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難民との共生を進め「人道と開発と平和の連携」めざす

ウガンダの受け入れ政策をサポート、難民と地元の融和も広がる

Suvendrini Kakuchi
日本語版編集:北松克朗

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(宮本輝尚さんと共にライノキャンプで収穫物を披露する難民とウガンダ側のホストコミュニティの人々/ 写真:宮本輝尚)

シリーズ:アフリカの課題と可能性

2025 8 月に開催される第 9 回アフリカ開発会議( TICAD9 )に先立ち、現在のアフリカが抱える様々な課題とその解決への動きを伝えるストーリーをシリーズでお届けします。アフリカ各地で支援に活躍する人々、彼らの幅広い活動や今後の可能性に光を当てるとともに、 JICA が行っている協力についてもご紹介します。 今回の記事は難民共生政策に焦点を当てる。

アフリカ大陸の東側にある人口4700万人のウガンダは、世界で最も寛大な難民政策を続けている国の一つだ。主に隣国の南スーダンやコンゴ民主共和国から180万人以上の難民を受け入れており、難民には入国後も移動の自由、就労権、教育のアクセスを認めている。そうした積極的な統合政策の結果、ウガンダに難民として定住した人々の第2世代、第3世代は現地の言語を流暢に話す人が多い。

難民との共生を進めるウガンダの先進的な取り組みを維持し、発展させていくためには、国際社会による持続的な協力も重要だ。日本政府とJICAは、UNHCR(国連高等弁務官事務所)やNGO、民間企業などと連携し、「人道と開発と平和の連携」を掲げ、難民の生計向上、農業開発、医療・教育サービスなど様々なプロジェクトを現地で推進している。

「難民と地域住民の間に絆を育む」

ウガンダのマリア・チェプケモイさんは、そうした難民支援を担うベテラントレーナーの1人だ。彼女は2017年から、現地で主食のひとつとして需要が高まっているコメの栽培技術を伝え、難民コミュニティの経済的安定をめざす日本によるコメ振興プロジェクトに力を注いでいる。

この取り組みの大きな柱は、高収量で干ばつにも強いハイブリッド米「ネリカ米(NERICA:New Rice for Africa)」の普及だ。ネリカ米は、ウガンダの伝統的な主食であるキャッサバやトウモロコシのおよそ2倍の価格で取引されており、農家にとって大きな収益をもたらす作物として注目されている。

ウガンダでは、2011年から2024年まで、JICAとウガンダ国農業省が実施しているコメ振興プロジェクト(PRiDe)のフェーズI、IIが実施された。ネリカ米の普及は、このプロジェクトを引き継いで2024年に日本が開始した「持続的なコメ振興プロジェクト(Eco-PRiDe)」にとって大きな成果となった。

これらのプログラムは難民と受け入れ地域の住民あわせて3,000人以上に稲作技術の向上をもたらし、食料の安定確保と世帯収入の向上に貢献してきた。JICAの農業普及員などによれば、Eco-PRiDeにはこれまでに1,300人以上の農家が参加している。

しかし、Eco-PRiDeのスタッフを務めているチェプケモイさんは、このプロジェクトを難民に米作りの技術や貯蔵施設を提供するだけの取り組みとは考えていない。「同じくらい大切なのは、難民と地元住民との間に絆を育み、平和に共に暮らせる関係をつくり、生活の向上にもつなげること」と彼女は語る。

確かに、日本の難民支援モデルは、農業の技術だけでなく、地域社会への溶け込みも重視している。農業は、長期にわたって新しい土地で暮らしていこうとする人々にとって、生活を支える大切な手段だからだ。

チェプケモイさんは、西ナイル地域にあるライノキャンプやビディ・ビディといった難民居住区を頻繁に訪れている。そこでは丘陵地でのネリカ米の栽培が盛んである。難民世帯の多くは紛争でパートナーを失ったシングルマザーが世帯主となり、生計を支えるという厳しい生活を続けている。

「30代、40代の女性たちが米づくりの中心を担い、成功を強く望んでいる」とチェプケモイさんは語る。米の収入によって女性たちは食料品店などの小さな商売に投資したり、子どもの教育や健康の向上に役立てたりしている。

