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- アフリカ大陸自由貿易圏の実現へ日本の知見を活かす地域統合やカイゼン推進にJICAが協力
Nithin Coca
日本語版編集:北松克朗
(ザンビアとボツワナを結ぶカズングラ橋前にて、JICAとアフリカのセミナー参加者たち/ 写真:AUDA-NEPAD)
シリーズ:アフリカの課題と可能性
2025年8月に開催される第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に先立ち、現在のアフリカが抱える様々な課題とその解決への動きを伝えるストーリーをシリーズでお届けします。アフリカ各地で支援に活躍する人々、彼らの幅広い活動や今後の可能性に光を当てるとともに、JICAが行っている協力についてもご紹介します。今回は、貿易と経済開発に焦点を当てます。
70年余りの歴史を持つ日本の政府開発援助(ODA)において、JICAは二国間協力(技術協力と有償・無償協力)の推進を担っており、アフリカ各国に対しても様々な分野で現地に根付いた開発協力を続けてきた。同時に、アフリカとの関係強化をめざす中で、JICAが取り組んでいる優先分野のひとつが、アフリカ大陸全体のより大きな発展をめざす政策構想への貢献だ。
2013年、50を超えるアフリカの国々が加わる地域国際機関であるアフリカ連合(AU)は、50年後を見据えた政策構想「Agenda 2063」を発表した。これに貢献するため、JICAはAU傘下の開発機関で「アフリカ連合開発庁-アフリカ開発のための新パートナーシップ」( AUDA-NEPAD)と2014年に業務連携協定を結び、地域統合やアフリカ・カイゼン・イニシアティブなどAgenda 2063の達成に貢献することが期待される5つの重点分野について協力している。
東南アジア開発の知見や経験に関心
JICAは東南アジアで様々な開発協力を手掛けており、その知見や経験は多くの国々が集まる多民族のアフリカ大陸の開発にとっても参考になる点が多い。「AUDA-NEPADでは、東南アジアの開発の歩みと、その中で果たした日本の役割を理解したいという関心が高まっている。それはアフリカのパートナーにとって貴重な参考となるだろう」とJICA国際協力専門員でAUDA-NEPAD長官シニアアドバイザーを務める本間徹さんは語る。
JICAとの協力について、AUDA-NEPADの経済・インフラ・工業化・貿易・地域統合部門ディレクター、アミン・イドリス・アドゥムさんは「アフリカだけが恩恵を受けるということはなく、常に双方に利益がある」と強調する。「日本企業がアフリカでの存在感を高めれば、日本からアフリカへの輸出も増える可能性は十分にある」からだ。
(エチオピアでのカイゼンの実演。アフリカ・カイゼン・イニシアティブは、アフリカの企業による品質と生産性の継続的な改善を支援している/ 写真:JICA)
JICAとAUDA-NEPAD、深まる結びつき
業務連携協定の締結から10年以上が過ぎ、JICAとAUDA-NEPADの結びつきは一段と深まりつつある。「(JICAは)5人もの常駐アドバイザーを配置している唯一の組織だ」と本間さんは語る。アミンさんもJICAの対応を高く評価するとともに、「私たちは緊密に連携しており、アフリカにとって最も戦略的な開発分野を中心に協力している」と話す。
JICAとAUDA-NEPADが協力してきた5つの分野には、地域統合とアフリカ・カイゼン・イニシアティブのほか、食と栄養のアフリカ・イニシアティブ(IFNA)、Home Grown Solutions(アフリカ発の現地企業の支援)、そしてPolicy Bridge Tank(研究)がある。
アフリカ・カイゼン・イニシアティブでは、工場など現場において自発的に品質や生産性の向上を図る「カイゼン」活動を推進、その普及・展開を進めている国は41か国に広がるとともに、1,400人のカイゼントレーナーが育成され、18,000社以上の企業が恩恵を受けている。
各国はそれぞれの実情に合わせてカイゼンを取り入れる一方、JICAとAUDA-NEPADは国境を越えて知見を共有するためのカイゼン展開のプラットフォームを構築している。
(2025年1月、ボツワナとザンビアの国境にあるカズングラOSBPで開催された会議/ 写真:AUDA-NEPAD)
アフリカ大陸自由貿易圏への道
