【外国人材】国籍や性別、年齢関係なく、個性を発揮することができる環境づくり(富山編)
2025.03.17
ピューマは富山県内に16拠点を展開する
富山県内でオートバックス店舗を複数展開するピューマ(恩田学社長、富山県射水市)では、国籍や年齢に関係なく、個性を発揮することができる環境づくりを推進しています。そして、人材の採用・定着が難しくなってきたからこそ重視するのがモチベーション向上策です。
外国人材については、〝労働力“として受け入れや採用・育成するのではなく、個人の適性やモラルレベル・技術・リーダーシップなどを見極め、役割を付けることで賃金の引き上げとともにモチベーションの向上につなげています。
同社では現在フィリピン国籍の技能実習生が17人、特定技能1号が10人、特定技能2号が2人在籍しています。
現在275人のスタッフのうち、約1割は外国籍スタッフ。
外国人材の受け入れ実績には歴史があるため、既存社員についても〝外国人だから〟という目を向けることなく自然に受け入れる風土があることが特徴の一つといえそうです。
ただ、課題もありました。それは社員の中に漂う「外国人材はあくまで一時的な労働力で、長く会社にいるわけではない、という意識」です。そのため、リーダーシップをとるのはあくまで日本人で、外国人材は頼まれたことを行う、という役割ができあがっていました。
笹尾良幸 人事総務・人材開発部長
店舗数とともに顧客数も増え、サービスメニューを拡充し、会社は成長しているものの、徐々に人材の採用が難しくなっていることを実感していた笹尾良幸人事総務・人材開発部長は、外国人材について
「労働力として受け入れを続けるのではなく育成し戦力として活躍できる場づくりが必要」
と考え、評価制度や待遇、モチベーション向上策などの見直しに着手しました。背景には特定技能人材が賃金を理由に他社に移ってしまったこともあったそうです。
モチベーション向上策としてまず、衣食住のうち、住環境の満足を高めることに着手しました。
一般的にアパートなどを複数人でシェアして使用してもらうケースが多いのですが、同社は1人1部屋としました。
また、自動車整備士資格3級を取得したスタッフに対しては、一緒に内見をして部屋を決めるなど、「『資格を取得すれば良いことがある』と資格取得を目指してもらう環境」(笹尾部長)を整備しました。
さらに、同社の仕組みとして、日本語能力試験や自動車整備士資格を取得すれば、手当てが付くため、取得を促しています。
こうした環境整備に欠かせなかったのがオートバックスグループで自動車整備士の育成支援や人材採用支援、整備士派遣などを手がけるチェングロウス(湊川満也社長、東京都江東区)です。
ピューマでは日本語能力試験のN3を取得したスタッフが増えていくにつれ、「自動車整備士資格3級にチャレンジさせたいという気持ちが募っていった」(笹尾部長)と振り返ります。
趣味はスノーボードのマイケルさんは富山での生活を満喫しているという
最初はチェングロウスが展開する日本人向けの整備士資格取得の講習に参加してもらい、次のステップでは外国人専用クラスの講習の開設を依頼し、1カ月の集中講座に参加させ、3級資格の取得を目指すための支援を行いました。
ピューマは、育成人材が集中講座に出向いている間の人手の融通や確保、給与、研修費、宿泊費など、負担は少なくないものの「この先も安心して働き続けてもらうためには資格は積極的に取ってもらいたいし、取らせてあげたい」(笹尾部長)と言います。
2019年に来日し、同社で特定技能1号として働くフィリピン国籍のジアンさんは、支援制度を活用し、自動車整備士資格3級を取得しました。ジアンさんは「1カ月間の講習はとても勉強になった」と振り返ります。
17年に来日したフィリピン国籍のマイケルさんも自動車整備士資格3級を取得し、特定技能2号として働いています。
「最初は専門用語も分からず、単語の意味も分からなかったが、先生たちが一つひとつ丁寧に分かるまで教えてくれた」と話します。
「日本の料理はフィリピンでも人気」と話すジアンさんの好物はラーメンや焼き肉が好きだという
同じくフィリピン国籍のジェナルドさんは17年に来日。現在は特定技能2号として働き、自動車整備士資格3級、日本語能力試験はN3を持ちます。
「短期講習や講習前の予習など、勉強はたくさんした。とくに『燃焼』などの専門用語が難しかった」と話します。笹尾部長は「通常の現場仕事の中では使わない専門用語が資格試験では出てくる。
会社でそこの部分までサポートをすることは現実的に難しく、チェングロウスのサポートがあってこそ」と述べます。
ジアンさんは現在、車検専門施設で働いており「分からないことが日々分かるようになることが面白い」と成長を感じながら勤務します。
働き始めた当初こそ、日本語の意味が分からず「言いたいことが上手に伝えられず悲しい思いをすることもあった」といいますが、現在は「分からない言葉も多少はあるが不便を感じることなくコミュニケーションを取ることができるようになった」と話します。
「整備を学ぶならば日本のレベルが一番だと思う。先輩にもっといろいろと教えてもらい、自分のレベルを引き上げていきたい」と考えています。
マイケルさんは技能実習生として来日した当時について「最初は日本人の会話のテンポについていくことができず、何を言っているか分からず不安だった」と振り返ります。
そこで「日本語を勉強しなくてはだめだと思った」と言い、会話の中で分からない言葉はメモを取り、動画やアプリを活用し、復習するように心がけました。
「日本人も人によって発音や表現の仕方が異なり、今でも分からない言葉はたくさんある」といいますが、「コミュニケーションに不安はない」レベルになっています。今後、N2、N1の取得に向けて、さらに日本語力を高めていきたいそうです。
日本のアニメでは「NARUTO (ナルト)」が好きなジェナルドさんの好きな食べ物は天ぷらだという
「子どものころから日本へのあこがれを持っていた」というジェナルドさんは「日本のアニメや歌で言葉を学んでいた」と話します。
スタッフ間の日々の会話の中でも分からない言葉があれば「どう使うのかを聞き、自分でも使ってみる」ことで日本語レベル、語彙力を増やしています。
後輩育成にも熱心に取り組んでおり、「自分が間違えたポイントを経験として伝え、分かりやすく伝えることを心掛けている」そうです。今後さらに自動車整備士資格2級、1級の資格取得を目指したいと考えています。
ピューマでは、外国籍社員の役職位の導入も検討しています。
同社の取り組みは労働力としてとらえるのではなく、長く働き続けたいと本人が思える環境整備や賃金体系などを整えることでモチベーションにつなげている事例といえそうです。
マイケルさん(左)とジアンさん(右)
ジェナルドさん
社会基盤部 都市・地域開発グループ: imgge@jica.go.jp
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