【教師国内研修】実践授業レポート from神奈川県立横浜旭陵高等学校(本田晃寛教諭)

2023年2月3日

実践授業とは…
実践授業とは、JICA教師国内研修に参加した先生方が、研修で得た経験を活用した授業プログラム・ワークショップを作り、学校現場で実践するものです。
今回は、神奈川県立横浜旭陵高等学校で2、3年生を対象に授業を実施された本田先生のレポートです。

〇実践の概要
2022年12月14日に、公民科、倫理の履修生25名に対して授業実践を行いました。横浜旭陵高校は2コマ連続100分授業の授業形式を取る単位制普通科高校です。

・ねらいと大まかな流れ
本時のねらいは各国の移民政策の利点や欠点から、今後の日本が移民に対してどのような政策を取るべきか考えることです。移民という存在は、社会にとって有益な人材ですが、雇用を奪ったり文化・宗教的な摩擦を引き起こしたりするという見方もあります。単に、移民の現状を扱うだけでは、「移民がかわいそう。移民も大切にしよう。」といった感情論に陥りがちですが、それでは現実の問題は解決しません。そこで、移民がもたらすさまざまな利点や欠点を示す題材として各国の移民政策を扱い、今後の日本がとるべき移民政策を考えます。

・ワークショップ「フードバスケット」※のポイントと実践の様子
本時の前半は、移民についての理解と移民の利点と欠点の整理、後半ではワークショップ「フードバスケット」を実施しました。「フードバスケット」は今年度のJICA教師国内研修に参加した教員で「多文化共生」についての気づきを与えることをねらいとして作成しました。「フードバスケット」は、野菜や果物からなる40種類のカードで構成されています。表に野菜や果物の絵とその名前、裏面にその形と色と言った具合です。生徒一人に1枚のカードを配付し、教員の発問によってさまざまな活動を行います。ここで配るカードには「スイカ」を混ぜておくのが重要です。
1つ目の発問では、アイスブレイクを行います。内容は「五十音順に円になりましょう。」です。生徒らには、発言をしてはいけないという条件を付け、表に書かれた野菜や果物の名前をもとに、全体で一つの円を作っていきます。最初は、どう動いていいかわからない生徒も多いですが、あ行の生徒が一人、手を挙げてカードを見せると、そこを基点として円がつくられていきました。完成したら、この後の活動は今のように一人ひとりが動かないと全体が成立しないことを伝え、活動に参加する動機付けを行いました。

2つ目の発問は、形で分かれるというものです。裏面の「ほそながい」や「だえん」、「まる(大)」など他にもさまざまな形のヒントをもとに、まとまりを作るというものです。ここでは、孤立するカードができないように配っているので、いくつかの形ごとのまとまりは作られますが、仲間外れはできません。
さらに3つ目の発問は、色で別れるというものです。先ほどと同様に、裏面のヒントをもとに同じ色同士でまとまりを作っていきます。すると、まとまりになれない「スイカ」や配り方によって偶然に孤立した野菜や果物が現れます。今回の実践では、「スイカ」と「サツマイモ」が同じ色の仲間を見つけられず孤立しました。それぞれ「スイカ」は黒(本授業では「黒スイカ」のイラストを使用)、「サツマイモ」は紫です。
ここでワークショップを深めるために「スイカやサツマイモが仲間に入れるようにするためにはどうすれば良いか」と発問します。生徒らは、最初は様子を伺っているようでしたが、やがて赤のまとまりの一人から「スイカは割れば、中は赤だ」という発言が出ました。それにつられて他の生徒から「サツマイモも中は黄色だ」との発言が出ました。また、枠組みを色で分けているから孤立するのであって、もっと違う分け方にすればよいという発言も出てきました。与えられた発問にとらわれず、柔軟に思考することができていたと言えるでしょう。

最後の発問は、できるだけ大きなまとまりを作るというものです。面白いことに最初は野菜と果物に分かれ始めます。しかし、スイカは野菜だと聞いたことのある生徒が、どちらに入るか悩みはじめました。程なくして、「みんな食べ物だから食べ物としてのまとまりになるのはどうか」という発言が出て、1つの円ができて終了しました。

その後の授業の展開としては、孤立した「スイカ」や「サツマイモ」をまとまりに取り入れる時に出された、中身を見ることやより大きな枠組みで分かれるといった考え方を日本における移民政策に当てはめるとどうなるかという問いを立てます。その問いに答えつつ、まとめの活動として「今後の日本がとるべき移民政策は排除・同化・包摂のどれが望ましいか」という問いに対して自分の考えをまとめていきました。

〇実践をふりかえって
本時のねらいである、移民がもたらすさまざまな利点や欠点を示す題材として各国の移民政策を扱い、今後の日本がとるべき移民政策を考えるというものは概ね達成できました。「フードバスケット」を通して、枠組みが孤立を生むこともあれば孤立をなくすこともあることを体験的に学ぶことができたようです。生徒の授業後のワークシートにも、差別や偏見が勝手な決めつけから生まれることがあるということに気づけたという感想も見られました。
一方で、現実の問題として見られる排除の問題を「フードバスケット」の中で十分に扱いきれず、「多文化共生」もひとつの考え方であることを伝えきれていないところがあると感じています。こちらは、今後の改善点としていきたいと思います。
本時の授業のまとめの活動では、移民に対して寛容な態度をとる包摂を選択した生徒が多くなりました。包摂の考え方もまた、1つの見方にすぎないことや排除を唱える人々の考え方も受容していけるのか考え続けて欲しいことを伝え、授業のまとめとしました。
今後の生活の中で、生徒が異文化を背景に持つ人と出会った時に、少しでもこの授業で感じたことを参考にしてもらえれば嬉しく思います。

※「フードバスケット」:教師国内研修参加者で作成した野菜・果物カード(野菜や果物が1つ書かれたカード。色や形が明示されている)を用いたワークショップ。研修を通して作成した教材は、後日JICA横浜HPに掲載します。