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- アフリカの持続的成長を後押しするJICAの有償資金協力 TICADボンドで資金調達、エネルギーや農業などの発展を支える
新垣謙太郎
日本語版編集:北松克朗
(キリマンジャロの麓にある水田を案内するJICAタンザニア事務所次長の浅井誠さん/ 写真: Ogura Takeshi)
シリーズ:アフリカの課題と可能性
2025年8月に開催される第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に先立ち、現在のアフリカが抱える様々な課題とその解決への動きを伝えるストーリーをシリーズでお届けします。アフリカ各地で支援に活躍する人々、彼らの幅広い活動や今後の可能性に光を当てるとともに、JICAが行っている協力についても紹介します。
TICAD9に合わせて、JICAはアフリカの自立的・持続的成長とアフリカ向け民間投資を推進するための資金調達として、「アフリカ・TICADボンド」を発行しました。今回の記事では、JICAの債券発行を通じた有償資金協力が、どのように民間投資を呼び込み、アフリカの自立や持続的な成長に貢献しているのかをリポートします。
ケニアのリフトバレー州にあるナクル市(現ナクル・カウンティにあるナクル市)で育ったポール・ワンブグさんは幼い頃、郊外に住む祖父母や親戚のもとをよく訪れていた。
電気がまだ通っていなかった郊外では、子どもたちが遊べるのは日中だけで、日暮れ前には店が閉まってしまう。ワンブグさんにとって、祖父母が焚火の前で話してくれるおやすみまえのお話を聞くのが数少ない楽しみの一つだった。
しかし、1980年代に国内大手の公営発電会社「ケニア発電公社(KenGen)」がオルカリアで地熱発電を開始、この地域に電気が行き渡るようになってから、人々の暮らしぶりは大きく変わった。
「生活が一変しました。今ではみんなテレビを持っていて、家庭でも町の中心部でも電気が使えるようになりました」。現在はKenGenの投資マネージャーを務めるワンブグさんは語った。
(ケニア国内の発電機材倉庫を訪れたKenGenの投資マネージャー、ポール・ワンブグさん 2023年/ 写真: 本人提供)
ケニアの地熱発電推進に貢献、世界屈指の電力生産国に
現在、ケニアはクリーンエネルギー生産でアフリカの先頭に立っている。国内で生産される電力の90%は再生可能エネルギーで、そのうち地熱発電がおよそ半分を占めている。
地熱発電の大部分を担っているのは、現在6つの発電所で構成されているオルカリア発電所だ。アフリカを南北に縦断し、いまも地下のマントル上昇が続く巨大な谷、大地溝帯(グレート・リフト・バレー)に位置しており、KenGenはこのうち4つの地熱発電所と14の坑口地熱発電設備を所有・運営している。
JICAは有償資金協力を通じて、これら地熱発電所の建設やメインテナンス、そして運営改善における大きな役割を担ってきた。こうしたJICAの貢献により、現在ではケニアは世界で6位の地熱電力生産国へと成長した。
さらに最近では、JICAの有償資金協力により、KenGenはオルカリア発電所に4つの新たな追加施設を建設し、老朽化した設備の改修を終えるとともに、オルカリアと国内各地を結ぶ送電線の建設も進めている。
ワンブグさんによると、こうした取り組みの結果、オルカリア発電所の発電容量は399メガワット増え、これは国内の約200万世帯をまかなえる電力量に相当するという。
(オルカリア I 4・5号機地熱発電所/ 写真:JICA)
テーマ型債券で日本の投資家と途上国を結ぶ
こうした「有償資金協力」は、「無償資金協力」、「技術協力」とともにJICAの主要3スキームのひとつになっている。
有償資金協力とは、開発途上国に対して低金利かつ返済期間の長い緩やかな貸付条件で資金を提供する仕組みである。その財源の一部はJICAが発行する債券によって賄われており、主に日本国内の民間企業や機関投資家などから資金を調達している。JICAはこうした債券発行を通じて、開発途上国と日本の投資家をつなぐ役割も担ってきた。
JICAは2019年に横浜で開催されたTICAD7に合わせて、アフリカにおける開発協力のために、初の「TICADボンド」を発行し120億円を調達した。その後も毎年、社会やサステナビリティの課題に応えるテーマ型の債券を発行しており、これまでに「JICA新型コロナ対応ソーシャルボンド(2020年)」、「ジェンダーボンド(2021年)」、「ピースビルディングボンド(2022年)」などを実施している。
今年はTICADに合わせた2回目のJICA債として「アフリカ・TICADボンド」を総額230億円発行し、民間の銀行や企業、教育機関などから資金調達を行った。
(タンザニアにおけるコメ振興支援計画プロジェクトを視察するJICA財務部の小池貴大さん(前列左)2025年/ 写真:JICA)
タンザニアの灌漑開発に資金提供、コメの自給を達成
