【外国人材】人材の採用と育成をトータルで見据えた仕組みを構築 ~いづみ自動車~
2025.03.07
大型車の整備、板金塗装、架装、電装整備などを総合的に手がけるいづみ自動車(田村圭社長、千葉県市原市)は、人材の採用と育成をトータルで見据えた仕組みとして「すごシリーズ」と称したプログラムの構築に着手しました。
田村社長(右)、田村取締役(中央)、経営管理グループの清水さん(左)
採用は「すごサイ」、新人教育は「すごトレ」、ステップアップ教育は「すごメカ」と名付けて社内で運用しています。
国内の自動車整備士養成校では一般的に大型車整備の教育プログラムは設けていないケースが大半です。
大型車を扱う同社では、大型車整備を担う人材の採用から大型車独自の機構を学び、より安全で品質の高い整備ができる人材を育成するために、国籍に関わらず、一貫したサポートメニューを展開しています。
同社では2017年から外国籍スタッフの採用を本格化しました。それ以前から日系ブラジル人などのスタッフが在籍。
「これまでに27人ほどの外国人を採用してきたことで、注意点やノウハウなど、の質問や会社見学、相談を受けることが非常に多い」と田村社長は話します。現在はメカニックとしてネパールとスリランカ籍のスタッフが17人ほど在籍しています。
在留資格は技術・人文知識・国際業務。近くスリランカ国籍の技能実習生の受け入れも開始します。
同社が重視するのは外国人も日本人も区別なく対応すること。
かつては外国籍スタッフに対しての手厚いサポートに対して日本人のスタッフから不満が出たこともあったそうです。
そのときの経験から、同社では国籍や年齢に関係なく、社員に対して月に1万円の家賃補助を行っています。
ただ、ここ数年は人材の採用が一層厳しくなってきたことを痛感しているそうです。大手資本を中心に、奨学金がある企業にメカニック希望者が動いてしまうことが要因の一つと言えます。
タパ・ニラザンさん(右)とサンドゥン・クマーラさん(左)
そこで同社が強化したのが会社のブランディング活動の一つとして開始した採用活動「すごサイ」です。
すごサイは〝すごいスタッフ採用育成プロジェクト〟の略称。
会社の特性や強み等のアピールポイントをまずは自社で棚卸し、この会社であれば成長ができると実感してもらえるような採用活動に向けた取り組みです。
整備士養成校の学生などに向けて行う会社説明会ではすごサイのメンバーが出向く
すごサイのメンバーは原則、社内から公募しました。自ら考え、採用活動に参加し、採用にモチベーションを持って取り組むことができる人材を集めました。
その結果、すごサイのメンバーには外国籍メカニックも参加しています。その一人がスリランカ籍のサンドゥン・クマーラさんです。
整備士養成校での会社説明会では、すごサイのメンバーとして、サンドゥンさんも同行します。外国人同士であっても基本は日本語で説明をします。
サンドゥンさんは「給料や手当て、休日など、学生が知りたい内容は必ず分かりやすく伝えている」と話します。さらに「上の人が下の人を引っ張り上げる仕組みがある」ことなど、成長ができる環境であることなども話すといいます。
経営管理グループ 経営企画・人事担当の清水紀子氏は「外国人スタッフが生き生きと活躍している姿、現場の声を実際に聞けることなどが外国人だけでなく、学校の先生や日本人の学生からも好評」と話します。
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すごトレは座学と専用の実習スペースでの実技で大型車の車検整備に特化したトレーニングを行う
新人の入社後には1カ月間のトレーニング「すごトレ」をメニュー化しています。
同社オリジナルの114ページにわたるテキストと実技を両輪で実施。受け入れ検査から分解整備、中間検査まで、座学と実車で学びます。すごトレの講師を5年ほど務めているネパール籍のタパ・ニラザンさんは、実技だけでなく、テキストがあったほうが理解しやすいのではないかと会社に提案したといいます。
提案の背景についてニラザンさんは「現場で話すだけでは理解できなくても写真と文字があると理解がとても早くなる」と自らの経験も踏まえたうえであることを明かします。さらに心がけているのは「簡単な言葉で伝えるようにしていること」。さらに、先輩から教えてもらったことは後輩に伝えて、けがなどがないように徹底しているそうです。
メカニックが現場に配属後には大型自動車整備士のキャリアステップのプログラムとして「すごメカ」を設定。自動車検査員までの育成プログラムと位置付けます。項目をクリアするごとに給与にも反映させ、技術の習得とともにやりがいや待遇、責任感の醸成にも役立ちます。
同社が時間や労力、金銭的コストをかけて採用・育成を一貫して行うことについて田村妙子取締役は「日本の物流を成り立たせ続けていくために必要なことだから」と強調します。
だからこそ〝大型車の稼働を止めない〟ため、そして、品質の高い整備を維持し続けていくためにも安定的な採用とスキルを磨くための教育・育成は不可欠だと考えています。
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同社はこのほどホールディングス化しました。
これにより事業部や拠点ごとに子会社化することも可能となり、田村社長は「外国籍スタッフが社長になる可能性も例外ではない」と話します。合わせて、現在在籍する外国籍のメカニックが帰国後に整備の仕事をしたいと思ったときに同社の海外拠点として展開することも視野に入れています。
同社の取組みは外国人材の受け入れによって、組織のブランディング、育成スキームの構築、今後の事業発展などを見通すことができる可能性を秘めた事例といえそうです。
JICAでも外国人材向け自動車整備基礎教材「自動車整備の日本語」やイラスト集の無料ダウンロードをウェブサイトから行うことが可能です。
同社オリジナルのテキスト作りにも携わった清水氏は「これは分かりやすい。当社で使用しているテキストと合わせてこちらも使用したい」とコメントしています。
社会基盤部 都市・地域開発グループ: imgge@jica.go.jp
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