【10月14日は鉄道の日】日本のチカラを結集して、途上国の「安全な鉄道」をサポート

2021年10月13日

1872(明治5)年、新橋(汐留)~横浜(桜木町)間に日本初の鉄道が開通。その誕生と発展を記念して10月14日が「鉄道の日」として定められました。来年で開業150年を迎える日本の鉄道は、さまざまな関連技術やその安全性、時刻表通りに運行される定時性、優れた顧客サービスなど、今やどれもが世界トップクラスを誇ります。

こうした日本の高い鉄道技術への途上国からの支援ニーズは高く、JICAは長年にわたり、インドネシアやフィリピンなどアジアを中心に南米やアフリカまで、世界40カ国以上に対し、鉄道分野への協力を続けてきました。

JICAは、単に鉄道の建設を支援するのみならず、都市交通マスタープラン作成といった鉄道開設に関する調査・計画から線路や鉄道駅などの建設、運転手や車掌の人材育成、鉄道事業会社の設立支援、線路や車両のメンテナンス支援など、多方面の協力を実施しています。そのなかで、現在、より安全に鉄道を運行するための取り組みがインドとバングラデシュで進んでいます。

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バングラデッシュの首都ダッカで整備が進む都市高速鉄道(MRT)6号線

インド:多発する事故の防止へ、日本の運輸安全委員会の知見を発揮

インドはアジアで最も早く鉄道の開業を果たした「鉄道大国」です。現在、インド国鉄の総延長は約6万8000km。従業員数は130万人にも及びます。最先端の鉄道技術や運行システムが導入されている一方、鉄道設備の老朽化や各種メンテナンスの不十分さなども指摘されています。近年は鉄道事故も続いており、多くの尊い命が犠牲となっています。

日本で実施された事故調査研修に参加するインド鉄道省の幹部ら。講師を務めるのは運輸安全委員会の奥村文直委員

こうしたなかJICAは、2018年から鉄道の安全に特化した安全能力強化プロジェクトを実施しています。その一つとして、事故調査のスペシャリスト集団である日本の運輸安全委員会(Japan Transport Safety Board/JTSB)と協働し、インドの安全管理部門や事故調査担当者に向け、具体的な調査・解析手法や、その結果に基づいた事故防止策の立案など、事故を極力減らして、より安全・安心な鉄道を実現するための協力を続けています。

運輸安全委員会の奥村文直委員(左から2番目)

「運輸安全委員会は、インドへ赴いて日本の鉄道事故の調査手法を説明するなど、本プロジェクト開始当初より積極的に協力しています。2019年には、10日間にわたる研修を日本で開催し、インドの鉄道省や鉄道安全委員会の幹部など10名が参加しました。日本における事故調査は、誰が事故を発生させたかという責任追及ではなく、なぜ事故が発生したのか原因究明を行うことにより、再発防止や被害軽減に役立てており、その重要性をインド関係者にも伝えてきました。今後も本プロジェクトへの参画を通じ、インドにおける鉄道の安全性向上に向けた取り組みに協力していきます」

このように言葉に熱を込めるのは、運輸安全委員会の奥村文直委員です。

2020年1月に部分開業したインドの貨物専用鉄道

インドの鉄道分野への協力は40年近い実績があり、現在進行中の安全能力強化プロジェクトは、建設が急ピッチで進められている「貨物専用鉄道」も対象となっています。

DFCCILのラビンドラ・クマール・ジャイン総裁

この貨物専用鉄道を運営する貨物専用鉄道公社(DFCCIL)の職員も日本での研修や安全マネジメントに関するオンライン研修を通じて安全の技術と心構えを学んでいます。研修にも参加したDFCCILのラビンドラ・クマール・ジャイン総裁は、「DFCCILは、常に現場の安全を常に最優先に考えています。安全に対する意識は、我々の職業倫理の中の最重要事項であり、”安全の意識を決して絶やさない”という思いを持ち続けることが必要不可欠です」と述べ、安全を最優先とする組織づくりへの決意を示します。