アフリカにおける協力事業で、JICAの有償資金協力が大きな成果を出しているのはエネルギー分野だけではない。
JICA財務部で資金調達を担当する小池貴大さんによると、2019年のTICADボンドで集めた資金は、アフリカ16カ国で26の事業支援に使われた。ケニアの地熱発電事業のほか、タンザニアでの灌漑(かんがい)開発、ウガンダでの橋の建設、さらにエジプトでの「エジプト・日本教育パートナーシップ」に基づく学校建設や既存校の改修などが含まれている。
「JICA ソーシャル/サステナビリティボンド フレームワーク」では、資金の使途としてエネルギー産業(ただし石炭火力発電事業は対象外)のほか、保険・医療、教育、平和構築など合計15の適格事業区分が設定されている。
農林・水産業の分野では、アフリカにおける多くの国において農業生産施設の整備や灌漑開発事業を支援してきた。
(タンザニアにおける小規模灌漑開発事業 2015年/ 写真:JICA)
JICAのタンザニアにおける農業・灌漑開発事業との関わりは長い歴史がある。
現在JICAタンザニア事務所の次長を務め、『稲穂の波の向こうにキリマンジャロータンザニアのコメづくり半世紀の軌跡』の著者である浅井誠さんによると、タンザニアにおける稲作開発と日本の関わりは1970年代までさかのぼる。
その関係は、2008年開催の第4回アフリカ開発会議(TICAD4)でさらに加速した。同会議では、アフリカにおけるコメ生産を10年間で倍増することを目標に定め、実現をめざすイニシアティブ「アフリカ稲作振興のための共同体 (Coalition for African Rice Development: CARD)」を発表し、アフリカ32ヵ国が参加、1400万トンから2800万トンの生産倍増を達成した。
JICAによる有償資金協力を通して多くの農業インフラ関係の事業が行われてきた。2013年から続いている「小規模灌漑開発事業」もそのひとつで、TICADボンドで調達した資金も使われている。
浅井さんによると、こうした灌漑事業を通してタンザニアにおける灌漑面積は、2007/2008年度から2020/2021年度にかけて2.5倍増になった。
国連食糧農業機関(FAO)が2025年6月に出版した「Food Outlook(食料見通し)」の最新データによると、現在タンザニアはアフリカにおいて第4位のコメ生産国であり、ブルンジ、ケニアやウガンダなどの近隣国に輸出している。
昨年、米国で開催された世界食糧賞財団(World Food Prize Foundation)主催の「ノーマン E. ボーローグ国際シンポジウム(Norman E. Borlaung International Dialogue)」で、タンザニアのサミア・スルフ・ハッサン大統領は、同国が食料自給を達成し、将来的には「(東アフリカ)地域の食料供給拠点」となることを目指す大胆な方針を示した。
浅井さんは、タンザニアがコメの自給を達成したことについて、JICAの長年の協力貢献してきたのは間違いないと自信を示した。
「日本の協力がもたらしたコメの生産の広がりが、直接的・間接的にタンザニアのコメ生産量の増加につながったと胸を張って言えると思っている」と浅井さんは語った。
JICAとの協力が支援先の信用力向上につながる
ケニアにおいても、TICADボンドによる開発協力の波及効果がすでに表れ始めている。
今年の2月にはケニア政府がオルカリアを「特別経済区域」に認定し、「KenGen Green Energy Park」の建設計画を発表、地熱発電を利用した産業の誘致に乗り出した。
JICAの債券を活用した有償資金協力には、いくつかの利点がある。
小池さんは「民間資金を取り込むことで、より大規模かつ持続的な開発案件への対応が可能となり、また投資家にとっては社会的意義と安定的なリターンを両立できる投資先となる。さらに、JICA債の発行を通じて、日本の投資家と開発途上国を結び付ける役割も果たしている」と説明する。
JICA債への注目は高まっており、投資表明の件数は2020年度の174件から2024年度には361件へと倍増している。
ケニアのワンブグさんにとって重要なのは、資金面だけではない。
有償資金協力では、発電所建設やメンテナンス費用に対する融資条件がいいため、電気料金を低額に抑えられることができる。さらに、JICAが求める高い品質や安全基準を満たすことで、KenGenは組織としての力を強化することができたのだという。
国際社会においてJICAは高い評価を受けているが、KenGenにとってはJICAとの協力関係、また融資の返済実績を築くことにより、他の国際金融機関からも融資を受けやすくなるという利点が生まれると、ワンブグさんは強調する。
「これまでJICAの有償資金協力のもと融資を受けてきたという実績があるからこそ、今KenGenが新たな事業を始めようとすれば、国際的な投資機関からも信頼を得られるのだ」とワンブグさんは語った。
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