【隊員たちのイマ】ブラジル日系社会でのボランティア活動と茨城での取り組み【後編】

石森 和麿 さん (東京都出身・茨城県行方市在住)
オンライン教室「アリストテレスの窓」代表                                      (日系社会青年海外協力隊/2015年6月~2017年6月派遣/ブラジル/日系日本語学校教師)

2021年7月に青年海外協力隊茨城県OV会会長に就任された石森和麿さんが、日系社会青年海外協力隊で南米・ブラジルに派遣された際や帰国後の経験、現在の取り組みについて話してくださいました(前・後編)。後編では、帰国後、紆余曲折を経て起業した仕事のことやOV会活動についてご紹介します。

子どもたちをとりまく環境を知りたい 

出前授業の様子。今でも変わらず大切な事業の柱

ブラジルからの帰国後、「もっと子どもたちの現状を知りたい!」と思った石森さんは、地元東京で日本語教師として働く傍ら、大手学習塾に勤め、プライベートでは多くの学校に赴き、JICAの国際協力出前講座の講師を積極的に引受けた。

このような場で子どもたちと接する中で、ある「違和感」を感じる。大人の顔色を伺い、大人が喜びそうな発言をする子どもたち。この子「らしさ」は一体どこにあるのだろう?石森さんは日本の子供たちのこれからの未来を案じながらも、貪欲に多くの子どもたちと関わっていった。

「どうしたら子どもたちがもっと自分らしさを表現していけるだろうか?」試行錯誤する中で役立ったのはブラジルでの協力隊経験だ。子どもたちへの問いかけ方や接するときの目線、場の空気感などを配慮することで、生き生きとしてくる子どもたちに「可能性」を感じた。また、学校で日々子どもたちと必死で向き合っている多くの先生たちとの出会いから、自分も学校とは別の方向で、先生たちと一緒に、子どもたちが生き生きとできる社会づくりをしていきたい、と思った。

子どもたちの未来のために、オンライン教室「アリストテレスの窓」を起業 

アリストテレスの窓の様子

その後、石森さんは、パートナーの実家である茨城県に移り住むことになった。東京での経験を通じ、子どもたちには学校や家庭以外にも「自分らしくいられる居場所」が必要だと確信し、石森さんは民間の立場で「教室」を作るために動き出していた。ところが、コロナ禍となり状況は一変。計画が全て白紙になってしまった。そんな中、とある保護者から「オンラインでやってくれないか?」と相談を受け、「そうか!」と心機一転。2020年5月から、小・中学生を主な対象として、生きる力を育むためのオンライン教室「アリストテレスの窓」を立ち上げた。

誰の顔色も気にしなくていい。自分らしく、ありのままでいられる「場所」とは  

ありのままの自分に自信を持つようになり、オーディションに挑戦し、声優デビューした生徒も

美空野保育園での授業の様子。コロナが治ったらまたやろうね

「アリストテレスの窓」では、「命」「政治」「文化」「宗教」など多様なテーマから見えてくる、「答えのない」問いや矛盾にひたすら向き合い続け、生徒たちの「考える」「対話する」「巻き込む」力を育んでいる。最終的には周囲の目を気にせず「自分の意見を自分らしく伝えられる人を育てること」を目指している。石森さんは自分自身を“駄菓子屋のおばあちゃん”のイメージと例える。「一人ひとりを丸ごと受け入れてあげたい。自信を持つことができれば、自分らしくどんどん挑戦していけるはず。」子どもたちが踏み出せて、いつでも帰ってこられる場所がもっと必要だ、と石森さんは考えている。

最近は対象を幼児にも広げ事業を展開し、鹿島市内の保育園と業務提携を結ぶ。こちらはオンラインではなくリアルな場で「知る・学ぶ」ことの楽しさを広く伝えながら「生きる力を育むための教育」をしている。こうした仕事をすることになったのは、やはりブラジルでの協力隊経験があったからこそ、と石森さんは話す。

オンライン教室での学びの様子

実はどの子も元は学びと成長の天才

「アリストテレスの窓」に参加する生徒たちは、最初こそオンラインという環境に緊張するが、あっという間に慣れていくという。石森さん曰くリアルな対面だと、時に体や声の大きい人を前に負けてしまうこともあるが、オンラインだと誰もが同じ大きさの枠に収まり、手を挙げれば平等に発言権を得ることが可能だという。プログラム中は、石森さん自身がファシリテーションを務め、生徒同士が「対話」しながら学びを深め、「自分の意見」を確立していく。石森さんはファシリテーションをしながらタイピングし情報を整理。そして生徒たちへ丁寧に共有していく。膨大なエネルギーがいる作業だ。「本当はタイピング係がいた方がいいんだけど…(笑)もう慣れました!」と石森さんは明るく話す。

子どもたちの吸収力には、石森さん自身も驚きを隠せない。先日、ネットで入手・利用可能なソフトの使い方を30分程度教えたところ、あっという間にアニメーション効果や音楽データ挿入などの使い方を自分たちで調べ、次々と色々なものを生み出していた。コロナ禍にあっても歩み続けたからこそ生まれた新しい学びの形が「アリストテレスの窓」にはある

茨城県青年海外協力隊OV会 会長に就任

茨城での活動は始まったばかり!

「茨城県ってすごく魅力的な場所。いい環境があって、海もあって、食べ物も美味しくてなんでもある!人も面白い人が多い!OV会のメンバーもそう!…というか濃いか(笑)」と茨城県の魅力を笑顔で語る石森さん。茨城県青年海外協力隊OV会の会長就任後、本業の傍ら引継ぎや広報、ネットワーク体制の見直しなど他の役員と共に日々精力的に取り組んでいる。

今後の事業については、「教育」を一つの柱にしながら「茨城発信」で色々やっていきたいと石森さんは話す。「たとえば今、SDGs(持続可能な開発目標)ってすごく盛り上がっていますが、実際にSDGsを理解して発信している人って少ないんじゃないのかな? 茨城県には開発途上国で様々な異文化に出会った協力隊が、帰国後は企業や教育機関、自治体、NGOなど様々なステージで頑張っている。OV同士で協力しJICA筑波や地域と連携しながら、それぞれの現場で実践していく人を育てられたら。」

インタビュー中にも、アイディアはどんどん湧き出てくる。最後に残った夢のはずだった「海外で暮らすこと」、その夢をブラジルで叶えたはずの石森さんだが、ここ「茨城県」を舞台に、石森さんの新たな夢への挑戦はまだまだ続く。