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- 官民連携で東アフリカに「グリーン産業の成長ハブ」を築くマスタープラン策定にJICAが協力、日本企業の参加に大きな期待
新垣謙太郎
日本語版編集:北松克朗
(ケニアのオルカリア地熱発電所でレクチャーに参加する西日本技術開発の川副聖規さん(一番左) 2024年/ 写真:キューデン・インターナショナル)
シリーズ:アフリカの課題と可能性
2025年8月に開催される第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に先立ち、現在のアフリカが抱える様々な課題とその解決への動きを伝えるストーリーをシリーズでお届けします。アフリカ各地で支援に活躍する人々、彼らの幅広い活動や今後の可能性に光を当てるとともに、JICAが行っている協力についてもご紹介します。今回は、アフリカにおけるグリーンハブ構想についてお伝えします。
ケニアのケビン・ニャフワさんは、日本の大学での修士号取得と日本企業などでのインターンシップの機会を提供するJICAの2年間プログラム「ABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ:African Business Education Initiative for Youth)」に応募し、選抜された19人のうちの1人として2017年に京都の同志社大学に進学した。
留学生が滞在する大学の寮生活ではチキンやご飯をよく料理していたが、驚いたのは寮の台所のガスコンロすべてにクリーンエネルギー(CO2など温室効果ガスの排出がない、またはその量を抑えたエネルギー)が常に使用されていることだった。
ニャフワさんは、ナイロビから北西400キロほどあるシアヤ郡ラリエダ地区で生まれ育ったが、幼いころ母親が5人の子どものために薪を集めて料理を作っていた頃の苦労を今でも思い出す。
「今日でもケニアの家庭にはクリーンエネルギーを使って調理できる環境はまずない。健康のために料理を作らなければならないが、(伝統的な調理をしているので)それが返って健康に害を及ぼすことになっている」とニャフワさんは語る。
生まれ故郷ケニアでの思いと日本での経験が原動力となり、ニャフワさんは2021年にJICAのケニア事務所で働き始めた。現在は再生可能エネルギー・グリーン産業化戦略担当のプログラムオフィサーとして、「アフリカ地域北部回廊」を再生可能エネルギーの重要拠点として位置づけるJICAの取り組みに携わっている。
(京都工芸繊維大学のサマー・プログラムに参加するケビン・ニャフワさん(前列左)2019年/ 写真:ケビン・ニャフワ)
この回廊はケニアのモンバサ港を入口に、内陸にあるウガンダやルワンダ、ブルンジ、そしてコンゴ民主共和国をつなげ、地域のグリーン経済成長を支えるための重要なルートを形成している。
2017年にJICAはケニアとウガンダ両政府の要請を受けて「アフリカ地域北部回廊物流網整備マスタープラン」を作成した。そのプランのもと、JICAはハード面である道路や港湾などのインフラ整備。そして、ソフト面である制度構築や人材育成における協力を行ってきた。
ニャフワさんはグリーン経済や再生可能エネルギーの重要拠点を作り出すためには、これまでのような政府間協力だけでなく、官民連携(Public-Private Partnerships:PPP)によって民間企業の力を活用することが不可欠だと強調する。
「ケニア政府は関連事業を成功させるには、官民連携がこれまで以上に必要だと考えている」とニャフワさんは語った。
その例としてあげられるのが、モンバサ港における日本製の省エネクレーンの導入である。2017年にケニア港湾公社(Kenya Ports Authority : KPA)は、JICAの有償資金協力を通じて豊田通商から16基のクレーンを購入する契約を交わした。この購入には「日本の質の高いインフラ輸出」の一環として供給する円借款である、本邦技術活用条件(STEP)が適用された。
(CFAOケニアの和田明取締役社長/ 写真:CFAO)
これらのクレーンは三井E&S(旧三井造船)から提供されたが、その中には燃料排気量が従来型の半分で済む12基のハイブリッド型クレーンが含まれている。
この事業は、環境に優しい貨物取り扱い設備の整備や再生可能エネルギーを使ったモンバサ港における環境配慮型港湾政策の一環で、環境対策を一時的ではなく持続可能な形で継続していく目的がある。
「JICAの東アフリカにおける環境に配慮した回廊計画の中で、私たちは部分的ではなく全体としてのインフラ整備に協力できる方法を模索している」と、豊田通商のグループ会社であるCFAO Kenya Limited(CFAOケニア)の社長を務める和田明さんは語る。
CFAOケニアをはじめとするCFAOグループは、「グリーンインフラ」以外にも、「モビリティ(交通分野)」「ヘルスケア(医療分野)」「コンシューマー(消費者向けサービス)」の各分野に力を入れている。特にモビリティの分野では、排気ガス汚染削減のため、ナイロビ市内のバス運行会社に電動バスを提供するスタートアップ「BasiGo」に2022年から出資している。
BasiGoによると、アフリカにおける温室効果ガス排出量のうち、車などを含む運輸部門による排出量は全体の30%以上を占める。一方、同社がナイロビ市内で提供する電動バスは1台につき、年間50トンほどのCO2排出量を削減することができるとしている。
