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栃木県宇都宮市を訪問しました~芳賀・宇都宮LRTの視察~ 2024年9月

2024.09.25

JICA 都市・地域開発グループは、2024年9月4日、課題別研修「スマートシティ実現に向けた手法・アプローチ」の同行の一環で、開業1周年を迎えた芳賀・宇都宮LRTの視察と講義のため、栃木県宇都宮市を訪問しました。

宇都宮ライトライン




芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)は、宇都宮駅東口(宇都宮市)~芳賀・高根沢工業団地(芳賀町)を結ぶ、全長14.6km、総工費684億円、19停留場、5つの交通結節点を有し、1編成3両構成で160人の乗車能力を誇る、次世代型路面電車です。

LRT(次世代型路面電車システム)とは、「Light Rail Transit(ライト・レール・トランジット)」の略称で、各種交通との連携や低床式車両(LRV)の活用、軌道・停留場の改良による乗降の容易性などの面で優れた特徴がある次世代の交通システムのことです。従来の路面電車と違い、騒音や振動が少なく、快適な乗り心地など人と環境に配慮されています。ライトラインは、高いデザイン性を備えるとともに、芳賀・宇都宮地域は雷が多いことから「雷都」と呼ばれ、車体等は雷をイメージした黄色を採用しました。




「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」が公表した、沿線住民に実施したライトラインの整備効果についてのアンケート結果では、通勤・通学時の満足度の向上や中心市街地への来訪頻度UPによる中心市街地の活性化など、様々な効果がみられるとのことです。




宇都宮市総合政策部交通政策課鈴木課長補佐からLRT事業の背景を伺いました。


「宇都宮市では、モータリゼーションの進行などにより、バスの利用については1969年に1日40万人の利用者が現在では5万人を割り込む中、市民の約7割が自動車で移動するなど、過度な自動車依存社会になっています。

一方では超高齢社会の到来により、高齢者の事故件数の増加に合わせて運転免許返納者が増加するなど、車がなくても移動できる交通環境の整備が求められております。



また、鬼怒川を挟んだ東部には内陸型工業団地としては最大級の面積を有する清原工業団地などが立地し、経済活動が活発化する一方で、朝夕の通勤渋滞も深刻化するなど、こうした移動にかかる課題解決が、住みやすいまちの実現には必要であると認識してきたところです。」



以上のような課題認識のもと宇都宮市の将来の都市像として、“ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)”の実現を標榜しています。
「NCCの実現に向けては、中心部や各地域に拠点を定め、地域の特性に応じた都市機能や居住を誘導し、拠点化を促進するとともに、 鉄道、LRT、バス、地域内交通などの階層性のある交通ネットワークによって、拠点間を連携・補完するネットワーク化の促進が必要です。①定時性、②快適性、③ユニバーサルデザイン、④連結性、⑤まちのシンボルとして優れているLRTは、その実現に向けた手段であり、まちのシンボルに関しては、色を市のカラーである黄色を採用、地元の大谷石等を駅の壁面等に採用するなどの工夫をしております。」

宇都宮LRT「ライトレール」路線図


「また、開業後の乗降客数は需要予測を大きく上回り、特に週末は需要予測の3倍を超えています。

利用状況としては、大型商業施設である『ベルモール』が立地する『宇都宮大学陽東キャンパス』停留場での乗降客が多く、また、工業団地に隣接し、民間開発業者により宅地開発された『ゆいの杜地区』では、26年ぶりに小学校が新設されるなど住民が大幅に増加しておりますが、そうした沿線乗客の需要も乗降客数の増に貢献しています。

2つの地元バス事業者もLRTに並行して走る運行ルートのリアロケーションに賛同し、そのうちの1つのバス事業者はLRT運営会社にも出資していただいています。」とご説明いただきました。




 LRT実現にアカデミアの立場から伴走し実現にご尽力された宇都宮共和大学シティライフ学部特任教授(宇都宮大学名誉教授)の古池先生にもJICA事業への示唆に係るお話を伺うことができました。

LRT車内の様子


「LRTの実現は難しい道のりだったと思います。当初はモノレールが可能性として検討されていましたが、建設費やバリアフリーの観点からLRTが採用されました。

2003年にLRTの名付け親であるVuchic教授が来日された際に宇都宮に立ちよっていただきました。
当時の市長を表敬され、また県と市の共催による「街づくりと都市交通について」で基調講演をいただく等の様々な活動を通じて、LRTの機運が盛り上がっていきました。


2004年頃から宇都宮商工会議所青年部などの有志でLRT推進の市民団体が立ち上がり、賛同の輪を広げる努力がなされました。
また、宇都宮市が、広報などでLRTをわかりやすく説明する記事を掲載し地道に説明を続けました。」





 視察には、宇都宮市建設部LRT整備課協働広報室の鈴木副主幹に同行いただき、開業までの様々なご苦労をお伺いしました。


「行った住民説明は大小約1000回にのぼります。安全性の懸念が最大の課題でした。特に、小学校付近の安全対策には3年間かけて、懸念に対し、ひとつひとつ安全策をご説明してまわりました。

本当の意味で、LRT事業に賛同を頂けたのは、実際に走る車両を目で見て確認できてからのように感じます。子供たちが、ライトラインの車両が格好いいと話し、親御さんも喜ぶ子供達を見て喜んでくれました。

ライトラインは宇都宮市民の誇れる存在になると感じます。」



構想から30年の時を経て実現された芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)。

開業まで、実に多くの関係者のドラマがありました。

宇都宮市の経験は、日本で大いに注目されていますが、今回の講義、視察を通じ、軌道系の交通手段の導入を検討している途上国の都市にとって、また、その検討を支援する日本のODA関係者にとっても、大いに参考になると思いました。

皆さんも、今度の週末は、宇都宮でライトラインに乗って、宇都宮の新しいまちのシンボルと、その歴史を感じてみませんか。

宇都宮駅東口から見たライトライン

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