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【開催報告】JP-MIRAI相談・救済プロジェクト 事業報告会

2024.07.24

2022年5月から、独立行政法人国際協力機構(JICA)が「JP-MIRAI外国人相談・救済パイロット事業」として外国人相談窓口の運営を試行してきました。2024年5月からは、一般社団法人JP-MIRAIが実施主体となって、同窓口は引き続き日本在留中の外国人の方にご利用頂けます。

この度上記パイロット事業の成果振り返りを行うことで、今後の相談窓口の役割への期待をまとめ、更には将来的にJICAが行う開発援助事業への示唆を得るために、2024年5月13日、「JP-MIRAIアシスト(外国人相談・救済パイロット事業)」事業報告会をオンラインにて開催し、125人の方にご視聴頂きました。

以下、同報告会での報告やパネルディスカッションの概要をご紹介します。

1.JP-MIRAI外国人相談・救済事業の歩みと今後の活動(報告)
(1)「JP-MIRAI相談・救済パイロット事業ご報告」
   独立行政法人国際協力機構 国内事業部 外国人材受入支援室長 小林 洋輔


JICAは、一般社団法人JP-MIRAIや特定非営利活動法人国際活動市民中心(CINGA)と協力し、2022年5月から約2年間、「JP-MIRAIアシスト」として外国人向けの多言語相談窓口を運営してきた。この窓口は、伴走支援や専門相談を提供し、更に東京弁護士会の協力でADR(裁判外紛争解決手続)の利用案内も行った。本事業の目的は、①国連「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、「指導原則」)」に基づく人権デュー・ディリジェンスの仕組み確立、②効果的な相談・救済メカニズムのモデルケース形成、③送出国である開発途上国における課題抽出であった。

効果的な救済は、アクセス可能性を担保し、予防、是正、抑止といった要素を備える必要がある。特に、外国人労働者が救済に「アクセス」する際の障壁を克服すること、企業による人権デュー・ディリジェンスと連関して、「予防」に繋がる救済を提供することが重要。

約2年間で、3,000件近い相談対応を行った。全国の一元的相談窓口と比較して、労働に関する相談が多い傾向が見られた。JP-MIRAI事業として周知したことで、労働者がアプローチしやすかったと考える。相談例として、退職時の賃金未払い問題や、妊娠後の雇用主からの圧力に関する相談を紹介したい。これらの相談には関係機関や弁護士への相談、精神科受診の調整など、多面的な支援を提供した。他方で、ADRを通じて雇用主側の認識改善と将来の問題を未然に防止することを企図したが、利用実績は得られなかった。また、送出機関との契約条件が課題となったケースでは、日本国内の取組みだけで救済へのアクセスを確保することの困難さが示唆された。

本事業は、相談対応の実績を積み上げ、伴走支援等による救済へのアクセスの確保など一定のモデルを提示したが、是正的・予防的な救済の実現においては課題も残った。例えば、事態が進展してからの相談が多く、企業との対話の機会が制限され、企業の人権デュー・ディリジェンスとの有機的結合については取組む余地がある。視認性・信頼性の更なる向上も今後の課題である。

本事業の課題・教訓を土台に、JICAは送出国における取組みに着手している。ILOとの協力により「東南アジア・日本間の移住労働における救済へのアクセス向上のための共同行動計画策定に係る情報収集・確認調査」が進行している。本調査では、送出前の段階での移住労働者の人権侵害にも着目し、労働者のエンパワメント、公正なリクルートメントの枠組みの整備、国家基盤型・非国家基盤型救済メカニズムの実効性向上を有機的に連携させて、国横断的に実現することを目指して、幅広いステークホルダーが取るべき共同行動計画を取りまとめることを目指している。

(2)「『ビジネスと人権』における相談・救済システムの位置づけ」   
    一般社団法人JP-MIRAI アドバイザー 中尾 洋三氏


JP-MIRAIアシスト事業は、企業の「ビジネスと人権」に関する取り組みに大きな意義を持つ。国連「指導原則」に基づき、企業には人権尊重、人権デュー・ディリジェンスを用いた人権侵害の予防及び苦情処理メカニズム(grievance mechanism)の構築が求められている。