今では難民農家の約7割が土地所有者とネリカ米の収穫を分け合っているほか、共同の貯蓄活動や雇用拡大をおこなっており、難民たちが現地の受け入れコミュニティと共に組織運営を担うという連携の輪が広がってきている。

チェプケモイさんは、難民と土地所有者の間の交渉を円滑に進めることの重要性を強調する。「私たちは、難民が土地所有者とスムーズに交渉できるような手助けも行っている。これは経済的安定を得るための重要なポイントだ」と話す。

難民居住区であるライノキャンプやビディ・ビディに新たに定住した難民世帯は平均19人と大所帯である。彼らには耕作用に、約1,000平方メートル程度の小区画が無料で提供されるが、食料自給をするための土地としては十分な広さでない。

こうした状況に対応し、長期的な自立を支えるために、ウガンダ政府は地主と交渉し、ブロック農業(難民がより広い面積で耕作できるよう新規開墾地を確保する取り組み)を進めている。 各農家には約3キログラムのネリカ米の種子と肥料も配布される。ウガンダの温暖な気候と肥沃な土壌により、食料の安定確保と収入の大幅な向上につながっている。

日本の伝統的なチームワークを再現

ウガンダで10年以上にわたりJICAの農業専門家として活動し、現在はEco-PRiDeのチーフアドバイザーを務める宮本輝尚さんにとって、大きな課題は難民人口の増加に伴う食料不足や土地をめぐる紛争のリスクへの対応だ。

かつてJICAのボランティアとしてウガンダで働いていた宮本さんは、チェプケモイさんのようなトレーナーや政府関係者を含む現地の専門家チームを率い、技術と社会開発を組み合わせた持続可能な取り組みを推進している。

難民の農家はネリカ米の種子や栽培技術の支援を受け、地元住民は、土地所有者とその土地を耕す難民との協力を促すための専門的な指導方法を学んでいる。

「ネリカ米は、難民の農家にとって大切な収入源として広く受け入れられている。我々のプログラムによって世帯収入は5割増え、地域全体にも良い効果が広がっている」と宮本さんは語る。

「ネリカ米は、裕福な消費者から一般の農家まで幅広く人気があり、高い価格でも買ってもらうことができ、農家は収穫した分をすべて売ることができている」と宮本さんは話す。

また、宮本さんは地域が一体となった開発の重要性を強調する。「避難生活を送る人々への緊急支援も欠かせないが、地域全体で取り組む支援によって、恐怖や不安を和らげることができる」

この方法には忍耐が求められ、地域の文化を理解し尊重できるトレーナーが欠かせない。チェプケモイさんは「JICAのプログラムでの経験を通じて、協力と信頼を築く日本のモデルに触れることができた。文化的な変化ではあるが、共に取り組むことで成功できることを示している」と話す。

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(チェプケモイさんが社会的差別に取り組むジェンダー研修を実施している様子/ 写真:宮本輝尚)

難民たちが地元の行政や防災活動にも参加

農業支援にとどまらず、JICAは大規模な難民受け入れに伴う複雑な課題に対応できるよう、地方自治体の職員の能力強化にも取り組んでいる。

その一例として、2021年に開始された西ナイル・難民受入地域レジリエンス強化プロジェクト(PROCEED)」がある。このプロジェクトは、ウガンダ西ナイル地域にある12県の自治体職員の能力を強化し、難民受入れコミュニティ(以前からその地域に住んでいるウガンダの人々)と難民双方をより良く支援できるようにすることを目的としている。

ウガンダは 難民に移動の自由や就業機会を認める難民政策を行なっているが同時に、公共サービスや土地利用・環境への負荷の増大、財政支援の減少、さらなる難民流入といった課題にも直面している。

PROCEEDではパイロット事業の一つとして、地元の人々に加え難民や外国人も利用する保健施設や学校といった社会サービス施設の利用状況や、食料安全保障に関するデータ収集と分析を行った。

PROCEEDのJICA専門家、馬淵ゆき子さんによれば、「こうしたデータは、地方自治体が難民や外国人による社会サービスへの負担や食料需要への影響を可視化し、中央政府からの追加予算や援助機関からの支援を求めていくうえで、極めて重要」であるという。