アフリカ大陸は域内の国々の貿易や経済活動の一体化が進んでおらず、物流コストの高さや国境手続きの煩雑さなどが成長の足かせになっている。JICAとAUDA-NEPADが進めようとしている地域統合は、そうした課題解決に欠かせない政策だ。
地域統合の必要性について、本間さんは「アフリカは広大であるため、特に内陸国を港や大きな市場へとインフラでつなぐことが鍵になる」と指摘。「回廊型アプローチが非常に重要」という。
国境を越えて経済圏を広げるには、人やモノの移動を円滑にする道路や鉄道などで各国をつなぐインフラの広域整備が必要になる。特に、内陸国と沿岸国を「回廊」のように結びつけることによって、多くの国が貿易の恩恵を享受できるようになる。そうした可能性を踏まえ、JICAはアフリカにおいて様々な回廊開発を進めてきた。
回廊開発では、道路や鉄道、港湾などハード面のインフラだけでなく、物流を円滑に動かすための制度構築や人材育成といったソフト面の整備も重要だ。JICAはハードとソフトの両面で回廊開発に協力するノウハウや実績を蓄積しており、すでに各地で大きな成果を上げている。
特に、回廊開発を成功裏に進めるには、出入国や税関、検疫などの国境業務を簡素化し遅延を減らす必要がある。その対策として進んでいるのが、一つの施設ですべての手続きを済ませることができる「ワンストップ・ボーダーポスト(One Stop Border Post:OSBP)」の導入で、ここでもJICAの知見やノウハウが生かされている。
「JICAが関わる以前は、大陸横断的な貿易を加速・促進するための枠組みが存在しなかった」とアミンさんは言う。「現在は非常に強固でしっかりと設計されたツール、広く読まれているOSBPソースブックがある」
「OSBPは単なる国境管理にとどまらず、教育や訓練、能力開発を行い、経済システムの再構築にもつながる」とアミンさんは語る。「これは地域発の解決策であり、アフリカの地元企業の発展を力強く支えている」
その好影響はきわめて大きく、物流の予測可能性の向上や取引者同士の信頼感の高まりという効果ももたらしているという。現在アミンさんはこのイニシアティブに関する書籍を執筆している。
さらにいえば、国境を超えた地域統合の成功は、ASEANやEUが成し遂げたように、より大きな目標であるアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の基盤を築くことにもつながる。
AUDA-NEPADとの業務連携などについて、本間さんは、 二国間協力に加え、アフリカ全体を見渡す大きな構想への協力は、JICAにとって決して容易ではなかったと言う。「より大きな視野で考える必要があり、当初はその知識が不足していたかもしれないが、大陸規模で物事を考えることを多く学んだ」と本間さんは振り返った。
(2025年8月、横浜で開催されたTICAD9において、新たな業務連携協定が締結された。写真は左から本間徹さん、アミン・イドリス・アドゥムさん、中央の女性はAUDA-NEPADのCEO、ナルドス・ベケレ=トーマスさん、右から3番目はJICA理事の安藤直樹さん/ 写真:JICA)
アフリカが世界に示すべきモデルに
今年8月、横浜で開催されたTICAD 9では、JICA、AUDA-NEPAD、そしてそのパートナーがこれまでの成果を振り返り、今後を見据えて計画を立てる場となった。
「私たちの主な目的は、この協力関係、すなわちJICAとアフリカおよび日本のパートナーとの協力がうまく機能し、成果を上げていることを示すことだった」とアミンさんは述べている。
会議では300を超える新たな協力協定が締結され、その中にはJICAとAUDA-NEPADによる第5改訂版の業務連携協定も含まれている。この協定により、JICAとAUDA-NEPADの活動はAgenda 2063に沿って12の新たなサブテーマへと拡大することとなった。
「国際社会における協力をさらに深めることが極めて重要だ。世界の成長を牽引するイノベーションと強靭性の象徴として台頭するアフリカと共に歩んでいきたいと考えている」とJICAの田中明彦理事長は会議で述べた。
アミンさんにとって、このパートナーシップは単なる成功にとどまらない。彼はJICAとAUDA-NEPADの協力を、アフリカが世界に示すべき未来へのモデルだと考えている。
「より強固な協力関係を築くことは、世界が直面する最も緊急な課題のいくつかに対する解決策を見出すことにつながる」とアミンさんは語った。
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