JICAの事例紹介

ブータン国「全国総合開発計画2030策定プロジェクト」

「都市の過密・地方の過疎-地域開発アプローチ」

「幸せの国」として知られるブータンは、中国・インドの大国に挟まれ、ヒマラヤ山脈の麓に位置する国土約38,000平方キロメートル(日本の九州に相当)人口約75万人の国です。観光や水力発電(インドへの売電等)により経済発展を推進する一方、近年では、東部の農村部から首都ティンプーや国際空港のある西部の都市部への人口流出が顕著に見られ、東部地域の休耕地の増加や地方における伝統と文化の衰退を招き、また都市部への人口流入による交通渋滞や住宅問題が顕在化しています。

このような都市部での「集中と拡大」、地方での「流出と停滞」は密接に関連していることから、国土全体を俯瞰し、都市部と地方の問題を相互に関連づけて課題を捉える視点が必要になります。

また、地方での「流出と停滞」に対処するためには、地域資源を活用した基幹産業を育て、産業のすそ野を広げること、流出している地域の需要を地域内で受け止める地域産業を育成することが重要であり、そのための経済回廊に係るインフラ整備や地方自治の各階層ごとの教育、医療、交通、商業、レクリエーション、市民サービス等の社会インフラ整備を含めた地域開発アプローチが必要とされています。

JICAは地域開発の観点からブータン全域を対象とした全国総合開発計画の策定を支援しました。

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急速な一極集中による都市内の渋滞(首都ティンプー市内)

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地方の過疎化と耕作放棄地(パロ市)

「価値観の多様性に基づく都市・地域の将来像-開発のオルタナティブ」

ブータン全国総合開発計画の策定において、ブータン国憲法に示された国家のアイデンティティや望ましい国家像を踏まえた開発の方向性を検討するため、戦略的環境アセスメントの一環として、ブータンの開発課題の解決や国民総幸福量(Gross National Happiness。「以下GNH」)の最大化を目指したいくつかの開発代替案を作成しました。

開発代替案の検討・最終化においては、ブータン全20県の地方政府及び住民の代表者とのステークホルダー会議を行い、参加者との協議を踏まえ、GNHの最大化に最も寄与するひとつの開発の方向性を纏めました。

「国土・空間計画の必要性-地域総合開発マスタープラン」

その開発代替案を具現化する国土・地域構造を提案し、各セクターが分掌している利用目的毎の土地利用に関する諸制度・計画を統合的に調整するための土地利用計画およびセクター毎の開発指針を策定しました。またそれらを具体化するための優先プロジェクトを提案しています。

この事例にみられるように、ニューアーバンアジェンダの実施や国土・地域計画プラットフォームとの連携も踏まえ、JICAは相手国実施機関のオーナーシップを重視し、多様な関係者を巻き込み、相手国関係機関によるマルチセクターの計画策定を支援していきます。