事業評価外部有識者委員会(2018年9月)の概要

1.日時

2018年9月7日(金)14時00分から16時05分

2.場所

独立行政法人国際協力機構(JICA)本部 会議室

3.出席者

高橋委員長、朽木委員長代理、黒崎委員、高梨委員、中田委員、野坂委員、本間委員、山谷委員
(JICA)加藤正明理事、評価部長他関係部

4.議事概要

今次会合では、「組織統合後10年の事業評価の振り返りと今後の展望」を議題とし、特に「組織統合の効果は評価にも十分及んでいるか、あるいは、よりその効果を活かすために、また10年の経験の中で見えてきた問題点や課題を乗り越えるためには、どのようなことが今後の評価の理念、方法や体制等に望まれるか。」という観点から、意見・助言を得た。主な意見や助言は、以下のとおり。

総論

  • JICAが、この10年間、開発効果に対し忠実な評価をしてきたことは重要であり、貴重な財産であると評価している。援助の目的は途上国の開発であり、その開発効果を確認・分析するのが事業評価の使命。
  • ここ10年でJICAの学術的能力も上がっていることは大変良いことだが、JICAの本業は事業をきちんとやることであり、そのために知的能力を培うことが必要で、評価はそれを助けるような役割を担うことが重要。
  • これまでJICAが基本に置いているのは案件ごとの評価が中心だったが、今後は協力プログラムなどもっと大きな視点でも開発効果全体の評価をしてもらいたい。また日本の援助だけではなく、他ドナーの複数事業をひとまとまりの援助として評価する取り組みも検討すべき。協力プログラムとしての評価の推進や、さらには日本の援助を超えてドナー全体でその協力の評価を進めるという発想があってもよい。
  • 従来より「ODAは外交のツールである」と主張してきた。ODAをうまく活用して日本の発信力を高めよう、とJICAに注文し続けてきた。一方、ODA予算はピーク時より半減している。今の日本の財政状況をみれば大きな増額は望めず、これまで以上に効率化が求められると思う。世界情勢の変化やSDGs、NGO、自治体、中小企業連携など新しいニーズも出てきて、従来とは違う環境になってきている。時代の変化に従って評価も変化が必要だと思う。
  • 拡大する中国援助と量的に競争するのではなく、過去2000年代、米国が莫大な援助量で圧倒した時代、英国ブレア政権下の英国開発援助が知的な面で存在感を発揮したように、日本の強みを生かし、日本が、JICAが知的な面で世界をリードしていくべき。
  • 情勢が激しく変化し、地域統合なども進む中、日本のODAはどういう役割を見出していくのか、JICAは、自分自身で考え提案していく必要がある。世界が激変したのなら評価の仕方も変わっていかないといけない。世界経済の変化の中で10年後のJICAのあり方など方向性を見定めていかないといけない。
  • 今後は、援助の定点観測も検討すべき。例えば法制度整備支援など、長い年月を経てようやく社会に影響が出てくる援助の分野もある。定期的に資料を収集して長いスパンでみていく評価も重要。事業終了時又は数年後の事後評価で終わることなく、10年後、20年後、30年後といった長いスパンで、社会への影響を長期的に見ていくと、より援助の効果がわかる部分もあるのではないか。
  • 評価のための評価ではなく、事業のための評価をしてほしい。インパクト評価、プロセスの分析など様々な評価手法が導入されているが、評価手法の開発が目的ではなく、評価を通じ事業の改善に資することが本来の目的であるべき。現場に役立つ評価と提案をもっと行って欲しい。現場の声を十分に踏まえ現場に寄り添う評価をお願いしたい。

