はじめに
1.教材作成の背景
世界的にSTEAM教育の重要度が高まり、理科教育の重要性が注目を浴びる中、多くの途上国の学校現場では、生徒が積極的に発言したり、生徒同士が議論したり、実験結果を予想したりするような生徒が能動的に参加する授業が行われていないのが現状です。これに対してJICAでは、今回紹介する「仮説実験授業」が一つのアプローチになり得ると考え、動画を作成しました。
2.仮説実験授業とは
「仮説実験授業」は、科学上の最も基礎的な概念や原理・原則を教えることを意図した授業です。仮説実験授業では授業の内容を規定した「授業書」と呼ばれる教材を用います。「授業書」は、生徒が科学的概念を理解できるように問題群が適切に配列されており、これに沿って授業を行うことによって、教員の能力や経験に大きく影響を受けずに一定の成果を出すことが意図されています。
仮説実験授業では、教師は初めに実験器具など「問題」の具体的な状況を説明します。その後、実験結果について複数の選択肢が与えられ、生徒はその中の一つを選び、選んだ理由を考えるよう指示されます。理由が発表され、議論が行われた後、教師が行う演示実験により、選択肢の正誤を確認します。
目の前の具体的状況や実験に関して結果を予想するため、すべての生徒が自分の意見を持つことが可能になります。そして、自分が選んだ理由を他人に説明したくなったり、自分と異なる選択肢を選んだ生徒がいると、その生徒がなぜ自分と異なる選択肢を選んだのかに関心を持つ等、生徒が発言したくなるインセンティブが働きます。
この仮説実験授業を通して、生徒の「素朴概念・誤概念」(生活経験から得られた経験的概念で科学的には正しくない概念)を科学的概念に変化させることを意図しています。さらに、この授業を通して、生徒は、未知の問題に対する仮説を立て、仮説を実験により証明する科学的態度や方法を習得することができます。
実際の授業の流れは以下の(1)授業動画でご覧いただけます。
教材と使い方
このサイトには、以下の6つの教材・ガイドがアップロードされています。なお、以下の6つの教材はすべて英語版です。
PDF版の教材・ガイド(下記(2)、(3)、(4))はそれぞれのリンクから直接ご覧いただけます。動画教材((1)、(5)、(6))については、下記リンクからJICA-VANの「JICA-Net Library」という動画の一覧画面にアクセスいただき、「仮説実験授業「吹き矢の力学」」が掲載されている箇所にスクロールいただくことで動画を選択いただけます。
How To Teach Hypothesis–Experiment Class (HEC)
以下に紹介する仮説実験授業「Introducing Dynamics by Blow-Dart Experiment」を、ケニアの中等学校(secondary school)において、JICA海外協力隊員(日本人ボランティア)がケニア人生徒に対して行った授業を撮影したものです。1時間程度の授業を2回にわたって(問1~問7)実施したもののうち、2時間目の授業(問5~)を撮影したものを30分弱になるように編集しました。後半になると、生徒が積極的に発言している様子が見られます。この動画を見ることで、仮説実験授業がどのような授業なのかを知っていただけます。まずはこの動画をご覧ください。
ストローと綿棒で作られた「吹き矢」を使った実験を通して、力積の概念を学ぶ授業を実施するための授業書です。7つの問題とそれぞれの問題に関する選択肢および解説が43枚のスライドにまとめられています。これらの43枚のスライドに沿って授業を実施します。
上記(1)の43枚のスライドを使って授業を行う際に必要な準備や授業実施上の留意点等について書かれたガイドです。授業を行う際には、まずはこの授業実施用ガイドをご覧ください。
仮説実験授業全般についての説明が書かれたガイドです。(3)を読めば(2)の授業書を使った授業を行うことは可能ですが、仮説実験授業一般についての知識や留意点が書かれているので、時間に余裕がある方は、ぜひこちらもご覧ください。
Animated HEC Classbook for "Introducing Dynamics by Blow-Dart Experiment"
上記(2)のスライド型授業書と同じ内容をアニメ動画として編集したものです。プロジェクター等、動画を映すことのできる環境がある場合、こちらを使って授業を行うことが可能です。アニメーションを使っているため、解説が理解しやすくなっています。
Blow-Dart Experiment for Hypothesis–Experiment Class (HEC)
上記(2)や(5)の授業書を使って授業する際に必要となるすべての実験を、実際にケニアの中学校で実施し、撮影したものです。実験器具が入手できない場合や、実験を準備する時間が取れない場合などに活用していただけます。
【教材に関する注意事項】
・問題1について、(2)スライド版授業書と(5)アニメーション版では問題の内容が異なります。
・スライド版授業書の方が問題が簡素化されているので(※)、問題1については(2)スライド版の使用を推奨します。
・なお(6)実験動画は(5)アニメーション版授業書に対応しています。
(※)授業書を改訂する過程で、問題1の内容を、吹き矢に初めて触れる子どもにも分かりやすいように改訂しました。アニメーション版授業書は改訂前の問題1に基づいて作成されたため、問題の内容が異なります。
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