【インターンが伝える研修】ブータン・ファブラボ研修を終えて ~未来に繋がるものづくり~

2022年10月4日

“ 課題が多くても、その数だけ解決策があります”

ファブラボCSTについてプレゼンをするTashiさん(右端)。9月3日、Maker Faire Tokyo 2022にて

微笑みながらこう話すのは、ブータン王立大学科学技術校(CST: College of Science and Technology)学務長のTashi (タシ)さん。コロナ禍で二年半実施できていなかった本邦研修がようやく再開した今夏、ブータンからの研修員8名が日本を訪れました。

来日直前の8月25日、ブータン南部のプンツォリンにあるCSTキャンパスに、「ファブラボCST」が、オープンしました。本研修は、このファブラボCSTの持続可能な成長がテーマです。

「ファブラボ」とは何なのでしょうか?

作業スペースが設けられ、3Dプリンターが並びます。
秋葉原でモノづくりのためのコワークングスペースを提供するDMM.make AKIBAにて

デジタル工作機械(3Dプリンターやレーザーカッター等)を備え、アイデアを形にする環境を地域に提供し、開かれたものづくりを促進するスペース、それがファブラボです。

ヒマラヤ山脈に包まれ、インド、中国の二大国の間に位置する仏教王国ブータン。GNH(国民総幸福量)の哲学を持つ国として知られ、近年は貧困削減やジェンダー平等の面でも進歩を遂げています。しかし人口約70万人の内陸山岳国として、小さな国内市場、高い貿易コスト等、冒頭のTashiさんの言葉の通り多くの課題を抱えています。

人口の多くは農業に従事しており、経済は水力エネルギーの輸出や観光業など、国外の需要に依存しています。都市部若年層の雇用率が低いのは、産業の多様化が進んでおらず、特に大学を卒業した高い専門性を有する若者の就職先がないことが背景にあります。

こういった地域課題の解決に、ファブラボが大いに貢献できる可能性があるのです。デジタルなものづくりが個人の自由なものづくりを促進し、多様なニーズや地域の課題にあった商品の開発が進めば、将来的には新たな雇用を創出するようなローカルな製造に発展することも期待できます。

ファブラボCSTがその役割を担うためには、持続可能な成長が必要不可欠です。

全日程を終えた研修員からは、
・ワークショップを通して若い世代の「ものづくり」の精神を育成する。
・施設を一般に公開し、地域のニーズを汲み取る。
・誰もが気軽に訪れることができるよう、利用料金の設定を検討する。
などの施策が打ち出されました。

これらは、ファブラボCSTの成長のために乗り越えるべき課題に対する解決策です。
課題の1つは資金調達。
ファブラボCSTはものづくりの機会提供の場であり、利益創出が目的ではありませんが、材料・修理費のため最低限の収入は必要です。施設の経営維持と利用者の負担のバランスは、持続可能な運営の大きな課題となります。

2つ目は、コミュニティの一部としての持続可能性。
いくら材料や機材を提供しても、人々がファブラボCSTを継続的に訪れ、地域に「自分で作る」精神が根付かなければ、課題解決に結びつくイノベーションは実現できません。

ファブラボCSTがあるのは大学のキャンパス内ですが、地域課題の解決も視野に入れたものづくりの拠点として、行政や産業界との連携は欠かせません。本研修の研修員チームは、大学関係者、自治体代表、産業組合代表というコミュニティを横断するメンバーで構成され、研修中もお互いの今後の連携について熱く意見交換する場面がみられました。これをきっかけに、帰国後もそれぞれの強みを活かしたネットワークのさらなる構築が期待されます。

“ ファブラボを未来に繋いでいくのは、ヒトなのです”

「ファブラボを未来に繋いでいくのは、ヒトなのです。」最終日、今後の目標を発表するTenzinさん(中央)。

Maker Faire Tokyo 2022にて、ブータン民族衣装の研修員の皆さんと。

とCST講師のTenzin (テンズィン)さんは話します。

まだ誕生したばかりのファブラボCSTは、研修員が日本で培った学びとともに、産官学連携によりコミュニティに寄り添ったオープンイノベーションの場として成長を遂げていくでしょう。

JICA横浜センター研修業務課インターン
磯野 珠緒