PROCEEDでは、さらに、町村が開催する開発計画準備会議に難民が直接参加し、自らの声を届けることができる、という新たな地方自治体運営システムも生み出した。

こうした会議の場では、難民が自らのニーズを語り、地元住民とともに地域の課題を議論し、開発事業の優先順位を決定する。PROCEEDが提案した方法を通して、地元住民と難民、両者の声が地元自治体の開発計画に確実に反映され、難民が地域社会に溶け込んでいくことができるようになっている。

ある難民コミュニティの代表は「地域の開発計画施策に関わるのは初めての経験で、まるでここが自分がずっと住んでいる場所のように思える」と語った。

こうした取り組みの中で得られた知見は、地方自治体職員向けの実用的な手引書として取りまとめられた(内容別に3冊)。馬淵さんは、これらのハンドブックがこの地域の地方自治体の取り組み―色々な立場の人たちが生活し、立場の違いが理由で対立することがないレジリエント(困難に立ち向かえる)な地域社会の発展 ―を支援し、それに必要な能力の包括的で強靭なコミュニティ運営能力の強化につながることを期待している、と語る。

また、「立場の異なる人たち」に関し、PROCEEDは、気候変動による洪水や干ばつのリスクが高まる中で、社会包摂アプローチによる防災対策も推進している。

PROCEEDでは、地域住民が生計手段を多様化し、レジリエンス(困難に立ち向かう力)を高められる手段を複数、実施している。その一つが、その一つが、気候変動に強く、高齢者や障害者等、脆弱な立場にある人々も取り組めるスマート農業の導入である。その結果、地元の住民と難民との間で野菜を売買したり、農業知識を共有したりする交流が生まれている。

自然災害に備えるユニークな試みとして、「演劇」を活用した防災啓発活動も実施している。難民・地元の住民の住民という立場やそれぞれの言語の違い、識字率の低さなどを踏まえた対応として考案されたもので、難民とウガンダ人で構成された混成グループが演劇のトレーニングを受け、地元の学校や市場で公演を行っている。

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(PROCEEDのパイロット事業を通じて開催された防災教育の演劇に見入るウガンダと難民の子どもたち/ 写真:PROCEED)

これらの防災劇では、日常生活の場面を用いて、災害予防と被害軽減に関する重要な知識をユーモラスに伝えた。笑いを交えることで、背景の異なる人々でも楽しみながら理解できるよう工夫している。難民と地元住民が、同じものを、同じ場所で見て、一緒に笑うという経験は、両者の間のコミュニケーションを促進し、お互いに見知るようになることにもつながった。

ある演劇グループは、難民13人と2人のウガンダ人住民によって構成されている。これは単に収入を得ることができただけでなく、難民たちの自尊心を大きく高めることにもつながった。メンバーの一人は誇らしげに「私たちは支援を受けるだけの存在ではなく、他の人を助けることもできる」と語った。

JICAのPROCEEDプロジェクトは、「人間の安全保障」と「共創」というJICAの理念の実践を体現する代表的な取り組みである。パイロット事業では、女性、高齢者、障害のある人々、難民、自治体職員など、さまざまな人々を意図的に巻き込むように設計されている。

PROCEEDのJICA専門家である長根尾和子さんによれば、このような社会包摂アプローチはコミュニティの強化に不可欠であると指摘。「脆弱な立場にある人々は、災害時に、より深刻なリスクに直面することが多く、災害の影響から回復するまでにより長い時間がかかる傾向がある」と述べている。

この協働型の手法は、JICAの「共創」原則の具体的実践でもある。異なる背景を持つ人々の間に信頼と理解を育むことができるという点で、極めて重要である。長根尾さんは「皆が、共に平和に暮らしていくためには、お互いを直接、が何より重要だ。これが相互理解を深め、何かあったときに話し合うことの基礎になる。率直に話し合いが出来る関係は平和的に課題を解決する際にとても重要である」と語った。

多様な声を同じ場に集めることで、支援を受ける側が一方的に解決策を与えられるのではなく、共に課題を理解し、解決策を作り上げる力がコミュニティに生まれる。JICA専門家チームは、このように行政と住民、及び住民同士の信頼と共有された理解を土台とした社会包摂的なコミュニティが、他の地域の模範となることを期待している。