「指導原則」が求めるデュー・ディリジェンスでは、ライツホルダー(権利保持者)との対話が重視され、潜在的なリスクの把握と問題への早期対応が求められる。これにより、人権侵害が予防され、苦情処理メカニズムが不要になる状態が、本来企業に求められるリスクマネジメントだと考える。企業側はライツホルダーとの直接的なコミュニケーションが得意ではなく、中にはこれをリスクと考える経営者もいる。ライツホルダーも信頼して相談できるかが分からず、孤立して悩みを抱える様子がみられる。

JP-MIRAIの相談・救済システムは、ライツホルダーと企業の橋渡し役を担う。経済産業省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」でも、ライツホルダーとのコミュニケーションで得られた情報は、潜在的な人権侵害リスクの評価に活用できると位置付けられている。しかし、雇用主とライツホルダーの直接的なコミュニケーションが不在のため、企業の人権デュー・ディリジェンスの実効性が確保できないと思われる。この点、JP-MIRAIアシストは、ライツホルダーからの相談を受けやすい仕組みになっている。2023年度の相談件数は2,000件を超え、労働問題が多く寄せられているが、生活に関する相談も多く、窓口への信頼の結果とも考えられる。生活相談に外部専門家が対応することで、受入企業の担当窓口の負担軽減となり、労働者側も気軽に生活面の相談ができるので、福利厚生の機能として位置付けることも出来る。

一般的に苦情処理メカニズムには、問題がこじれてから、ライツホルダーを支援する組合やNGOが企業に苦情として提起して動き出すものが多いので、問題をどのように処理するかに重点が置かれてしまう。そのため問題の再発防止・未然防止につながる根本原因への対応は二の次になりがち。JP-MIRAIアシストは相談者がアクセスしやすいシステムを提供し、寄り添った支援を行うことで、早期の問題把握と解決を目指すことができる。

近年、企業内部の不祥事が自浄作用で解決できず、社会に公になることで企業の存続にかかわるような事件が発生し、公益通報制度の重要性が指摘されている。リスク意識の低さが散見されるところ、相談者がSNSで容易に外部通報が可能となっていることを認識し、ライツホルダーの声をいち早く把握する仕組みを活用することが必要となる。

今後、JP-MIRAIはCINGAの助言を得ながら、外国人労働者への支援を強化し、企業側への働きかけを強化する。人権デュー・ディリジェンスの実効性を高めるため、JP-MIRAIアシストをご活用頂きたい。

2.パネルディスカッション「多角的な視点から捉える外国人相談窓口・外国人の救済へのアクセス~JP-MIRAIアシストの意味・役割・今後の展開~」

※以下、事務局にて要約した内容です。全体を確認されたい場合は以下の添付の動画をご覧ください。

【登壇者】
• 公益財団法人入管協会 業務執行理事/前出入国在留管理庁長官 佐々木 聖子氏
• 外務省 総合外交政策局人権人道課 企画官 松井 宏樹氏(当時)
• 駐日フィリピン大使館 アシスタント労働アタッシェ Barwin Scott P. Villordon氏
• ILO 駐日事務所 プログラムオフィサー 田中 竜介氏
• 一般社団法人JP-MIRAI アドバイザー 中尾 洋三氏
※モデレーター:特定非営利活動法人国際活動市民中心(CINGA)理事/JP-MIRAI外国人相談・救済パイロット事業・業務総括者 新居 みどり氏

パネルディスカッションの様子

(1)救済のあり方について
人権侵害は常に起こり得るという前提で、それを改善するためにどうするかを考えて、取組みを実行するべき。
• 救済の仕組みは存在しているが、「そこに辿り着ける人がどれだけいるのか」、「多くの日本人にとって当事者性がある問題だが、どれだけの方が関わっているのか」といった疑問がある。また、本来的には予防の仕組みの確立、総体的なデュー・ディリジェンスの拡充が重要
• 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」には救済メカニズムの要件が記載されているが、JP-MIRAIアシストは、利用可能性や持続的な学習源であること等の要件に合致し、予防に繋げるという観点から注目
• 苦情処理メカニズムを設置するのか否かに意識が集中しがちだが、設置だけで終わらず、実際に負の影響を特定して是正・救済まで図ることが目的とされるべき
• コンプライアンス意識の浸透だけでは拾いきれない侵害がある。被害者やステークホルダーが直接訴えることのできる苦情処理メカニズムを整備し、これを使って脆弱な人々の声を能動的に拾って一件一件の救済につなげること、また分析された侵害リスクの類型を社会に共有することで、課題解決に向けた社会リソースを集めることもできる。
• 苦情処理メカニズムの中で、未然に問題を防いだなど、少しでも前進したことを示す成果指標を取り入れるのも一案。
救済の制度構築は政府だけではなく企業や市民社会も一緒になって多様な方法を考える必要があり、対話が重要。
• 労働者ごとに置かれた状況が違うので、対話を重ねて一人ひとりの立場に立って何が必要かを考えることが効果的な救済に繋がる。
• 相談員が申立ての内容をどのように雇用主側に伝えて、実際に救済に結びつけるか、苦労することも多いと聞く。救済のプラットフォームを創り、触媒機能を果たす意義は、こうした現場での課題解決への貢献にもある。

