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福島県双葉郡双葉町  ―人々の帰還、復興に向けた道筋。福島の経験からウクライナの復興を考える― 2024年2月

2024.09.05

JR双葉駅から撮影した風景。町は駅を中心に庁舎を建設する等、まちの再建・復興に取り組んでいる。

ロシア軍によるウクライナへの侵略は長期化し、収束のめどは立っていません。しかし、大きな被害を受けたインフラの迅速な復旧や中長期的な都市復旧計画の策定は、戦禍の中で生きる人々の生活を支え、停戦後、いち早く復興に取り組むためにも重要です。


特に戦線に近い東部地域の自治体にとっては、都市の迅速な復旧に加え、どのように住民に医療や教育といった社会サービスの提供し、また避難した住民の自発的帰還を促すかといった課題に直面しています。


JICAは2023年3月に緊急復旧・復興プロジェクトを開始し、電力やがれき処理などの分野での機材供与や都市の迅速な復興・開発に向けた地方自治体の計画策定を通じて、ウクライナの復旧・復興を支援してきました。

ロシア侵攻により破壊された住宅


この一環として、2024年2月に、地方・国土・インフラ発展省などの中央省庁幹部と地方自治体の副知事、市長らを招き、東日本大震災からの復旧・復興に係る経験と取り組みを共有しました。プログラムの中で、ウクライナ一行は福島県を訪問。原発事故で長期にわたり住民が避難を余儀なくされた双葉町を訪れ、復興住民の自発的機関に向けた

原発事故で長期にわたり住民が避難を余儀なくされた双葉町を訪れ、復興と住民の自発的帰還に向けた施策などをテーマに、双葉町と意見交換を行いました。

ウクライナ一行と双葉町の意見交換の様子。

双葉町 伊澤史朗 町長 ―復興プロセスにおいて失敗しない方法はない。大切なことは住民の声をよく聞くこと。そして迅速かつ柔軟な対応を行うこと―


双葉町の震災前の人口は約7,000人でした。2022年8月の避難指示解除により町内に居住が可能となり、視察時においてはそれから約1年半が経過した今、町内居住者は約100人です。

双葉町の伊澤町長からは、復興において重要なことは、自治体による「自発的住民帰還促進と復興計画策定の迅速な着手」との説明がありました。

双葉町 伊澤町長




伊澤町長:「ウクライナの皆さんには、双葉町の経験を踏まえて、『避難されている方々の帰還の開始、復興の着手はいち早く行った方が良い』ということをお伝えしました。避難を余儀なくされた自治体は双葉町以外にもありますが、いずれも避難指示解除は双葉町よりも早く実現しており、住民の帰還率は避難指示解除までの期間と関連していると思われるからです。



双葉町は原子力発電所に近かったこともあり、戻れる状況になるまで10年以上かかりました。町民からも『もう少し戻れるようになるのが早ければ戻っていたのに』といった声も聞かれます。」


また、意見交換の中で、ウクライナ一行からの、「復興における失敗は何か、失敗しない方法は何か」という質問に対し、伊澤町長からは「失敗しない方法はない。しかし、多くの人の声をよく聞き、信頼出来る人に相談すること。最後は自治体として判断し、決めたらやり通すことは大切。ただし、その気持ちは大事にしつつも、途中で改善点に気づいたら柔軟に対応すること。」との助言がありました。その他にも、ウクライナ側からは、復興計画作成における中央政府と地方自治体との役割についての質問がなされ、伊澤町長からは「避難指示解除をする基準の策定は国が実施し、実際にどのようなエリアで避難指示解除を行うか、どうこれからのまちづくりを実施していくかは町が策定する」旨の説明がなされました。


伊澤町長は、今回の招聘プログラムでのウクライナ一行との意見交換を通じ、復興への強い想いを共有したと話します。


伊澤町長:「双葉町の事例は、必ずしも復興のお手本ではないかもしれません。ただ、住民の方を避難先から戻し、まちづくりを再開するという観点ではウクライナと共通する部分があると感じました。意見交換を通じて、ウクライナ側からは、侵攻直後の混乱からは脱し、町の復興について考えていかなければ、という強い熱意を感じました。ウクライナにおいても困難な状況ではあると思うが、少しでも多くの国民が故郷に戻れるよう、いち早く復興に取り組んでいただきたいと思います。」

ヘルソン市 ヴィタリ・ベロブロヴ副市長 ―計画は人のためにあるもの。住民に寄り添った復興を―


戦線から約4kmに位置する都市、ヘルソン市。2022年に一度ロシア軍に占拠されますが、ウクライナ軍の反転攻勢によりロシア軍を撤退させ、奪還を成功した都市です。他方で、戦線に近いことから、現在においても夜間はロシアからのミサイルで警報や爆撃音が鳴り響きます。市には他地域への避難な困難な高齢者や障がい者の方々が多く残っており、都市インフラの復旧と並行で、どのように住民への社会サービスを継続的に提供していくかが大きな課題となっています。


また、へルソン市から避難した住民に将来故郷に帰ってきてもらうために、自発的な帰還をどう促すことができるのかという点も中長期的な課題となっています

ヘルソン市 べロブロヴ副市長


ヘルソン市のベロブロヴ副市長は、招へいでの学びについて次のように話します。


ベロブロヴ副市長:「福島県の視察を通じて、へルソン市から避難した住民の帰還促進、都市復興に向けた施策について多くのヒントが得られました。自治体からは、復興事業における成功例のみならず失敗例についても共有いただけました。特に伊澤町長からの『迅速かつ柔軟な復旧・復興計画の策定が重要。また住民と対話すること。』といった助言は非常に重要であると感じました。時間のかかる復旧・復興計画策定は、今から準備を進めていきたいと強く感じました。」



また、双葉町の都市復興計画について、産業団地整備等の産業振興による復興を進めている双葉町と教育施設、医療施設等の生活インフラの再建による復興を目指す大熊町の視察を通じ、以下のように話しました。



ベロブロヴ副市長:「福島県の経験から、住民帰還には、住宅、生業、公共サービス、教育、医療、福祉、商業等の一体的な整備、住民の声をよく聞きニーズを充足することが必要で、一つも欠くことができないことを学びました。市の計画や政策は、住民のためにあるべきものと考えます。計画策定の過程での住民とのコミュニケーションをどのように促すかは非常に重要な点であると考えます。」

双葉町一行とウクライナ一行。平和を祈願し、双葉町からウクライナ一行に、双葉ダルマが贈与されました

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