2021年に設立されたこのスタートアップはCFAOの出資をもとに、2027年までに1000台の電動バスを現地生産する予定だ。これにより、CO2の排出削減を行いながら生産する「グリーン製造業」で、新たに約300人分の雇用が生まれるとの見方を同社は示している。
BasiGoのウェブサイトでは、同社の電動バスは「ケニア人により設計・製造され、さらにケニアの豊富な再生可能エネルギーによって運用されている」と謳われている。今後、同社はルワンダにおいても電動バスを運行する予定だ。
和田さんは、ケニアでさらに電気自動車(EV)を増やすためには、充電ステーションやEVメインテナンス場の拡大化が必要であり、この分野においてもJICAとCFAOの協力関係を築いていきたいと語る。
「EVを活用したプロジェクトでは、まだJICAと一緒に協力できていないが、充電設備などのインフラ整備や、EVの普及促進、さらには将来的にはグリーン水素(再生可能エネルギーで作られた水素)を使った車の導入なども、JICAとして検討していると理解している」と和田さんは語る。
JICAによる官民連携の事業が、変化を起こしているのはインフラ部分だけではない。
九州電力とそのグループ会社である西日本技術開発で長年技術者として勤めてきた川副聖規さんは、ケニア最大級の再生可能エネルギー施設であるオルカリア地熱発電所において、JICAによる技術協力事業に参加した経験がある。
JICAによるこの数年間の技術協力事業では、国際連合工業開発機関(UNIDO)のIoTテクノロジー(モノのインターネット技術)を通して、現地技術者の訓練が行われ、発電所の運転維持管理能力も強化された。
「ケニア国IoT技術を活用したオルカリア地熱発電所の運転維持管理能力強化プロジェクト」と名付けられたJICAの事業のもと、川副さんは2020年から2025年の間にリモートや対面でのトレーニングを行った。
日本からの渡航ができなかったコロナ禍が終息すると、川副さんを含む日本派遣チームはただちに現地に向かい、ケニア発電公社(Kenya Electricity Generating Company:KenGen)の技術者たちに性能管理、データ分析、予兆管理に関する講習などを実施した。
「最初は、現地の技術者たちが新しい技術に少し警戒しているように感じた。また、研修はすべてオンラインで行われていたので、ややぎこちない部分もあった」と川副さんは振り返る。
「しかし、技術課題や作業手順について直接対面で議論を重ねるうちに、徐々に信頼を得ることができた。理解してもらい、受け入れてもらえるようになったことは、大きな喜びであった」
研修事業が終わった後、川副さんのチームはトレーニング内容を教育資料としてまとめ、さらに社内教育を続けていくために社員の中からトレーナーを選抜した。川副さんたちが伝えた知見やノウハウは、いまもKenGenの技術者たちに受け継がれている。
ケニアはアフリカにおけるグリーン経済の牽引役を担うようになった。それには、JICAの長年にわたる協力と官民連携の促進が大きな役割を果たしたと言っても過言ではないだろう。
現在ケニアは世界第6位の地熱発電量の生産国であり、国内発電の約90%を水力、風力、太陽などの再生可能エネルギーが占めている。さらにケニア政府は、2030年までに国内発電量の100%を再生可能エネルギーとすることを目標として掲げている。
ケニア気候変動特使の事務局で、再生可能エネルギーとグリーン産業化を担当するジョイス・カブイさんは、「我々がこれだけの再生可能エネルギーの潜在力を有しているということは、産業向けに低コストの電力を供給できる可能性があるということだ」と語る。
(ナイロビで行われたAfrica Investment Exchangeに参加するケニア気候変動特使事務局のジョイス・カブイさん(右から2番目)2024年3月/ 写真:ジョイス・カブイ)
2023年にドバイで開催された「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」において、ケニアのウィリアム・ルト大統領主導のもと「アフリカグリーン産業化イニシアティブ(AGII)」が立ち上げられた。
この枠組みは、グリーン産業への大規模な投資を通じて、アフリカ大陸全体でのグリーン産業化を加速させ、経済成長の促進や雇用創出、さらには貿易拡大を図ることを目的としている。
カブイさんは、ケニアがJICAと協力して、アフリカ全体で環境に優しい産業開発を促進するためのマスタープランを策定していると語った。
この計画は、グリーンエネルギーの活用、交通ネットワークの強化、そして東アフリカの主要な貿易ルートである「北回廊」に沿った持続可能な産業の構築・発展に焦点を当てている。
JICAケニア事務所のニャフワさんは、マスタープランはまだ初期段階にあるとしながらも、目標は東アフリカを「グリーン成長ハブ」として位置づけ、官民連携を推進力として、他のアフリカ諸国が模範とできる実践的なグリーン経済成長モデルを提示することだと話した。
「このコンセプトの核心にあるのは、いわゆる『共創』という考え方だ」とニャフワさんは述べた。
「したがって、我々のマスタープランにおける重要な問いの一つは、『日本企業が安定した、投資に適した環境と見なせるように、どのようなグリーン投資政策を打ち出すべきか』ということになる。我々は日本の民間事業者を、この取り組みにおける重要なパートナーと見なしている」
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