女子サッカーがつなぐ、ウガンダと日本の絆

2022年10月28日

10月1日、日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」のカップ戦決勝が行われ、初代王者が決定しました。そこから遡ること、およそ1か月半。8月には、東アフリカに位置するウガンダでも、女子サッカー大会「TICAD CUP 2022」が開催されました。ウガンダと日本、遠く離れた地で開催されたこの2つの大会を通して、両国の女子サッカー界がつながりました。一体どんな接点があったのでしょうか。WEリーグとJICAが、サッカーを通じて途上地域の発展を目指す連携協定を結んで、1年4か月。国境を越えていくスポーツの力を探りました。

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難民選手も活躍、ウガンダの女子サッカー大会

現在150万人以上の難民が滞在しているアフリカ最大の難民受け入れ国、ウガンダ。この地で8月19〜21日の3日間、JICAとウガンダサッカー連盟(FUFA)らとの共催で女子サッカートーナメント「TICAD CUP 2022」が開催されました。ウガンダ社会における女性や難民の現状への理解促進を図るとともに、TICAD8やJICAの取り組みの認知度を高めることが目的のイベントです。FUFAが招待した5チームに加え、難民とホストコミュニティの混成チームが参加。FUFA招待の強豪チームを相手に、これまで裸足でサッカーをしてきた難民とホストコミュニティの混成チームが1勝をあげ、関係者に大きな感動を与えました。

混成チームの選手たちが着ているユニフォームをよく見ると、日本語がプリントされています。実はこれらのユニフォームは、WEリーグからJICAを通じて無償提供されたもの。「女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する」というWEリーグの理念は、JICAが「スポーツと開発」戦略で目指す「すべての人々が、 スポーツを楽しめる 平和な世界に」という目標と重なります。2021年6月に、WEリーグとJICAは連携協定を締結しており、その連携のアクションとしてユニフォームの寄贈が実現したのです。

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トロフィーを掲げて喜びを爆発させる優勝チーム

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並みいる強豪を相手に記念すべき初勝利を収めた、難民・ホストコミュニティ混成チーム

TICAD CUP 2022へのユニフォーム寄贈を提案したのは、9月末で退任したWEリーグの初代チェア・岡島喜久子さんでした。そこには、こんな思いがあったと語ります。

「開発途上国へのユニフォームの寄贈はJリーグが以前からやっていたことですが、男子選手のユニフォームは女子選手たちには大きすぎることもしばしば。彼女たちに合うサイズのものを贈りたいという気持ちをずっと持っていたんです。今回実現できたことを本当にうれしく思います」

WEリーグ決勝の舞台で打ち出す、国際協力と多様性のメッセージ

10月1日に味の素フィールド西が丘(東京・北区)で開催されたWEリーグカップ決勝戦では、WEリーグとJICAの連携をさらに深めるべく、さまざまな企画が実施されました。

会場の一角に、JICAのブースが登場。TICAD CUP 2022の試合映像が流れるなか、来場者はウガンダの女子サッカーチームへの応援メッセージを書いたり、さまざまな国籍のJICA研修員たちと一緒にベトナムの伝統スポーツ「ダーカウ」を体験したり。ウガンダの女子サッカーチームに寄贈するサッカー用具の募集も行われ、小さな交流を通じて、ウガンダをはじめとするアフリカの国々や国際協力に興味をもってもらいました。

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JICAブースではパネルや映像でアフリカの国々やウガンダの女子サッカーチームについて紹介

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たくさんの来場者がウガンダの選手へのメッセージを書いてくれた

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ベトナムの伝統スポーツ「ダーカウ」でJICA研修員と羽を蹴り合って遊ぶ子どもたち

試合開始前には、スタジアムの大型ビジョンにTICAD CUP 2022の様子が映し出されました。遠くウガンダにもサッカーに夢中になる女の子たちがいることを、観戦に訪れた人々に知ってもらう試みです。

なかでも注目を集めたのが、WEリーグでも初となる「エスコートダイバーシティピープル」の実施でした。性別、年齢、障がいの有無、国籍や性自認・性的指向など、多様な個性を持つ人々の中にさまざまな国籍のJICA研修員4人も混じり、花道を作って選手たちをピッチへと送り出したのです。これも岡島初代チェアのアイデアでした。

「多様なバックグラウンドをもつ人々を集めることで、WEリーグが多様性を大切にしているということが一目で伝わると思いました」と岡島さん。

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(上)試合前にウガンダの女子サッカーの映像がビジョンに流された(中・下)JICA研修員たちも、エスコートダイバーシティピープルとして子どもたちと一緒に選手を迎えた

女子スポーツを、女の子たちの憧れの職業にする

試合は、3点のビハインドをひっくり返すドラマチックな展開を経て、三菱重工浦和レッズレディースの優勝で幕を閉じました。見応えたっぷりの内容に会場は大盛り上がりでしたが、まだまだ課題は多いと岡島初代チェアは言います。

「興行的にはうまくいっているとは決していえません。もっと多くの人たちに女子サッカーやWEリーグに興味を持ってもらえるようにすることが、最大の課題です。女の子の憧れの職業として、スポーツ選手、女子プロサッカー選手が挙げられるようになるためには、選手たちの待遇をよくすることはもちろん、PR活動も積極的に行う必要があります」

女子団体スポーツのプロリーグの先駆けとなったWEリーグ。その立ち上げには、女子スポーツの社会的意義を向上させるための旗振り役という大きな意味がありました。また、プロリーグであることは、仕事の後の限られた時間で練習するアマチュアとは違い、トレーニングやマッサージなど体づくりにかける時間も増え、選手たちのレベルアップにもつながっています。

「今後も野球やソフトボール、バスケットボールなど競技を超えた横のつながりを作り、さまざまな家庭環境の子どもたち、特に女の子にスポーツの機会を与えられる働きかけをしていきたいです。欧米には、サッカー少女たちの憧れの対象となるようなアイコン的な選手が何人もいます。そんな選手がWEリーグからも輩出されればと期待します」

日本の女子サッカー、女子スポーツを盛り上げ、その熱を国外にも広げたい。スポーツには人を感動・熱狂させ、人と人を結びつける力があると、岡島初代チェアは力強く語ります。その力は、性別や国、言葉を超えていくものです。

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WEリーグカップ決勝会場に訪れた初代チェアの岡島喜久子さん

人々をエンパワーメントするスポーツの力

女子サッカーを通じたJICAとの連携について今後期待することを尋ねると、岡島初代チェアからはこんな答えが返ってきました。

「将来的にはWEリーグの選手たちが途上国に行って、子どもたちに直接ユニフォームを渡してほしいですね。現地でサッカースクールも開いてほしい。設備やサッカー用具も整わない中でサッカーに打ち込む子どもたちの姿を前に、選手たちには引退後に現地コーチとして活動する選択肢も見えてきます。一方、子どもたちは女子のプロサッカー選手の存在を目の当たりにすることで、サッカーで食べていける世界があることを知り、女子サッカー選手が将来の夢にもなります。そういった活動を、JICAとの連携の中で実施できたらうれしく思います」

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多くの観衆が見守る中、白熱した試合運びを見せたWEリーグカップ決勝戦

スポーツには人々をエンパワーする力があります。ウガンダと日本。たとえ海を隔てて遠く離れていても、両国の選手の活躍が、互いの刺激になるはずです。女子スポーツを取り巻く現状は、日本国内に限らず世界的に見ても難しい状況ですが、日本、そしてウガンダの女子サッカーの熱が大きなうねりとなり、女子サッカーをはじめ女子スポーツの裾野が世界的に広がっていくことを願ってやみません。