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農作物を食い荒らすサバクトビバッタに立ち向かう!:バッタ被害に苦しむパキスタンの農家を国際連合食糧農業機関(FAO)と連携しサポート

2021年5月11日

さまざまな農作物を食い荒らすサバクトビバッタ。アフリカから中東、南西アジアまで広く分布しており、大発生すると大群が風に乗って一日に100km以上飛翔するため、その被害はこれまで約60カ国、地球陸地面積の約20%に及ぶといわれています。

なかでもパキスタンは被害が大きく、2019年末に大発生したサバクトビバッタの被害面積は約1800万ha(ヘクタール)と世界最大かつ過去最悪でした(世界銀行:2020年6月資料)。さらに2020年からは新型コロナウイルスの影響も重なり、パキスタンの主要産業である農業分野は甚大な被害を受けています。

JICAはパキスタンで、サバクトビバッタへの対応に取り組んできた国際連合食糧農業機関(FAO)とも連携し、バッタ被害が深刻な小規模農家の生計向上や、バッタ防除を行う政府職員の能力強化など、農家をサポートする体制づくりを進めています。

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左:ピシム県での種子肥料配布の様子。「バッタ被害で収入がなく、植え付けができるか心配だったが、これで安心できた」との声も
右:ナシラバード県では委託NGOが被害作物、負債、収入源などについて聞き取り調査を実施(写真は2点とも2020年10月撮影)

深刻な被害地域に主食となる小麦の種子と肥料を緊急配布

「昨年秋、JICAからサバクトビバッタ被害農家へ供与された小麦の種子と肥料は品質もよく、植え付けに間に合うタイミングで届けられました。そして今、農家からは小麦が順調に育っていると感謝の声が寄せられています」

こう現場の声を報告するのは、種子と肥料の配布を担当した南西部バロチスタン州ピシム県農業事務所のファイズラー・シャー副所長です。パキスタンでは干ばつの慢性化とインフレで種子や肥料など農業資材の価格が高騰。東アフリカや中東からのサバクトビバッタ大群襲来の予報を受け、昨年2月には、政府が国家緊急事態を宣言しました。

「JICAから供与された良質の種子と肥料に感謝します。ご覧のとおり、小麦はすくすくと育っています」と自身の小麦畑で感謝を述べる農家ハヤト・カーン氏(ピシム県)

それを受け、JICAは昨年秋、農業分野で協力を実施中のバロスタチン州4県、パンジャブ州の3県の小規模農家およそ3000戸に対し、緊急支援としてパキスタンの人々の主食である小麦の種子と、必要量の肥料をセットで配布しました。バッタの被害に苦しむ農家の暮らしを守る取り組みを進めています。

将来の襲来に備え、バッタ監視と防除能力を強化

今年3月、JICAはFAOやパキスタン政府と連携し、サバクトビバッタ被害を受けた農家への協力体制のさらなる整備に乗り出しました。今後1年間にわたり、被害地域の小規模農家の食料安全保障と栄養状況を底上げするとともに、サバクトビバッタ監視・防除能力の強化を目指します。GPS機器を活用し、バッタ駆除の情報ネットワーク整備や駆除に向けた研修も実施される予定です。

バロチスタン州のマスード・バロチ農業局長は、「こうした農家への直接的な支援は食糧安全保障や社会経済的な観点でとても重要です」と、今後の取り組みに期待を示します。

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FAOによる資機材の支援で実施されたサバクトビバッタの防除の様子(2020年9月シンド州)

日本からの遠隔協力で現地スタッフへの研修を継続

パキスタンでサバクトビバッタ被害と同時に深刻なのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。物流遅延による資材不足や価格の高騰、仲買人を通じた収穫物の販売減少、研修の中止や専門家と行政官の面会規制などにより、農家はさらなる苦境に追い込まれています。

JICAは長年にわたり、農業や畜産分野で専門家の派遣や、農業技術の向上に向けた研修といった協力を続けてきました。現在も、バロチスタン州やシンド州、ハイバル・パフトゥンハー州で農業・畜産分野の協力が行われていますが、昨年3月、新型コロナの影響で日本人専門家たちは途中帰国を余儀なくされ、現在は、日本からの遠隔支援を組み合わせた協力を続けています。

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左:バロチスタン州で実施された農業普及員の能力向上に向けた野外実地研修
右:普及教材作成について指導する日本人専門家(左)(写真提供:国際耕種株式会社)

パキスタンで農業普及員らの能力向上に携わる松島修市JICA専門家は、「未曽有のバッタ被害やコロナ感染禍に困窮しているパキスタンでは、これまで以上にそれら外的被害に打ち勝てる強靭な農業が求められています。我々のプロジェクトは、リモートで現地とコミュニケーションを取りつつ、コロナ対策支援の実施や、農業普及員の能力向上を目的とした野外実地研修や対面座学研修を段階的に再開しています。これも長年にわたるJICAの支援を背景として相互の信頼関係があるからこそと考えています」と、コロナ禍での協力について述べるとともに、これからを見据えます。