各論

説明責任と評価結果の活用と学び

  • 監査、検査、評価など、アカウンタビリティが複雑化する中、誰に何を説明するのかを意識し、そのうえで事業評価の位置づけを明確化する必要がある。組織によってはアカウンタビリティに追われて本業に支障が出る問題も生じている。「評価の仕分け」が必要。誰に対して説明するために、どういう視点で評価をするのかを現場の視点で一度整理することが、より効果的、効率的な事業評価の実施につながる。統合前後だけはなく、独法化前後のODAを取り巻く状況の変化も含めた事業評価の歴史・経緯を整理してまとめておくことで、過去をきちんと踏まえた事業評価の改善につながるはず。
  • 日本の援助は1950年代、輸出振興と資源確保、戦後賠償に始まり、今とは違う形をしていた。難しいのは日本のODAのアカウンタビリティが誰に対してなのかがあいまいなこと。当時は日本国民だけに対してのものだったのではないか。その後アカウンタビリティの対象が変化してきているものの、未だ日本の評価は自国内へのアカウンタビリティに重点があるように思う。一方、例えば中国の援助は、相手国の国民や政府などパートナーの声に極めて敏感。中国の援助に関しては、他の先進国や援助機関と協調の観点から課題もあるが、相手国の人々へのアカウンタビリティをどう考えるかという意識は感じられ、中国の援助は確実に変化を遂げている。
  • 海外の知見を日本国内・地域振興などへ活かすための方策も検討すべき。日本国内でそういうニーズはある。評価をして、政策を形成していくメカニズムが日本の地方自治体にも参考になるのではないだろうか。海外の知見だけが必ずしも先進的ではないが、JICAの事業評価も国内地方自治体の参考になり得る。JICAが事業の教訓を体系化して知見を日本の地域で生かすことができれば、これほどのアカウンタビリティはないと思う。
  • 事業評価による学びと教訓はとても大切で、膨大なデータが集まっている。学習と改善では、事業評価結果をデータベース化するなど、改善が進められている。それはJICAの財産でもある。その財産を外部にも発信・共有して次なる案件につなげていく。データベースを生かして評価の一環とし、今後も教訓の深堀と発信を続けていただきたい。
  • JICA内の部署間で教訓を生かしきれていないという課題もあるのではないか。この10年間で評価方法のメカニズムはできてきたが、評価結果や教訓を事業の企画形成に活かすため組織のフィードバックのメカニズムを構築すべきだと訴えてきた。今後は事業計画の検討に、評価結果や教訓をフィードバックするしくみなど、事業のPDCAがまわっていくという形を作れたら良い。
  • 事業評価が行われた際に、その評価意見を受容し、以降の事業活動に反映させることについてのJICAのコミットメントも必要と感じている。そのためにも、評価結果から、ではどうすればより良い効果が得られたのか、それは将来のプロジェクトの形成や実施でどうすれば確実に教訓として生かされるのかを具体的に示し、PDCAの「チェック」から「アクション」につなげるところをシステマティックに明示してはどうか。
  • 本来の評価の役割は、評価のレーティングをするだけではなく、評価結果や教訓を組織内外にフィードバックすることにある。評価結果や教訓を如何に新たな事業に向けフィードバックしていくか、評価結果を公表するだけでなく、事業に具体的に活かす一層の取り組みを期待したい。

評価手法・制度の改善

  • 統合後10年、特に近年では、過去の評価結果の統計分析、インパクト評価、プロセスの分析など評価分析手法も多様化し、データ整備が進むなど、良い取り組みが増えている。一方で、インパクト評価やプロセスの分析などに関しては評価の厳密化を再検証することも今後必要ではないか。経済学の世界でランダム化比較試験を実施する場合は相応の手順を踏む必要がある。インパクト評価の実施は、JICA内で情報を共有し、限られた予算で選択的・戦略的に案件を選ぶことも必要。プロセスの分析は、事業のプロセスを物語としてとらえる方法は有用ではあるが、事前に設定した条件に基づいてその項目を確認していくのが本来の評価。単なる読み物に終わらないよう留意すべき。
  • 評価の質の向上と、職員の一層の評価能力向上は必要。内部事後評価の結果について、クオリティ・チェックに関する取り組みが始まったことを歓迎したい。
  • 1991年OECD-DACが提唱し多くのドナーが導入してきたDAC評価5項目など、他の機関の作ったものからの脱却も考えないといけない。ODAとしては「効率性」がゼロであっても価値がある場合もある。よそが作った基準ではなく、JICA自身で議論する必要があるのではないか。
  • JICAの事業評価活動を活用して、OECD-DACによる評価5項目に即しつつ、より実践的で、他の開発機関でも利用可能な科学的な根拠に基づいた評価の枠組みを形成してはどうか。現在DACが行っている評価基準の見直しの議論にもJICAとして積極的に参加して、各援助機関との対話を行ってはどうか。

以上