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“与える支援”から“生み出す支援”へ アフリカの「食」を救う

地域ぐるみで学校給食、栄養ニーズと作物供給をつなぐアプリも

田中千里
日本語版編集:北松克朗

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(2021年4月、マダガスカル、アナラマンガ県アンカディンダンボ小学校で保護者が子どもたちに昼食を配っている/ 撮影:南真由)

シリーズ:アフリカの課題と可能性

2025年8月に開催される第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に先立ち、現在のアフリカが抱える様々な課題とその解決への動きを伝えるストーリーをシリーズでお届けします。アフリカ各地で支援に活躍する人々、彼らが取り組む幅広い試みや今後の可能性に光を当てるとともに、JICAが行っている協力についてもご紹介します。今回のテーマは、栄養についてです。

アフリカ東海岸沖に位置する島国、マダガスカル。世界栄養報告(Global Nutrition Report)によると、同国では、5歳未満の子どもの約40%が慢性的な栄養不良により発育阻害(年齢相応の身長に達していない)状態にある。最貧国のひとつであるマダガスカルでは、多くの人々にとって飢えは日常的に続いており、子どもたちは空腹に耐えながら学校生活を送っている。

こうした事態を改善しようと、これまで多くの支援団体が同国の子供たちに無料給食を提供してきた。しかし、支援の多くは一時的で、資金が尽きると同時に給食も終了し、子どもたちは再び空腹のまま授業を受ける毎日に逆戻りしていた。

住民が協力して学校給食を提供、子どもたちの学びを支える

2016年、JICAが着手した新しいプロジェクトは、そうした支援とは異なる新しい試みだった。外部から援助を与えるのではなく、地域の力で子どもたちに給食を提供できないかと考えたのである。

JICAは2004年からアフリカ各地で「みんなの学校プロジェクト」と名付けたコミュニティ協働型の学校運営を推進している。保護者、教員、地域住民の「みんな」が学校運営委員会を構成、行政当局と連携しながら教育活動を改善し、子供たちの学びを支えようという取り組みだ。

マダガスカルでの給食プロジェクトもその一環で、活動を主導しているのは「みんな」が参加する学校運営委員会。各学校の保護者、教師、地域住民が集まり、「誰が何を、どのように」提供できるかを話し合い、それぞれの地域のニーズに合った方法で子どもたちへの給食を運営する。家庭菜園から野菜を持ち寄る保護者もいれば、食材を提供できない家庭は調理の手伝いに参加する。

子どもたちが少量の米やお金を持参することもある。学期初めに米を集め、市場において適正価格で販売し、その収益で他の食材を購入する。時間と燃料を節約するため、多くの学校ではシチューのような鍋料理が提供される。

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(2021年4月、マダガスカル、アナラマンガ県アンカディンダンボ小学校で昼食を準備する保護者たち/ 撮影:南真由)

「各学校が現実的にできることを選んで活動しています」と、マダガスカルで「みんなの学校プロジェクト」の副業務主任を務めている齋藤由紀子さんは話す。

齋藤さんは、外国からアフリカへの援助が、善意に基づいていたとしても、地域社会にとって持続可能で長期的な影響を与えることができない場合があることを現地で見てきた。

「支援で給食が提供される学校がある地域に、移り住んでいく人もいる。しかし、支援が終了すると、彼らはまたその地域を離れてしまう」

こうした人々の移動は、ある地域では学校入学者の過密化を招き、別の地域では児童数の減少を引き起こす。また、移住できる家庭とできない家庭の間に格差が生まれ、地域の分断を生む原因にもなる。

「現場で提供している支援が、本当に公平で平等なのか、問い直すことが重要」と齋藤さんは語る。

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(2021年4月、マダガスカル、アナラマンガ県アンボヒマンドゥス小学校の教員たちと写真撮影をしている齋藤さん/ 撮影:ニリソア)

開始から約8年、JICAのコミュニティ協働型の学校給食は、マダガスカル国内の1800以上の学校へと広がっている。齋藤さんによると、モニタリングされた学校の約87%が、多くは食料が不足する時期に限定しつつも、現在も自力で給食を継続している。

提供される食事はいまだに質素で、米と野菜スープが主流だ。しかし、給食の実現は、子どもたちを空腹から救い、学校生活を充実させる大きな支援になっている。

「スープに肉が入ることは滅多にないので、代わりに豆を加えます。子どもたちは豆のスープが大好きなんです」と齋藤さんは語る。

このプロジェクトを振り返り、齋藤さんは地域主導の解決策こそが学ぶべき点だと指摘する。「一人ではできないことでも、周囲と協力すれば前に進むための視点が生まれる」

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(2022年2月、マダガスカル、アナラマンガ県べランチャ小学校で昼食を食べる児童たち/ 撮影:齋藤由紀子)

栄養のニーズと食物供給を結びつけるアプリ開発

「食」をめぐる混乱は、アフリカ全体に共通している現象だ。食糧難や栄養に関する知識不足だけでなく、たとえ栄養バランスの重要性を理解していても、必要な食材を入手できないという供給面の課題もある。

これに対処するため、JICAは、アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)と連携し、栄養のニーズと作物供給を結びつけるモバイルアプリを開発した。

保健分野や農業分野の現地スタッフがこのアプリを使用して、地域住民の食生活を記録し、それを農家に広く共有する。多くの住民が農家であることを活かし、必要とされる野菜を育てるよう促すのが目的だ。

NFAアプリ(Nutrient-focused Food Access Improvement Approach App:栄養重視の食料アクセス改善アプリ)は2024年から開発が進められ、同年末にはザンビア、セネガル、ガーナ、マラウイなどで試験導入。さらに他の国でも試験運用が予定されている。

「これこそ待ち望んでいたアプリだという声もいただいた」と話すのは、プロジェクトに携わった元プログラム担当官の三浦才太郎さんだ。

三浦さんは昨年、セネガルでのアプリの活用状況を踏まえ、特に食材入力の簡略化など、改善の余地がまだあると指摘。現地スタッフの中には、アプリよりも紙に書いた方が楽だと感じている人もいた。

「慣れの問題もありますが、普及させるにはやはりアプリ自体が使いやすくなければならない」

現在、このアプリは英語とフランス語で提供されており、将来的にはポルトガル語とアラビア語のバージョンも予定されている。

食と栄養の改善はJICAが行っているアフリカ支援の大きな柱のひとつだ。 その取り組みは、子どもたちの学びを支える学校給食の推進や栄養アプリの開発など多岐にわたり、様々な地域で着実に成果を広げつつある。