インドネシア共和国(以下、インドネシア)は、全 34 州に約 300 の多様な民族を有する島嶼国です。近年、急速な経済成長を遂げてきましたが、5 歳未満児(就学前)の発育阻害 は21.5%と、2024 年までの削減目標である 14%には未だ達していません。加えて学童期(5~12 歳児)においては、18.7%が発育阻害、11.0%が消耗症、19.7%が過体重または肥満であり、「栄養不良の二重負荷」が課題となっています。そこで、2025 年 1 月より妊婦・5 歳未満児、小・中・高校生全てを含む約 8,000 万人を対象に栄養のある食事を提供する給食プログラムが段階的に開始されています。しかし、プログラム開始以降、食中毒などの課題に直面し、安全面、衛生面が栄養のある食事提供には不可欠な要素であるということが見直され始めています。
インドネシア政府(保健省)からの要請に基づいて実施される本研修では、給食プログラムのよりよい運営と子どもたちの栄養改善に向けて、日本の学校給食・食育の取組の技術的な経験・知見・ノウハウを学んでいただくことを目的としています。昨年9月には、東京ならびに長崎県で本研修プログラムを実施しました。以来、JICA本部調査団派遣などの機会も活用し、専門的知見やノウハウの提供を通じた支援、そして学びあいを行っています。
今年度は、自治体が中心となって地域を巻き込みながら実施する学校給食を実現する静岡県袋井市にて研修を実施し、以下の点を学びました。
①日本の食育・給食の施行に必要な法制度、体制、基準、人材などの仕組み
②衛生管理に基づいた給食運営の基本的な考え方と実践
③健康的な食習慣を形成するための食育の狙いと展開の仕組み
④自治体を中心とした、地域で支える持続可能な学校給食・食育の取組み
給食センターでは、学校給食の運営管理において、徹底された衛生管理やおいしい給食を提供するための様々な工夫を紹介いただきました。視察中、学校から回収した食器の洗浄に関心が集まりました。インドネシアの給食プログラムでは、回収したトレーは、食べ残しとともに洗浄担当者が手で一枚一枚洗っています。これに対し今回の袋井市の取組みでは、おいしい給食を提供し、子どもたちが残さず食べることで食器がキレイに還ってくるとのことでした。食品ロスだけでなく、調理員の労働負荷も軽減することにつながることに、研修員たちは、「綺麗に食べることで子どもたちも洗浄負荷の軽減に貢献しているのですね、これも食育ですね!」と、感銘を受けていました。このように、調理員の目線で調理員一人ひとりの役割分担と作業プロセス、無駄のない連携から生まれる効率性などを、間近で見ていただきました。
今年度も、研修にはインドネシアの給食プログラムにかかわる複数省庁のみなさんが参加しました。2週間という時間を一緒に過ごし、さまざまな議論がおこなわれたことにより、研修員間の絆がより一層強まったようでした。また研修員からは、昨年度の長崎での学びをもとに作成された新しい国家ガイドラインの紹介があり、「去年の長崎での研修から帰国後に教育省と保健省でこのガイドライン作成に取組み、今週、まさに承認されるところだということを報告したい」と力強く話してくださいました。
そして最終日、「私たちも、ひとつずつやっていこう」「給食が食べ物以上のものであることを学んだ」などと、本研修での経験が彼らのものになっていることが共有されました。今後も、日本での学びがインドネシアの給食提供に活かされることとなり、今後子どもたちの栄養と学びの向上につながることを期待しています。
給食時間を終え、子どもたちと交流
6年生の道徳の授業に参加しました
給食センターで大量調理のノウハウを視察
給食センターでアレルギー対応食の準備を視察
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