(2)移住労働者の脆弱性や特性への着目等について
ビザの厳格性と滞在要件、社会的孤立、借金など、移住労働者の脆弱性が救済アクセスの障壁になることが多い。こうした人々の立場に自身が立った場合を具体的に思い浮かべた上で、必要な救済は何かを考えることが一歩目となる。
• 来日前から情報を共有し、入国時に丁寧に支援し、当人たちの自立性が高まるにつれて関与度を抑えつつ、いざというときのセーフティネットとして救済をするという一連の流れの中で、重要な砦として相談窓口がある。こうした苦情処理メカニズムが外国人の方に認知され、信頼される必要があると同時に、これを必要とする問題が生じていることを社会にも知ってほしい。
送出しの段階で違反行為が生じるケースがあるので、移住回廊を通じて救済のメカニズムが提供されること、本国に帰国後もそれが提供されることが必要。
• 団結権や団体交渉権がないと思っている労働者の方も多く、企業にも出発前や到着後に権利啓発を行うよう示していくべき。
•(現実の問題について)現場でのいじめ(bullying)の問題がある。外国人労働者が年配の方から被害を受けるケースがある。また、日本ではあまり起こらないが、雇用契約を審査する中で、その内容が実情とかけ離れていたケース、例えば技能実習制度で渡航して資格外の業務をさせられるケースがある。
労働者の「心」に着目すると、リクルートメントが開始した時点で支援が始まる意識になる。企業において外国人労働者を雇う際は、相手を知り、感謝をもって受入れて欲しい。それに対して外国人労働者も「心」をもって働き、企業のことを考えれば、両者にとってWin-Winの状態となる。

(3)政府の役割等について
• 政府は効果的な救済を確保し、保護をすること、帰国後も国境を越えた救済制度を確保することが求められている。
フィリピン人就労者は、自由に、様々な手段でMWOにアクセスをすることが可能。不平を受け取った場合、我々は労働者に話を聞き、裁判外紛争解決手続(ADR)として我々はSEnA(Single Entry Approach)と呼んでいる制度を活用し、雇用者と労働者双方の話を聞いて調整を試みる対応をしている。

(4)企業の役割等について
• 使用者も、被雇用者の救済へのアクセスの便宜をはかり、これを妨げてはならない。先に述べたアクセス障壁をいかになくすかが求められる。報復を禁止し、公平性と信頼性がある環境で申立てが処理されることを確保しなければならない。
• 日本の経営者の中には人権問題はセンシティブであまり触れたくないと思っている方が多いが、ビジネスと人権に配慮することが企業の競争力に繋がる。
• 国や企業が、労使紛争を未然に防ぎ、問題には早期に対応することが健全な経営に繋がると発信することが必要。
•(苦情処理メカニズムは)コミュニケーションのツールであり、企業側もその目的を考えないといけない。労働者の声を吸い上げて、早期に対応することがリスクマネジメントになって労働者の満足につながり、日本が労働者から選ばれる国となることに繋がる。
• 企業にとって、ライツホルダーからの相談に積極的に関われないとき、(JP-MIRAIを通じて)通訳者などの第三者が加わることで、リスクを感じずに情報を得ることが出来る。プラットフォームの中で問題の傾向などが共有されれば、予防を講じることも可能。
外国人材受入と外国人との共生社会は、両輪として考えるべきものとなった。正解はない問題と思うが、株主を含めて企業の方には、受入だけではなく共生についても考えて頂きたい。JP-MIRAI等に任せるだけではなく、色々な場で議論をして深化させていくべきこと。
• 広く情報が公開され、こうした議論が続くことをNPOの立場からも期待している。人権を保護しつつ、本人や企業が対話を続けられることが重要。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
                               以上

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