【スポーツは未来をひらく】平和と結束をもたらし、母国の希望となる —そして、南スーダンから東京オリンピックへ

2021年7月19日

「ここ南スーダンで、誰もが何でもチャレンジできるようになればいい」「自分たちのように民族の違いを気にせず仲良くできて、それが国の平和につながると理解してくれる人が増えてほしい」

Mini-NUDでバスケットの試合をする選手ら

今年6月、南スーダンで開催されたスポーツ大会「国民結束の日(National Unity Day: NUD)」に参加した若者たちからのメッセージです。このNUDは、スポーツを通じて、国の平和と結束を促すことを目指し、2016年から毎年開催されています。今回は、コロナ禍により、参加者を首都ジュバ近郊からに限定し、Mini-NUDとして小規模な形で実施されましたが、さまざまなコミュニティから約500名が参加し、その想いは参加者の胸にしっかりと刻み込まれています。

そして、この夏、NUDから選出されたさまざまな民族出身の選手たちが南スーダンという国を代表して東京オリンピックの舞台に立ちます。困難を乗り越え、夢の実現に向かっていくその姿は、まさしく南スーダンの希望そのものです。

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陸上競技に参加した笑顔いっぱいの女子選手たち

国民同士が信頼し合うことが平和への一歩。スポーツが果たすその役割

2011年にスーダンから独立して誕生した世界一若い国南スーダンは、独立後も国内での政治的な争いや、古くから続く家畜や土地を巡った民族をまたがる争いが続いていました。2016年の和平合意以降、政治的な争いはなくなりましたが、長年の紛争の影響や和平プロセスの遅れにより、人々の暮らしの中には、日々の生活への不安や暴力に対する恐怖が密接に結び付いています。毎日のようにテレビやラジオから、各地での民族間や民族内での争い、そして若者グループによる政府や人道支援団体への抗議活動の様子が流れています。

「民族の対立を超えて国民同士が信頼して結束することこそが、南スーダンの安定と発展につながる」—次世代を担う若者たちに、スポーツを通じてそのことを伝えることができたら、と南スーダンの青年・スポーツ省とJICAが連携して始めたのが、このNUDです。日本で言えば、若者向け国民体育大会(国体)。国体も第2次世界大戦後、日本の国力の再建や復興が目的でした。

南スーダンで盛んなスポーツの一つはバレーボール。特に女子に人気です

コロナ禍による2度の延期を乗り越えて開催にこぎつけた今年のMini-NUD。陸上、サッカー、バレーボール、バスケットボールの4競技で2週間にわたり、熱戦が繰り広げられました。

参加者からは、「他の地域のチームの人ともコミュニケーションをとって友達になった」「試合の後にはみんなで挨拶をして、健闘をたたえ合って、一体感があった。他の地域出身者同士でも尊重し合えているし、審判もコーチも結束していたと思う」といった声が上がっています。

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サッカーの試合後、挨拶する選手ら。お互いの健闘をたたえ合います

NUDでは通常、競技以外に、平和に関するワークショップなども開催されます。今回はコロナ禍の影響で実施されなかったものの、参加者たちはスポーツを通じて人と人がつながりあうこと、その喜びを肌で感じていました。

若者たち自ら平和の伝道師に。ラジオにも出演

NUDの参加者はみな、平和大使として、それぞれの学校や地元で、NUDでの経験を伝える活動をしていきます。今年4月には、これまでの平和大使を対象に、リーダーシップスキルや平和教育を学ぶワークショップが開催され、参加者たちは自分たちの活動を振り返り、今後の活動について話し合いました。平和大使のなかには、多民族の子どもが参加できるスポーツ大会を開き、また、ラジオでNUDでの体験を語るといった活動をしている人もいます。

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地元NGOのメンバーが講師となって、平和大使たちは、リーダーシップスキルや平和教育について学びました

南スーダン事務所の金森大輔企画調査員は、スポーツを通じた平和促進に関する取り組みについて、次のように語ります。

「毎年NUDを開催していくことで、スポーツ省関係者に大会の運営ノウハウが培われ、資金確保の面では難しい部分があるものの、南スーダン政府だけでNUDを開催できる素地が整ってきています。NUDが継続的に開催されれば、若者たちやスポーツ選手たちにとって目指すべき大会ができ、『スポーツを続けるためには平和が必要で、自分たち自らで融和を広げないといけない』といった意識が全国の若者に根付き、若者たちから平和と融和が広がっていく可能性があります。そのためにもNUDだけではなく、平和大使のサポートも続けていきます。また、学校やスポーツクラブなどで子どもたちに平和について教えるため、先生やコーチ向けのガイドラインの作成にも取り組んでいます。今後、より多くの若者へ、スポーツを通じて平和に対する意識の変化を起こしていきたいです」

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今回のワークショップには、約50名が参加。コロナ禍で活動は限定されているものの、平和大使たちからは今後に向け、スポーツを通じて人々の交流を図るためのアイデアが多くあがりました

NUDで選抜された選手たちが南スーダンの代表として東京オリパラの舞台を目指す

オリンピックを控え、日本の大会に出場したアブラハム選手

NUDで選ばれた選手4人が、東京五輪・パラリンピックを目指し、群馬県前橋市で事前合宿を続けてきました。その一人で、陸上男子1500mに出場予定のグエム・アブラハム選手は、オリンピックへのきっかけとなったNUDについて、こう述べます。

「NUDのおかげで国内のさまざまなバックグラウンドを持った人たちと直接交流し、先入観を払拭することで、お互いを理解することができました。NUDは言葉では言い表せないほど南スーダンの平和に貢献していると思います」

そして、自らも平和大使として活動するなか、「平和に貢献できることであればどんなことでも積極的に行いたいです。それが母国の人々の笑顔につながることを願います」とその想いを言葉にします。

今年のMini-NUDの参加者からは、「日本でトレーニングしているアブラハム選手のようになりたい。このような日本での貴重な練習の機会を得ることは南スーダンのアスリートを元気づけるし、希望となる」という声も聞こえてきました。

南スーダンの未来、そして平和に向かって、アブラハム選手はオリンピックスタジアムを駆け抜けます。スタートの号砲はもうすぐです。