一人、エルネスト・セバスティアオさんです。

トヨタアンゴラアカデミーが設置されたカゼンガ職業訓練センター

エルネストさんを含むトヨタアンゴラアカデミーの研修生は、アンゴラの雇用・職業訓練庁傘下のカゼンガ職業訓練センターで自動車整備士の育成に携わる現役の指導員。この研修で指導者としてのレベルを高めた後、その技術ノウハウを未来の自動車整備士たちへ伝えていきます。

ブラジルの専門家がオンラインで研修を実施

トヨタアンゴラアカデミーでは、約1年半の研修期間でTDAが定める中級レベル以上の技術(ブレーキとクラッチの点検技術)などを習得し、自動車整備士の指導員としてのレベルアップを目指します。

トヨタアンゴラアカデミーの開校に向け、JICAは、人材育成の面で半世紀以上にわたり協力を続けてきたブラジル職業訓練機関(SENAI)からブラジル人専門家を派遣。ブラジルはアンゴラと同じポルトガル語圏で、共通の言語で直接指導できるという大きなメリットがあります。

「SENAIは歴史ある大きな職業訓練校であり、その専門家から学べることを光栄に思っています。これまでの授業において、今までの自分の知識を更に深めて理解することができ、今後どのように習得した知識と技術を伝えていくかという点でも学びが多いです」とエルネストさんは述べます。

1年半にわたる研修のうち、最初の半年はオンライン授業含め、基本的な知識を学んでいきます

現在、新型コロナウィルスの影響でブラジルの専門家がアンゴラへ入国することは難しい状況のため、座学を中心としたオンラインによる研修を実施。今後は、状況を鑑みながら研修生がブラジルに渡航し、視察や実習を行うことも予定されています。

SENAIのスティーブ・ダ・シルバ専門家はオンラインでの講義について、次のように語ります。

「コロナ禍でもオンラインによる授業を開始でき、よかったと思います。研修生一人一人の理解度が違うので、各研修生一人1台ずつパソコンがあると、もっと効果的に指導ができるのですが、研修生同士の学びを促しながら指導方法も改善させています。開校当初と比べると、研修生たちの知識も増え、高度なことも理解できるようになってきました。今後、研修を成功させるため、学びの環境を整えておくことも重要です」

民間企業も自らカリキュラム、機材を整備

トヨタアンゴラアカデミーでは、TDAの熟練指導員も授業をサポートするほか、SENAIと協力して指導機材・教具の整備などを担っています。これは、JICAが民間企業から資金、人材、機材の供与を受けながら「ともに開発・育成に取り組んでいく共働型の新たな業務スタイル」。アフリカでは初めてのケースで、政府機関の財政・人的負担を求めることなく、民間企業と連携した新たな国際協力の形です。

「トヨタの自動車は高性能、高品質で、アンゴラでも強いブランド力があります。その点で、TDAが自動車整備士を育成するアカデミーを開校することは大きな注目を集めています。単に技術を伝えるだけでなく、トヨタ方式による物事の考え方、段取りや整理の重要性など哲学的な面も重要視して授業に取り入れているため、問題に直面した際に、研修生たちで考えて動くようになってきたと感じています」と、JICAアンゴラ事務所でこのプロジェクトを担当する半澤咲子企画調査員は話します。

長年培ってきた各国との信頼関係を新たな試みへと活かし、日本の民間企業とも協力しながら、JICAは途上国で暮らす人々の生活がより快適で安全になるための協力をこれからも続けていきます。

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TDAが提供した機材を使用した電気回路の実習の様子