公務員として有能な人材の確保をベトナムと共に ~公務員採用試験改革プロジェクトの現場から~

2024.08.19
ベトナム政府は、現在、行政改革を進めていますが、その一つの柱として「公務員制度改革」を掲げ、公平で高い倫理観を持って国の発展に貢献する有能な人材の確保を目指しています。 この「公務員制度改革」の中で、ベトナム政府は日本の公務員制度や採用方法に注し、特に国家公務員採用試験における「基礎能力試験」と「人物試験」に対して強い関心が示されました。従来のベトナムの公務員採用試験(全省庁・地方省の公務員などの採用試験)は、第一次試験(筆記試験)と第二次試験(筆記試験+面接)により実施されていますが、筆記試験は知識問題(政治・行政等に関する知識、各職種に必要な法律的な知識など)であり、面接は専門知識などに関する口頭試問です。そのため、日本のように思考力を問う問題を出題することや、面接で人物面を見ることは行われていません。
JICA では、ベトナム政府の要請もあり、これまで日本の人事院の協力のもとに日本型の公務員採用試験に関する知見の提供を行ってきました。
日本から提供された知見をもとに、「公務員制度改革」をさらに進めるために日本型の公務員試験を取り入れたいというベトナム政府からの要請を受け、2022年から本プロジェクトが始動しました。
そして、同年には、ベトナム政府の公務員採用試験の第一次試験に「思考力を問う問題」(基礎能力試験の知能分野の問題)を導入することが決定し、続く2023年には、第一次試験の筆記試験を各採用機関に共通の検定試験とした上で、その内容を「一般知識問題+思考力問題」とする政令が公布されました。
また、第二次試験の面接についても、ベトナム政府から、日本の公務員採用試験と同様に受験者のパーソナリティをみる「面接試験」(人物試験)を導入したいという意向が示され、そのための政令の改正が進められました。その一方で、日本型の面接試験を導入するには、筆記試験以上に公平・公正であるための仕組みが求められ、新たに評価要素を含めた方式の統一化や面接官の研修が必要となります。そこで、ベトナムの関係機関からの意見などを参考にベトナム内務省とJICAが協力して、「ベトナムの公務員採用試験に適した面接試験の在り方」を検討し、2024年6月に面接試験の意義や統一的な方法を示した 「面接スキル・ガイドライン」が完成しました。
面接スキル・ガイドライン
筆記試験は全国統一試験になるので、内務省が運営・管理・実施を行いますが、面接試験は全国の採用機関ごとに行われます。そのため、適切な面接試験を行うには、各採用機関の面接官の研修・育成がカギとなります。そこで、ベトナム政府と協力して2024年7月~8月にかけてベトナムの3地域(北部、中部及び南部)で面接官の研修会を実施しました。
この研修会は、各地域における国の機関や省などの面接試験担当職員を対象にしたもので、日本の専門家が講師となり、 「面接スキル・ガイドライン」をテキストとして行われました。日本型の面接試験を理解しやすいように、スライドを使用した講習に加え、ビデオでの事例を教材としたグループ討議・全体討議、模擬面接の体験などの実習中心のカリキュラムとしましたが、活発にグループ討議が行われるなど参加者の関心の高さがうかがわれました。
また、参加者から「日本型の面接試験の意義や方法が理解できた」、「実習により面接官の難しさが体験できた」などの感想のほか、「当機関でも導入したいので評価項目の設定についてさらに詳細を聞きたい」という要望も示されました。
研修参加者による模擬面接の実施
面接方法を解説する渡辺チーフアドバイザー
受験者の評価についてのグループ討議
こうした思考力や人物を重視する日本型の試験方法の導入は、これまで知識を重視した試験方法を採用していたベトナム政府には大変画期的なことであり、その成果が期待されています。
現在、ベトナム政府は、共通検定試験をできる限り早期に実施するため、思考力をみる試験問題の作成・審査などの運用体制の整備を進めています。また、面接試験については、中央省庁はもとより各地方省・市などに対してもより適切な支援ができるように、日本の自治体での面接試験についても調査することを予定しています。
本プロジェクトは、第一次試験である共通検定試験が早期に円滑に導入できるように、また、各採用機関で第二次試験である面接試験をより効果的に実施できるように、試験の準備や実施における助言・支援、結果の分析方法の例示など、ベトナム政府の目標とする「公務員制度改革」の実現に向けて、今後もベトナム政府と連携した取組みを行っていきます。
政令の改正と面接試験の導入についての説明を行う Tu Long 副局長
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