jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

事業評価外部有識者委員会(2020年10月)の概要

1.日時

2020年10月14日(水)10時00分~12時00分

2.開催方法

オンライン(Zoom)開催

3.出席者

高橋委員長、源委員長代理、石本委員、今田委員、木内委員、黒崎委員、功能委員、近藤委員、竹原委員、舟越委員
(JICA)中村理事、評価部長他

4.議事概要

議題は「JICAの評価基準改定(案)について」の1点。JICAは2009年度より、DAC評価5基準に基づき、技術協力・有償資金協力・無償資金協力の3つの援助スキーム間で、統一的手法を用いた事業評価を行っているが、今般、2019年のDAC評価基準の改定も踏まえ、新JICA発足以来、約10年ぶりに評価基準を改定する。委員会ではこの改定案に関し、JICA側からの以下(1)、(2)の説明に基づき、意見交換を行った。

(1)JICAの事業評価改定の目指す方向性

  • JICAにおける評価基準改定では、組織理念にも合致するSDGsの評価視点への明確な反映と、他機関連携・シナジーの更なる創出を目指す。これら方向性とも合致することから、JICAではDAC新基準(「整合性」を含む6基準)を準用する。
  • より良い教訓の抽出・活用の促進に向け、事業実施途中の環境変化への適時・適切な対応・判断や、開発効果を高めるためのJICAのプロアクティブな取組みを評価できるよう、事業形態や内容の多様性に応じた評価を目指す。
  • 従来のJICAの事後評価では、各評価基準の評点(サブレーティング)が3段階(「高い」「中程度」「低い」)のうち、特に「中程度」に集中する傾向があり、弁別力の観点で課題が見られたため、その解決も図る。

(2)事後評価基準の改定内容

  • 各評価基準に、SDGsの理念を反映。妥当性においては、「受益者(Beneficiary)」の視点を追加し、弱者への配慮や公平性を踏まえた事業形成の視点を確認する。また有効性においては、異なるグループの結果の差異に着目し、受益者間の格差や公平性の観点も踏まえた開発効果の裨益を確認する。インパクトにおいては、人権や人々の幸福(Human Wellbeing)を、また持続性においては、将来的に起こりうるリスクへの対応の視点を追加した。
  • DACの新評価基準では、新しい評価基準として、「整合性」(国、セクター、組織に対する当該介入と他の介入との適合性)が追加された。この整合性の視点の一部は、既存の評価基準の一つである「妥当性」に従来含まれていたものであるが、改定後は、事業デザインの適切性や開発途上国の必要性(ニーズ)を妥当性で確認し、国、セクター、組織に対する当該介入と他の介入との適合性を「整合性」で確認する。
  • 既存の評価基準ではカバーされない、事業実施に際しての適応・貢献(多様な事業環境を取り巻く変化への適時・適切な対応)や、付加価値・創造価値(JICA 固有のユニークな付加価値、イノベーティブな取り組み等)を視点として、評価に加えた。これらは客観的にレーティング判断することが困難な内容であるため、レーティング付与及び総合評価の対象にはしない「ノンスコア項目」とした。
  • これまで3段階だったサブレーティングを4段階とすることで、弁別力を持たせ、統計分析を通じた傾向分析の精度が向上し、事業形成・実施上の課題や示唆を得やすくすることを目指す。また評価基準ごとの軽重を考慮し、事業の結果である「有効性・インパクト」、及びその成果の継続を担保するべく「持続性」をより重視したレーティングとなるよう、総合評価を導くフローチャートを改定した。

(3)委員からの主な意見・助言

  • 今回、評価基準に新たに「整合性」が追加され、日本の開発方針、ODA大綱、SDGsなど、様々な政策との「整合性」を従来以上に丁寧に確認することとなる。相手国の開発戦略、開発計画、多様なステークホルダー等が存在する中、どのように相手国に寄り添うのかが重要。日本の国際協力のあり方そのものにも関わる。評価基準が改定されても、最終的には相手の国に役に立って実現されるべきというODAの本旨を揺るがさないで頂きたい。
  • 「整合性」が追加されることで、既存の評価基準である「妥当性」の定義がより明確になった。「整合性」を加えて評価することにより、事後評価において事業デザインに関する教訓をより丁寧かつ適切に導き出すことが可能となり、事業の介入にかかる効果をより確認し易く、評価することが可能となった。この取組みを歓迎したい。
  • 新しい評価基準の改定案は非常に精緻に検討されており、特に成果の持続性を重視していることが感じられた。各評価基準の数値化(サブレーティング)が従来の3段階から4段階になるなど、評価基準がより精緻化されるのは良い試み。能力の限界まで頑張ることで成果を出すのは良いものの、「有効性・インパクト」の最高位であるサブレーティング4は、「計画以上に達成された」場合に到達可能となっており、計画以上の事業効果発現を期待して過度に無理をすることのないよう、特に持続可能性が重視される今の時代においては留意頂きたい。
  • 今回のDAC評価基準改定における「妥当性」の議論は、大きな意味での援助効果から開発効果の流れへの移り変わりを反映しているように思われる。そうした開発効果への流れ、また昨今のSDGsへの流れを考えると、この各評価基準のサブレーティングの基準は、総合評価の基準となるため、非常に大事な文言だと理解した。
  • 評価基準を6基準化することに伴い、過去長年に亘りいた評価基準が変わることになる。今後、新しい基準で評価した総合評価と、従前の基準で評価した総合評価とは、直接比較・分析することが難しい部分が出てくることに留意が必要。
  • 今回新規に評価項目として追加した「適応・貢献」「付加価値・創造価値」の評価項目は、総合評価の対象外ではあるが、将来の他の事業の成功・付加価値に直結するため重要。今後、適切に教訓・提言の形でまとめ、組織内で情報の蓄積・整理を図り、将来の事業に十分活用・反映していって欲しい。このことは、総合評価反映の有無や点数化の観点以上に、本質的に重要であると思う。
  • 事後評価の結果を発信するにあたっては、主要な受取り手である途上国側が正しく理解できる必要がある。そのためには、今回の新評価基準を適切に解釈しうる人材の育成・キャパシティビルディングが必要。拡充・強化に向けて、必要な予算確保等が望まれる。また、日本の一般国民・納税者に対しては、評価結果の伝達に留まらず、JICAの支援で途上国がどのように変わり、人々の生活が如何に改善されたかを分かり易く伝えていく必要がある。
  • 今回の議論では、主に基準改定にフォーカスしたものとなっているが、この基準がセットされ一般の方に展開する際には、単なる基準改定部分のみならず、新しいJICAの評価の理念やスタンスを大きく打ち出してほしい。評価基準改定に関わっていない方を想定し、何を最も大きく打ち出すべきか、明確に伝えるべきか検討して頂きたい。

なお、改定案に基づく新しいJICAの評価基準は、2021年度に事業評価を行う案件より適用予定。

以上