~開発途上国の農業開発を経て~農業で持続可能な地域づくりを!「水戸市地域おこし協力隊」吉倉 利英さん【前編】

水戸市地域おこし協力隊 
吉倉利英さん (元JICA長期専門家・国際耕種株式会社客員研究員 茨城県水戸市在住) 

【画像】静岡県出身の吉倉さんは、JICA海外協力隊から始まり、ジュニア専門員、長期専門家、企画調査員、コンサルタントなど様々な立場から開発途上国の農業開発や環境保全に従事。マラウイ、インドネシア、エチオピアなどで、森林保全や農業開発の技術協力プロジェクトに関わりました。そして2020年11月、吉倉さんは、意を決し、茨城県水戸市の地域おこし協力隊※1として同市に移住。本気で就農を目指し奮闘中の吉倉さんに、これまでの経験や水戸市での取組についてお話を聞きました。

前編では、国際協力参加のきっかけ、JICAのプロジェクト現場の様子についてのお話です。

就職氷河期での国際協力との出会い

バックパッカー時代

もともと山や自然が大好きだった吉倉さん。大学では農学部森林資源学科を専攻し、将来は森林や環境保全に関わりたいと思っていた。ところが当時は就職氷河期。専門性を活かした求人に恵まれず、大学同期の大半が学びとは関係のない企業へ就職していった。

自分はどうしようかと思っていた矢先、同じ研究室のJICA海外協力隊経験者から開発途上国でのボランティア活動の話を聞いた。吉倉さん自身もバックパッカーで海外を旅していたこともあり、興味を持ちJICA海外協力隊募集説明会へ参加。植林や乾燥地緑化など、大学で学んだことを活かせる活動があることを知り、応募を決意。

選考の結果を待つ間、アジアを旅していた吉倉さんは、訪問先のタイで、協力隊の「合格」と赴任先「マラウイ」という知らせを受け取る。

初めてのアフリカ、マラウイへ

マラウイの農村にて、マラウイで運動会企画(車輪レース)

初めてのアフリカ!吉倉さんは晴々とした気持ちでマラウイの地へ降り立った。
マラウイでは、国立の森林研究所に配属され、土壌環境分析の技術指導や、マラウイの土地に適したマメ科樹木の研究などを行った。ただ、配属先の予算不足で森林の現場に足を運ぶことができない状況だった。

自身の経験、専門知識不足も痛感し、森林保全の活動面では悔いが残った。一方で、同時期にマラウイに派遣された海外協力隊の仲間と共に学生時代の陸上部での経験を活かし、子どもたちを対象に運動会や駅伝大会を企画した。多くの人々に喜んでもらうことができ、活動の枠を越えて他の協力隊やマラウイの人々と協力できたことはとても有意義な時間だった。

長期専門家としてエチオピア森林管理プロジェクトに参加

チオピアでの馬移動

エチオピアFFS農民学校視察

エチオピアFFS発表風景

帰国後は民間企業での就職、修士課程を経て、JICAのジュニア専門員として国内業務を経た後、2006年より長期専門家として再びアフリカ・エチオピアに赴任。JICAの技術協力プロジェクト「ベレテ・ゲラ参加型森林管理プロジェクト」に参加した。活動先は南西部のジンマという僻地にあり、地域によっては徒歩や馬での移動をし、滞在中テントに宿泊することもあったという。
活動先の村々では「日本人や外国人を見るのが初めて。」という村人ばかりだったが、どこへいっても温かく受け入れてもらい食事をごちそうになることもあった。

プロジェクトでは、農業技術の向上と女性のエンパワーメントを目的とした活動の1つとして、100を超える農民グループに「ファーマーフィールドスクール(以下:FFS)※2」手法による技術普及を導入した。当時は、女性の多くが農作業を担っているにもかかわらず、彼女たちが研修などの社会参加をする機会はほとんどなかった。

そこで吉倉さんらは「FFS受講者は女性16名、男性16名」と男女の参加者が同じ比率になるよう条件を提示して各村で選出してもらった。女性のほとんどが学校に通った経験がなく、読み書きができなかった。話し合いの場でも女性が発言する様子はみられないという状況だった。

そんな中、吉倉さんらは、FFSで毎週集まり、農作物の観察や農業に関する様々な知識を学んだり、活動成果を順番で発表する場を設けたりと、だれもが平等に学び発言しやすい場にできるよう取組んだ。

10年後、再びエチオピアへ 技術協力の成果

エチオピア森林コーヒー収穫

専門家としての活動を経て日本へ帰国し、国際耕種株式会社※3に勤めていた吉倉さんは、約10年後、農業技術コンサルタントという立場で、再びエチオピアのプロジェクトに関わることになった。

現地に赴任すると、10年前にFFSに参加していた女性の一人が村長の秘書になっており、自信をもって生き生きと働いていた。女性からは「当時、FFSでの学びがあったから、今の自分がある。」と言ってもらえた。他の女性たちも社会の一員として積極的に活動しており、吉倉さんはコミュニティの活性化を目の当たりにすることができた。

これまで関わった森林保全プロジェクトでは、成果が出るまでに長い年月を要することもあり、対象地域の住民に喜んでもらえるような機会がなかなか無かったが、久しぶりにエチオピアを訪問し、こうした成果を見ることができたことは嬉しかった。【なぜ水戸市へ?後半(末尾リンク参照)へ続く!】