アフリカにおけるJICAの理数科教育支援

(1)なぜJICAはアフリカの理数科教育に対する支援を行うか?

アフリカでは、産業発展に必要な科学的知識、技術を持った人材の育成が急務となっていますが、子供たちは概して理数科が苦手です。小・中学校卒業試験の成績も低く、学校に通っても十分な学力を習得できていません。

国際学力調査(TIMSS2003、8年生数学)平均点の比較

【図表】国際学力調査(TIMSS2003、8年生数学)平均点の比較

国際水準に達した生徒の割合(%)

【図表】国際水準に達した生徒の割合(%)

国際的に見たアフリカの子どもたちの学力

  • 国際学力調査(TIMSS2003)の結果ではアフリカ3ヵ国が最下位グループ。学力の最低水準に達した生徒の割合も極めて少ない(ガーナ9%、南ア10%)。(ガーナ、南アはアフリカ諸国の学力比較調査では中位グループ。)

その大きな原因のひとつは教師の指導力不足です。日本では、教員養成課程から現職教員研修まで継続的、かつ、段階的に教師の能力向上を支援する仕組みがありますが、アフリカの多くの国では、教師の教科知識や授業実践能力の不足を補う研修が整備されていません。JICAは、教師が教育の質を左右する最も重要な鍵を握る存在だと考え、教師が継続して研修を受けられる仕組みづくり、質の高い研修の実施に対する支援を行っています。

(2)アフリカにおけるJICAの理数科教育支援の始まり −ケニアにおける取り組み−

JICAは、ケニア教育省と協力して1998年から10年間「中等理数科教育強化計画」を実施し、ケニア全国の中等理数科教師約2万人に対する研修を実施しました。研修の結果、授業は大きく変わり、生徒が主体的に考える魅力的な授業が実現し、理数科に関心を持つ生徒も増加しました。このような変化は、教師が継続的に研修に参加することによって定着し、さらに校長や家庭による適切な支援があれば生徒の学力向上につながることが確認されました。

JICAは、単に研修を実施するだけでなくプロジェクト終了後も政府が継続的に研修を実施できる仕組みを作ることを重視し、人材育成、安定的な財源確保、実施体制構築に取り組みました。ケニア政府は成果を高く評価し、研修を独自に継続していくことと、同様の研修を小学校の理数科教師約6万人にも拡大することを決定しました。JICAは、これを支援するため2009年より「理数科教育強化計画」を実施しています。

【写真】

教員研修で分かりやすい授業のための実習を行う理科の教員。これは赤ちゃん(オレンジの風船)が母親のお腹の中(ビニール袋)にいる様子を子どもたちにイメージできるような教材を身の回りで手に入る素材を使って作成しているところ。教材が十分にないアフリカでは、このように具体的なイメージを見せることが子供たちにとって大きな助けとなる。

(3)ケニアからアフリカに広がる理数科教育改善の波

ケニアで始まった取り組みは、理数科教育の学力低迷、理科系技術人材の不足、教師の指導力不足という同様の問題を抱えるアフリカ諸国へも普及されるべきであるという要望が高まり、ケニアの経験を元に、各国での理数科教育振興、教員研修制度構築等に関する技術交流、研修などが実施されるようになりました。

2001年にはアフリカ理数科教育域内連携ネットワーク(SMASE-WECSA:Strengthening of Mathematics and ScienceEducation - Western, Eastern, Central, and Southern Africa)が、ケニアを中心に設立されました。当初11ヵ国から始まったSMASE-WECSAは徐々に拡大し、2011年2月現在34ヵ国1地域が参加しています(オブザーバー含む)。ケニアは、SMASE-WECSAを通じて、発足の初期段階から積極的にアフリカ域内の国に対する研修の実施や、各国における現職教員研修計画の策定や研修教材の開発、研修講師に対するトレーニングなどの支援を行っています。

JICAは、SMASE-WECSA活動の発展のため、ケニアを拠点とするSMASE-WECSA加盟国に対する研修の実施、ケニアにおけるプロジェクト活動を通じて育成されたケニア人専門家のWECSAメンバー国への派遣、WECSAメンバー国間の経験共有のための会議・ワークショップ開催などを支援しています。これらの活動は、2008年に横浜で開催された「第4回アフリカ開発国際会議(TICADIV)」で発表された日本政府としてのアフリカ開発に対する貢献策のひとつとして位置づけられています。

アフリカの教育開発(基礎教育分野)に向けた日本政府/JICAの取り組み目標 −TICAD IV横浜行動計画(2008年5月)より抜粋−