• ホーム
  • JICA筑波
  • トピックス
  • 2020年度
  • 【中小企業・SDGsビジネス】栃木発バリアフリー化への挑戦:シンテックス株式会社(栃木県さくら市・階段昇降機「タスカルシリーズ」のデモをベトナムで実施)

【中小企業・SDGsビジネス】栃木発バリアフリー化への挑戦:シンテックス株式会社(栃木県さくら市・階段昇降機「タスカルシリーズ」のデモをベトナムで実施)

2020年7月3日

SDGsロゴ10, 11

高齢者・障害者向けのいす式階段昇降機と段差解消機(以下、「タスカル」シリーズ)のベトナムでの展開を通じて、バリアフリー化への寄与、そしてSDGs(持続可能な開発目標)のゴール10,11への貢献を目指す、栃木県さくら市のシンテックス株式会社からご報告いただきました。

【1】シンテックス株式会社とベトナムとのつながり 

ベトナム地図

シンテックス株式会社(本社:栃木県さくら市/以下、「シンテックス」)は、精密板金加工と機械設計の技術を活かし、高齢者・障害者向けのいす式階段昇降機と段差解消機(以下、「タスカル」シリーズ)の開発・設計・製造・販売を行っています。同社は、東南アジア諸国の中でも高齢化のスピードが早く、関連市場拡大が見込まれるベトナムへの海外展開を視野に、ベトナム技術者・通訳の採用、技能実習生の継続的な受入れを約3年前から進めてきました。「新しい知識を貪欲に吸収し、真面目に仕事に取り組む国民性」を持つベトナム出身の同僚との協働を通じ、日本人社員たちも彼らを高く評価するようになり、良い刺激を受けているそうです。同社は、これらの実績を踏まえ、ベトナムにおける社会課題の解決と海外展開の具体化を目指し、2018年にJICAの民間連携事業(中小企業・SDGsビジネス支援事業)に応募。事業採択を経て、2019年の夏から現地調査を実施しています。

【2】ベトナムの現状と課題 

デモンストレーションを実施したベトナム・ハノイ整形リハビリ病院と「タスカルアルーラ」設置前の病院の階段

ベトナムの人口は約9,620万人(2019年)。出生率や死亡率の低下、平均寿命の伸長などにより、65歳以上の高齢者は人口の7%を占め(2015年)、今後は、日本以上のスピードで高齢化が進むと予測されています。また、かつてのベトナム戦争や国境地域の紛争の影響もあり、傷病兵(80万人超)を含む障害者人口は700万人を超えます。障害者の失業率は約9%に達し、就学や職業訓練、就業への物理的ハードルの克服(バリアフリー化)と格差是正が急務となっています。同国で2011年に施行された「障害者法」では、官公庁や駅、病院、教育機関、文化施設などの公共施設のバリアフリー化を規定していますが、支援の現場からは設備・器具の不足や介助者の確保などの課題が指摘されています。

【3】開発途上国の課題解決と中小企業の海外展開をWIN-WINで!

「タスカルシリーズ」設置後の階段(2019年11月)

「タスカルアルーラ」の操作指導

シンテックスの階段昇降機・段差解消機「タスカル」シリーズは、コンパクトで狭小空間にも設置可能。アジア人の体型に最適な座面高かつ迅速な昇降などが特徴です。さらに、段差解消機は段差高に応じた製品展開をしており、既存設備の大規模な改修も不要です。同社は、この「タスカル」シリーズの安全性が評価され、公共・民間を問わず設置・普及が進むことを視野に入れ、現地調査を継続しています。この取り組みは、ベトナムの高齢者・障害者の利便性向上(円滑な移動や行きたい場所へのアクセスの実現)、高齢者や障害者の生活の質(QOL)の向上、障害者の就業促進、ひいてはバリアフリー化に寄与します。そして、SDGs(持続可能な開発目標)のゴール10(人や国の不平等をなくそう)やゴール11(住み続けられるまちづくりを)などにも貢献します。

【4】進捗報告

ハノイ駅での測量調査

現地調査では、ベトナムのバリアフリー推進に関する政策や法制度、民間・公共建築物の現況、「タスカル」シリーズの現地適合性調査、ベトナム市場での将来のビジネス展開に向けた事業計画検討などを行っています。2019年11月からは、いす式階段昇降機(タスカルアルーラ)をハノイ市内のハノイ整形リハビリ病院、段差解消機(タスカルりふと)をハノイ駅に設置し、デモンストレーションを実施。利用者や関係者の製品の機能や用途、利便性への理解や、「タスカル」シリーズの現地適合性の検討が進みました。また、高齢者や障害者などの利用者や彼らの介助者の多くから、操作性や乗り心地の点で高い評価が得られました。利用者からは、スーパーマーケットや公共施設だけでなく、自宅にも「タスカル」シリーズを設置したい、との声が多く寄せられています。

【5】今後の展望

設置された「タスカルリフト」(2019年11月)

「タスカルリフト」のデモンストレーションの様子

同社は、「タスカル」シリーズの活用可能性の確認、技術と制度両面での現地適合性の検討を踏まえて、ベトナムにおけるビジネスモデルの素案の策定、現地生産・販売・メンテナンス体制の整備を進める予定です。また、「タスカル」シリーズの設置・運用に必須となる安全基準や建築基準整備の支援も進め、同製品のバリューチェーン構築を目指します。

コロナ禍により、社員の現地渡航が困難な状況が続きますが、調査に協力する現地関係者カと連携し、遠隔での調査を精力的に進めています。JICAも、調査の円滑な進捗や事業化に向けた同社の取組みを支援していきます。