バングラデシュ:日本式の安全マネジメントで、同国初の都市高速鉄道を実現

日本よりも人口が多く、かつ人口密度も高いことで知られるバングラデシュは、2011年以降、年率で平均6%の堅調な経済成長を続けています。そんなバングラデシュにとって鉄道は、インドと同じようにイギリス統治時代からの長い歴史を持ち、人々の生活の上でも重要な役割を果たしています。

世界有数のメガシティでもある首都ダッカは、自家用車やバス、三輪タクシー、自転車などによる交通渋滞とそれに伴う大気汚染が日々、深刻さを増しています。

テスト走行するダッカ都市高速鉄道MRT6号線

JICAは2000年代より本格的にバングラデシュの鉄道分野への協力を実施。近年はダッカにおいて都市型の公共交通網の整備のため、都市高速鉄道(MRT)3路線の支援に取り組んでいます。さらにMRTの運行維持管理を担うダッカ都市交通会社(DMTCL)に対するさらなる技術協力として、大阪市高速電気軌道株式会社(Osaka Metro/大阪メトロ)グループと日本工営株式会社の協力を得て、2022年末の開業を目指すMRT6号線の運行安全マネジメントに関するサポートを2021年1月からスタートさせました。

「南アジアの鉄道では、列車の屋根の上に多くの乗客が乗っている様子がときどき伝えられます。バングラデシュで、日本の運輸安全マネジメントシステムをもとにサポートをするのは、文化的な素地が違いすぎないかと当初は不安だったのですが、市民などに実施したアンケートなどによると想像以上に市民の安全運行に対する期待が高く、運営会社の社員も強い意欲で研修に取り組んでいます」

そう語るのは、大阪メトロサービスの仲井信雄工事部長です。

バングラデシュが経済成長に伴い急速な進展が続く自動車中心の社会から、鉄道駅など公共交通拠点周辺に都市機能を集めるなどしてクルマに依存しすぎないコンパクトな都市開発を目指すなか、同国初のこのMRTには大きな役割が寄せられています。ハード面だけでなく、組織づくりから人材育成などのソフト面もゼロからのスタートとなり、それだけに安全に対する関連職員への啓発は最も重視しなければならないポイントです。

仲井工事部長は、「鉄道事業者は当然として、広く利用客・市民の方々へも安全意識の大切さを伝えなければなりません」と話します。そして、「日本の鉄道の安全への取り組みは、過去に起こったさまざまな事故事例で得られた貴重な教訓の上に深度化してきました。私たちは、表面的な安全管理システムに留まらず、その根っこの部分から現地の運営会社の社員達に伝えて、安全に対する意識や洞察力を深めていただくように心がけています。本来の対象はバングラデシュの首都ダッカのMRTのうちの1路線ですが、こうした安全に対する意識が、ここから運営会社全体、バングラデシュの鉄道全体はもとより、将来は他モードの交通事業やさまざまな産業に広がっていくことを期待しています」と述べます。

ポストコロナを見据え、より安全・安心な鉄道のあり方にアップデート

新型コロナウイルスの感染拡大により、都市封鎖や在宅勤務など人々の行動制限がなされた結果、世界中で公共交通の利用者数は大きく減少しましたが、公共交通は、エッセンシャルワーカーの移動手段として重要な役割を果たすとともに、今後も市民の通勤・通学の足と重要な役割を担い続けることが想定されます。ポストコロナを見据え、日本も含めて世界中で、感染防止対策も含めたさらなる安全・安心な鉄道の運行が求められています。

JICA社会基盤部運輸交通グループ第3チームの田中圭介さんは、JICAの今後の鉄道分野への協力について次のように語ります。

「人口増加や都市化が進んで深刻度を増す交通渋滞や大気汚染の解消を目的とするだけでなく、ウィズコロナ、ポストコロナ時代における感染症対策という新しい視点を採り入れなければなりません。これまで、鉄道分野では、事故をおこさないという意味での「安全」の視点を重視してきましたが、今後はきちんと感染症対策を行うという、衛生面での安全の観点も取り入れつつ、人々の通勤・通学の足として、信頼感をもって利用可能な都市鉄道システムの構築を目指すことが重要になっていくと思います」

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ミャンマーで実施された鉄道車両維持管理・サービス向上に向けたプロジェクトで技術指導をする日本人専門家(右)
写真提供:日本コンサルタンツ株式会社