【隊員たちのイマ】アートの力で切り開く「新しいアフリカ」を目指して!【後編】

鈴木掌さん(すずき つかさ) 画家/アートプロデューサー
(茨城県つくばみらい市出身 元青年海外協力隊/服飾/ルワンダ)

【画像】生命力に満ち溢れたビビットな色彩のアフリカンアートを次々と生み出している鈴木さん。現在画家として活躍する傍ら、2019年よりアフリカのルワンダと日本を行き来し子どもたちに絵画指導を開始。その後、ルワンダの教え子たちの作品を購入し販売するプロジェクト「heART(ヒ—アート)」を立ち上げ、ルワンダの子どもたちの生活環境改善や教育支援活動を展開中。2011年から2013年のJICA海外協力隊参加を機に今もなお続くルワンダとの「縁」。鈴木さんにこれまでの歩みを伺いました。【前編】をご覧になっていない方は関連リンクから

ルワンダで人生のどん底に陥る

鈴木さんは、外務省のミッション後(詳しくは前編で!)の2015年以降もルワンダに残った。現在では近代化が進み、センスの良いカフェが立ち並んでいるルワンダだが、当時はお洒落な服を着ていく場所が少なかった。鈴木さんは次なる活動として、「教え子が作るお洒落な服を着て行くようなバーをつくろう。」と、飲食店をオープンした。ところが、新たな挑戦も束の間、思いもよらない人間関係のトラブルに陥った。裏切り、交友関係の崩壊・・・自身に理解しきれない事態が起こり、何人かの教え子が鈴木さんの元を去って行くことになった。鈴木さんの飲食店は閉店を余儀なくされてしまい、金銭的にも精神的にもどん底だった。デオだけは鈴木さんのそばに残り彼を支えてくれたが、閉店後の事後処理を終えた鈴木さんは、心身ともに完全に抜け殻となってしまい、日本への帰国を決めた。
「もう二度とルワンダに戻りたくない・・・」帰国後もしばらく辛い感情を抱えながら時を過ごした。

服作りの指導者から画家として再起

鈴木掌さんのアート作品「太陽神」

鈴木掌さんのアート作品「Lion‐live paint」

ある日、鈴木さんにとって救いとなる出会いが訪れた。知り合いを介して出会った人物に「ライオンの絵を描いてほしい」と頼まれた。
鈴木さんはその場にある画材で描いた絵を見せると、彼は満足してその絵を買ってくれた。絵を購入した人物は鈴木さんがこれまでルワンダで活動していた記録に目をとおしており、ルワンダの飲食店で鈴木さんの描いた壁画に魅力を感じていたのだ。鈴木さんは突然のことで驚いたと同時に、「絵を描いて、買ってもらえて、相手がとても喜んでくれる」そのシンプルなやりとりに、再び生きる希望の道筋が見えた。
その後、画家として日本で活動を始めた鈴木さんは、数年で生計を立てられるようになった。自信を取り戻しながら、再びルワンダを訪れたいという想いが芽生えていった。絶望の最中でルワンダを去り、教え子たちや世話になった人たちに挨拶もろくにしないまま別れたことがずっと気になっていた。このままルワンダとの縁が途絶えてしまっては自分自身の人生もこれ以上前には進めないと思っていた。

再びルワンダへ!子ども達との出会いで始まったプロジェクト

自分の描いた絵をもつルワンダの子

自分の描いた絵をもつルワンダの子

久々にルワンダの地を踏んだ感覚は、数年前の絶望感とは全く違っていた。ごく自然にルワンダに馴染んでいった。服作りを教えた女性たちも、一番弟子のデオも、鈴木さんからの学びを活かし、立派に生き生きと働いている様子を見ることができ嬉しかった。

鈴木さんは知人の日本人が営むレストランを訪れた。そこでは多くのシングルマザーが雇用されていた。その子どもたちとも出会った鈴木さんは、画家としてスタートしたばかりのころに日本の幼稚園で絵画指導をしていた経験から、子どもたちにも何となく絵を教え始めた。自身の作業を見せたのち、子どもたちに絵を描かせてみる。基本、口を出さないという指導で、子どもたちが自由に筆をとり、色を選び、絵を描いていった。鈴木さんはその仕上がりに驚いた。子どもたちの描いた絵から放たれる生命力は凄まじく、「自分自身の『人生の意味』はここにある。彼らの可能性を埋もれさせてはいけない。」と強い使命感を感じた。

デビット君と自作の絵画

その中に、独特の感性で絵を描くデビット君という少年がいた。彼は幼少期から肝臓病を患い、病と闘いながら祖母と暮らしていた。最善の治療を受けるには資金が必要だった。「そうだ、アートの力でデビットを病から救おう」そう決意した鈴木さんは、子どもたちの作品を自らが購入し、日本での販売を開始した。プロジェクト「heART(ヒーアート)」の発足だ。

デビット君が残した「heART」のロゴデザイン

「heART」とは「heart(心)」と「ART(絵)」を掛け合わせた造語でそのロゴのデザインはデビット君が描いた。ところがプロジェクト発足の矢先、デビット君の様態が急変。一時はもちこたえてくれたものの残念ながら16歳という若さで生涯を終えることになってしまった。鈴木さんと出会い後わずか3ヶ月のことだった。

救えなかった背景には、貧困問題が根底にあった。デビット君の事を忘れないためにもここでプロジェクトをやめるという選択肢は鈴木さんにはなかった。
「子どもたちを取り巻く環境を変えたい」そう思い、プロジェクトを継続した。
絵の指導、購入に加え、人として「価値観」を磨くための授業も大切にしている鈴木さんの影響で、自ら学校に通いだす子も増えた。プロジェクトは子どもたちの生活環境改善だけでなく教育支援にもつながっているのだ。
「子どもたちには自分の力で夢や希望に向かって貪欲に挑戦し、自信と誇りをもって生きて欲しい」プロジェクトの先には「ルワンダ初の美術館をオープンする」という壮大な目標もある。鈴木さんの挑戦にまだまだ目が離せない。